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159. 十階層を踏破しました
しおりを挟むフローライトダンジョンの十階層。
フロアボスはハイオークの特殊個体だった。
順調にレベルアップしたリリは火魔法と『雷撃』の指輪を効率よく使い、どうにか怪我なく倒すことができた。
「やりましたっ! 見ていてくれましたか、二人とも」
「もちろんだ。リリィも強くなったな」
『ルーファスの言う通りだよ! ちゃんとペース配分を見誤らずに攻撃できていて立派だった。さすが、シオンさまの曾孫だね!』
「ありがとうございます。途中、ちょっと危なかったんですけど、なぜか急に動きが悪くなったから、どうにか倒せました」
『リリの攻撃でダメージがたまっていたんだろうね。本当によかったよ!』
手放しで褒められて、はにかむリリは知らない。
フロアボスのハイオークが反撃しようとした瞬間、後方腕組み保護者面したレッドドラゴンとレベルカンストした凶悪なケットシーが殺気をぶつけたことを。
あまりの迫力に、フロアボスのハイオークは震え上がり、恐怖で硬直したのだ。
そこをリリが「えいっ!」と火魔法をぶつけて倒したのだが──
『リリ! はやくドロップアイテムを確認しようよ。宝箱もあるみたい!』
ナイトに急かされて、笑顔で宝箱のもとへ向かうリリ。
「……俺たちは手を出していないから、すべてリリの功績だな?」
『当然だよね! ボクたちはちょっとだけ魔獣や魔物に睨みをきかせただけで、なーんにもしていないよ』
ニヤリと笑い合う、共犯者。
「見てください、二人とも! ハイオークのお肉がたくさんドロップしていますよ。それに宝箱の中身もすごいわ」
手放しで喜ぶ、愛し子のために。
ルーファスとナイトは素知らぬ顔で「すごいな」と労ってやった。
◆◇◆
十階層をクリアしたリリは、無事にダンジョン内転移が可能になった。
「これで、フローライトダンジョンの十階層までは好きな階層に行けるようになったのね」
このまま一階層まで、一気に帰還することも可能なのだ。
(まぁ、私は魔法のドアで登録先に転移はできるけれど)
特典はそれだけではない。
十階層をクリアしたことで、リリのレベルがまた上がった。
ステータスを鑑定して、よし、とぐっと拳を握る。
<ステータス>
海堂凛々(19)
レベル25
HP 450/2000
MP 320/350000
力320
防御 330
素早さ 600
器用さ 880
頭脳 350
運 100
スキル 【鑑定】【翻訳】【弓術】
魔法 【生活魔法】【火魔法】
【水魔法の素質】
装備 【身体強化のネックレス】
【雷撃の指輪】
【結界のブローチ】
【ストレージバングル】
【マジックバッグ】
【大魔女に祝福されしワンピー
ス】
【姿隠しのマント】
称号 【大魔女シオンの愛し子】
【魔女見習いレベル3】
「またレベルが上がりました!」
「ほう。リリィの努力が実を結んだのだな」
『がんばったもんね、リリ』
にこにこと微笑ましそうに頭を撫でられてしまう。
「もう、ルーファスもナイトも孫を溺愛する、おじいさまみたいですよ?」
二人とも甘すぎる!
「それよりも、火魔法を覚えることができたんです!」
「おお。それは凄いな」
「ステータスから、素質が外れていたんです。これは完全にマスターしたということでいいんでしょう?」
残念ながら、水魔法はまだ素質があるとしか表記されていなかった。
これは、途中から攻撃力の強い火魔法もどきを頻繁に使っていたからだと思う。
『そうだね。これで初級の【火魔法】を教えることができそうだ』
「ふふ。ナイト先生、よろしくお願いします」
「……火魔法は俺の方が得意なのに…ッ」
『また言っている。キミの教え方は雑すぎる。ドラゴンの大雑把な指導法ではリリが魔法を使えるようになるには何十年かかることか』
「うぅ……」
生まれてすぐに炎を自在に操るというレッドドラゴンが、魔女見習いに初級の火魔法を教えるのはたしかに無理がある。
「あ、じゃあ水魔法はルーファスに教わることにします。……それならいいでしょう?」
「リリィ……!」
涙目で喜ぶルーファスに苦笑するしかない。火属性のドラゴンであるルーファスでも一応は水魔法が使える。
正反対の属性の魔法だからか、水魔法はあまり得意ではない。
得意でないため、彼の水魔法は他の魔法に比べて威力が落ちる。
なので、リリにとってはそちらの方が安心して教わることができるのだ。
『キミがそれでいいなら、任せるよ?』
「うむ! 水魔法を教えるのは俺がやろう!」
途端に機嫌を直したルーファス。
「称号の【魔女見習い】もレベル3になりました。ただ、力や防御などのステータスがなかなか上がらなくなった気がします」
『それは仕方ないよ。エルフは魔法が得意な種族で、接近戦向きじゃない。その代わり、素早さや器用さは上がっているんじゃないかな?』
「あ、そっちは上がっていますね」
「器用さが高い数値なら、弓の技能が上がるはずだ。魔法と併用すればいい」
「なるほど……。魔法と『雷撃』の指輪があるから、弓で攻撃することを失念していましたね」
ちなみにレベルが上がっても、ステータスの『運』に関しては、変動しないらしい。
(運は100が上限じゃないか、って言われているみたいだけど……じゃあ、私ってすごく運がいいってことなのかしら?)
小首を傾げるリリ。
大学の同級生が耳にしたら「当然でしょうが! 容姿も頭脳も家柄もトップクラスなんだから!」と叱責されるようなことを、のほほんと考えていた。
◆◇◆
ドロップアイテムを回収し、ステータスも確認したところで、フローライトダンジョンを撤収する。
一階層の入り口へと転移して、近くの冒険者ギルドへ向かった。
そこで、魔石や魔獣の素材などを買い取ってもらう。
一階層から十階層まで駆け抜けて稼いだ金額は、金貨二枚と銀貨六枚と少し。
日本円に換算すると、約二十六万円か。
命の値段として妥当なのかは分からない。
だが、今回の目的はレベル上げと魔法を使えるようになることだったので、大満足の結果である。
ギルドの買取りカウンターの従業員は「肉を売れば、もっと稼げますよ?」とすすめてくれたのだが、これはきっぱりと断った。
「魔獣のお肉や魔物のお肉はすべて持ち帰ります。私たちが食べる分と、伯父さまたちに渡す分ですから」
先日、海堂家主催の食事会を開いた際に、渡してある異世界の肉はすべて使い果たしたらしい。
「また、お肉がたくさん欲しいってリクエストをもらったので、届けに行かないと」
「そうだな。次の帰省はクロエたちを同行させてやろう」
「ええ、もちろんです! 我が家へ帰ったら、使い魔の契約を正式に交わさないといけませんね」
三人にはずいぶんと待たせてしまった。
主であったシオンのお墓参りに行きたいのに、ずっと我慢をしてくれていたのだ。
「伯父さまたちにも紹介したいです」
「そうだな。なら、さっさと帰ることにしよう」
「はい!」
冒険者ギルドを後にして、魔法のドアで我が家へ帰還する。
魔法のトランクの家では、待ちくたびれ様子の三人に熱烈に出迎えられた。
リリはそっと彼らを抱き締めて「ただいま」と告げた。
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