【書籍化】魔法のトランクと異世界暮らし〜魔女見習いの自由気ままな移住生活〜

猫野美羽

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18. キャンピングカーで移動します

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 アイテムバッグからキャンピングカーを取り出すと、ナイトが目をまん丸にして驚いている。
 ふわふわの尻尾がぱんぱんに膨らんでいて笑ってしまった。

『なに、これ!』
「これはキャンピングカー。ええと、馬なしの馬車……? 便利な乗り物で、この中で寝泊まりができるのよ」
『この中で暮らせるの? そんな乗り物があるんだ……にほんすごい』

 感心した黒猫がキャンピングカーの周囲をぐるぐる観察して回っている。

「まぁ、今回は寝泊まりはしないけれど」

 だって、リリには魔法のトランクがあるのだ。持ち運びできる快適なホームがあるので、わざわざ車に泊まる必要はない。
 何なら、日本の家に戻ることも可能なのだ。

『こんな乗り物をリリは自由に操縦できるの?』

 尊敬の眼差しを向けつつの無邪気な問いに、リリはにこりと微笑んでみせた。
 運転免許証はちゃんと持っている。休み休み、時間を掛けて教習所に通ったのだ。
 
「免許証はあるんだけど、ペーパードライバーなのよね……」

 心配性な伯父や従兄たちに止められて、自分で車を運転した回数は片手にも満たない。
 ペーパードライバーな状態で、キャンピングカーを運転するのだ。
 ちょっとだけ蛮勇かな? と思わないでもないのだが、これは良いチャンスでもある。

「せっかく、こんなに広い場所で運転できるんだもの。キャンピングカーを乗りこなせるよう、練習する」

 ここなら障害物もないし、対向車もいない。何なら、通行人もゼロだ。

『ニンゲンは滅多にいないけど、アルミラージとワイルドフォックスはいるよ?』
「ええと、ウサギとキツネ……?」
『その魔獣ね。でも、これだけ大きな乗り物なら襲って来ないと思う』

 ナイトの説明にほっとする。
 が、安堵するリリを黒猫はじろりと睨み付けてきた。

『レベルアップのためには倒した方がいいんだけどねー?』
「う……。ええと、今は街に向かうのを優先するから、それはまた今度。休憩している時に向こうから襲ってきたら倒すことにする」
『まぁ、そんなところかな』

 師匠に及第点を貰えたので、さっそくキャンピングカーに乗り込んだ。
 曾祖母の家に移住してから、ずっと慌ただしかったので、実は内装を確認するのもこれが初めてだった。
 キャブコンと呼ばれる高級キャンピングカーに胸を高鳴らせつつ、スライドドアを開けてみて。

「……これはすごい」

 テーブルを挟んだ対座シートは四人掛け。ゆったりとした座面で、リラックスができる高級シートとクッションだ。
 通路を挟んだ脇にはサイドソファー。
 シートは背もたれを倒せば、ベッドに早替わりする。ゆったりとしたダブルサイズのベッドで、寝心地も良さそうだ。
 何より嬉しいのは、狭いながらもトイレが付いていること!
 運転しやすい軽ワゴンではなく、キャンピングカーを選んだのは、このトイレの有無が大きい。

『リリ、リリ! 乗り物なのに、台所がある!』

 一緒に車に乗り込んだナイトが大騒ぎしている。
 そう、このキャンピングカーにはキッチンもあるのだ。コンパクトだけど機能的なシステムキッチンで、コンロもある。
 IHの卓上コンロだが、リリにとってはガスコンロよりも使いやすい。
 シンクがあるので手も洗えるし、作業台もあるので簡単な調理も可能。

「冷凍庫付きの冷蔵庫まである。電子レンジに湯沸かしポットも」

 電子レンジはありがたい。
 朝食と夕食は魔法の家で食べて、昼食はこのキャンピングカーでレトルト食品で軽く済ませるのもありだろう。

「運転席の上、二階……? そこにもベッドがあるから、疲れたらそこで休憩してもいいかも」
『へぇ! 隠れ家みたいで楽しいね、リリ』

 黒猫のナイトはすっかりキャンピングカーが気に入ってくれたようだ。

「ふふ。いいでしょう? でも、私が特に気に入っているのはコレよ」

 運転席に座り、エアコンを付ける。
 季節は初夏。森の中の聖域はひんやりと涼しくて快適だったけれど、遮るものが何もない平原では、汗ばむ陽気だ。
 人工的な冷風を浴びて、ナイトは飛び上がるほど驚いた。

『なにこれ! 氷魔法⁉︎』
「エアコン。普通の家電……ええと、こっちの世界で言うところの魔道具みたいな物を使って空気を冷やしているの」
『ふわぁ……。そんなことができるんだ』

 感心したように頷くナイトには助手席に座ってもらい、リリは緊張しながらハンドルを握った。


◆◇◆


『すごいすごい! 早いね、この車!』

 十分も走らせれば、どうにか運転にも慣れてきた。
 聖域の森の外、この広い平原には障害物はほとんどなく、地面も平坦なため、運転はしやすい。
 早い早いと大喜びで窓の外を眺める黒猫をリリは微笑ましく、横目で見詰めた。

「それほど飛ばしているつもりはないのだけれど……。もしかして、馬車はもっとゆっくりなの?」
『そうだね。馬が疲れちゃうから、もっとゆっくりだよ。あと、早く駆けるとお尻が痛くなるってシオンさまが言っていた』

 こちらの世界の馬車はどうやらまだサスペンションが取り付けられていないようだ。
 曾祖母も移動には苦労したようで、使い魔であるナイトや召喚獣に騎乗することを好んでいたらしい。

「おばあさま格好いい。そう言えば、車の運転が大好きだったのは馬車に苦労したからとか?」
『きっとそうだよ。シオンさまは好奇心旺盛で、新しい技術が大好きだったから』
「ふふ。目に浮かぶよう」

 そう言えば彼女はスマホやタブレットにも夢中になっていた。
 従兄であるレオやルカ、そしてリリが教えた最近の流行のものにも一通り手を出していたことを思い出す。

『このキャンピングカー? これも自分用に研究して改造しているもの。こっちの世界に持ってこようとしていたのかなぁ』
「え? 何やら聞き捨てならないセリフなのだけど」

 改造とは。もしかしてカスタムのことだろうか? いや、ナイトはキャンピングカーを初めて見たのだから、改造前の姿を知るわけがない。
 ちょうど昼休憩の予定時間になったので、詳しく聞き出すことにした。
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