【書籍化】魔法のトランクと異世界暮らし〜魔女見習いの自由気ままな移住生活〜

猫野美羽

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157. フローライトダンジョン 3

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 日が暮れると、魔法のドアを経由してジェイドの街へ帰ることで、効率的にダンジョンに挑むことができている。
 
 ルーファスとナイトをお供に、リリは低階層で魔獣を倒していった。
 【生活魔法】で使う火魔法と水魔法を駆使して、グラスラビットやグラスマウスをこつこつと狩る。
 疲れてきたら休憩を挟みつつ、『雷撃』の指輪を使う。

「さすが大魔女だったシオンおばあさまからの遺産です。私の火魔法より、強い……」
『上級ダンジョンの宝箱に入っていたレアな魔道具だからね。当然さ』
「魔石の魔力を使い切ったら、俺が入れてやるから存分に使うといいぞ、リリィ」

 過保護なふたりのおかげで、安心してレベル上げに集中できた。
 
 レベルが上がると、ステータスの数値も上がっていく。
 異世界の住民の目からしたら、とんでもなくささやかで弱々しかったリリだが、辺境のダンジョンとここ、フローライトダンジョンで魔獣を倒したことで、劇的に変化していた。

 二日目も朝から夕方まで頑張って魔獣を狩ったリリは、魔法のトランクの家での夕食後、あらためてステータスを確認することにした。
 
「緊張します。……鑑定」

 自身のステータスを意識しながら、【鑑定】スキルを発動する。


<ステータス>
海堂凛々カイドウリリ(19)
レベル21
HP 200/1000
MP 450/300000
力 300
防御 300
素早さ 500
器用さ 800
頭脳  300
運 100

スキル 【鑑定】【翻訳】【弓術】
魔法  【生活魔法】【火魔法の素質】
    【水魔法の素質】
装備  【身体強化のネックレス】
    【雷撃の指輪】
    【結界のブローチ】
    【ストレージバングル】
    【マジックバッグ】
    【大魔女に祝福されしワンピース】
    【姿隠しのマント】
称号  【大魔女シオンの愛し子】
    【魔女見習い レベル2】


「レベル21! ステータスの数値が上がっていますね。嬉しい……」

 安堵のあまり、ソファに沈み込む。
 黒猫のナイトがぴょんと膝に乗って、褒めてくれた。

『すごいね、リリ! よく頑張った』
「ああ、しかも【火魔法の素質】と【水魔法の素質】も芽生えているとは」

 笑顔のルーファスに頭を撫でられて、くすぐったい気持ちで微笑み返した。
 使い魔の三人も手を叩いて喜んでくれている。
 が、ステータスの内容が把握しきれていないリリは首を傾げた。

「その、魔法の素質とは何のことなんでしょう?」

 属性魔法を覚えることができたのかと思ったが、微妙にニュアンスが違う気がする。
 首を傾げるリリにルーファスが「魔法の素質が芽生えた者は精進すれば、その属性の魔法を自在に扱えるようになるんだ」と説明してくれた。

『つまり、リリは自力で魔法を覚えることができる可能性が高いってコト。よほどの才能がないと、難しいことなんだよ?』

 ナイトが補足してくれて、ようやく理解した。

「そうですわ、リリさま! ニンゲンは魔法のスクロールの力でしか、属性魔法を使うことができないって、以前にシオンさまから聞きましたもの」
「リリさまは魔法のスクロール無しでも、魔法使いの卵になれたんですね。さすがです!」

 クロエとセオが説明してくれたことで、ようやくリリも理解した。
 じわじわと喜びが胸に迫り上がってくる。嬉しい。魔法使いの卵。なんて素敵な響きなのだろう!

「うむ。やはりエルフの血が濃いのだろうな、リリィは」

 黄金色の瞳を細めて、優しく微笑むルーファス。

「自分では、あまりエルフっぽいとは思えないのですが……そうだと、嬉しいです」

 大好きなおばあさまの血が自分にも継がれているのだと思えば、胸の奥がぽっと温まったような気がした。
 翡翠色の瞳と、栗色から黄金色に変化した髪色くらいしか似ていないと思っていたので、感慨深い。

「それはそれとして、気になることが何点かありますが」
「……気付いてしまったか」
「普通は気付くと思いますよ?」

 まず、装備についてだ。
 シオンがリリのために用意してくれていた、あのワンピース。

「大魔女に祝福されしワンピースとは、どういうことでしょう?」
『聖遺物みたいな名称になっているね』

 感心したようなナイトのつぶやきに、リリも深く頷いてしまった。
 だって、『大魔女に祝福されし』なのだ。
 祝福ってどういうことだろうか。

「ああ……おそらく、シオンがリリィのために張り切って術を重ね掛けした結果、だな。そうとしか言えん」

 艶のある赤毛を乱雑にかきあげながら、ルーファスが苦笑する。

『これ、教会やエルフの里の連中に見つかったら、取り上げられるレベルのお宝になっているよねぇ』
「えっ⁉︎     ……それは困ります。おばあさまが私のために作ってくださった服なので、手放したくはないです」
「こら、脅すな、ナイト。大丈夫だ、リリィ。これはシオンの呪い──こほん、祝福のおかげで、リリィ専用の装備となっている。たとえ誰かに盗まれたとしても、持ち主のもとへ戻ってくるから、安心してくれ」

 ニヤリと笑いながら慰められたが、もはやそれは呪いの装備では?

「……あと、称号欄の【魔女見習い】がレベル2になっているのは……?」
「文字通り、魔女へ一歩近付いたということだな。おめでとう、リリィ」
「おめでとうございます、リリさま」
「魔法をたくさん使ったおかげですね、リリさま!」
「リリさま、すごい」
 
 ぱちぱちと拍手をされて、リリは「ありがとうございます……?」とお礼を口ずさんでいた。
 いいことなのかな、と少しだけ戸惑ったが、前向きに考えることにする。
 
(おばあさまの跡を継いで、魔女になりたかったし、いいのかな……?)

 あまり魔女っぽいことはしていないので複雑な気持ちになるが、魔法を自在に使えるようになる可能性が高まったのは素直に嬉しかった。

「レベルが21になったので、魔法のドアの転移先も七箇所、登録できるようになりましたね。今までは五箇所だけだったので、嬉しいです」

 今のところ、魔法のドアの登録先は雑貨店『紫苑シオン』本店の二階、『紫苑』の王都店。それと、野菜を定期購入するために登録したアゲットの街。
 あとは、レインボーサーモンが釣れる湖と避暑地として人気のあるバリシアの街だった。
 ちなみに『聖域』は初期登録先なので、数はカウントされないようだ。

『あと二箇所、登録できるんだね』
「はい。一箇所はフローライトダンジョンで決定です。夜はこっちで休みたいので」
「リリさまが毎日帰ってくるのは嬉しい」
「ふふ。私もネージュと会えるのが嬉しいから、お揃いですね?」

 リリの手料理と夜のお楽しみ、映画鑑賞が目当てだとしても、会えて嬉しいと言ってもらえることは嬉しかった。

 レベルアップに伴って、大幅に増えたのは魔力量だ。
 ステータスを確認したナイトとルーファスが顔を見合わせて、頷き合う。

「うむ。この魔力量なら、正式に使い魔の契約を交わしても大丈夫だろう」
『そうだね。念のために、魔法のドアでにほんへ転移する際は元の姿に戻っておいた方がいいかもしれないけれど、問題はないと思うよ』

 クロエとネージュ、セオがぱっと顔を輝かせた。

「にほんへ行けるのね、わたくしたち!」
「ようやくですね! シオンさまに会えるんだ……」
「シオンさまがお好きなお花、摘んでいきたい」
「墓前に供えると、きっと喜んでくださるわね」

 大喜びの三人をどうにか宥めて、正式な契約は後日と約束する。

「フローライトダンジョンの十階層を踏破するまで、もう少しだけ待ってくださいね」

 十階層のフロアボスであるハイオークからは稀に上級ポーションと魔力回復ポーションがドロップするらしい。
 何度も魔法を使うと、どうしても疲弊してしまうリリには喉から手が出るほど欲しいアイテムなのだ。

(それに、ハイオークのお肉はオークよりも美味しいもの。皆へのお土産に最適よね)

 たくさん狩って、お世話になっているルチア辺境伯やヴェローナ侯爵家へも差し入れしたい。

(あと、レオ兄とルカ兄にも)

 何より、使い魔の皆と囲む食卓に並べて喜んでもらいたいという気持ちが大きい。
 心配そうにこちらを見つめてくる皆に、リリはにこりと笑って宣言した。

「ハイオークカツをご馳走しますから!」

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