【書籍化】魔法のトランクと異世界暮らし〜魔女見習いの自由気ままな移住生活〜

猫野美羽

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134. 王都からの帰還

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 二週間ぶりの我が家だ。

 伯父家族への定期連絡のため、日本の家には毎日顔を出していたが、『紫苑シオン』に足を踏み入れるのは久しぶりな気がする。

 王都からの帰還には、転移のドアを使った。
 荷物やキャンピングカーはルーファスたちの【アイテムボックス】に収納してもらい、まずは日本へ移動。
 日本を経由して、ジェイドの街にある雑貨店『紫苑シオン』の二階へと転移した。

「早朝だから、皆を起こさないように静かに……」
「もう起きているようだぞ、リリィ」

 小声で気を遣ったのだが、ルーファスが肩を竦めて笑う。
 足音を立てないよう、ブーツを脱いだのに意味はなかったようだ。

『おかえりなさいませ、リリさま! もうっ、遅いですわよっ⁉︎   待ちくたびれました!』
「むしろ早い時間にごめんなさい?」
『リリさま、おそい……』

 バサバサッと激しい羽音と共に、二羽の白黒カラスに飛びつかれてしまった。
 就寝時には元の姿に戻っているとは聞いていたが、久しぶりのモフモフ姿に、リリはつい頬を緩ませてしまう。
 翼を傷めないよう気を付けながら、ふんわりと抱きしめる。

「早朝から熱烈ですね、リリさま」
「セオ。貴方は人の姿なのね。キツネの姿では寝ていなかったの?」
「僕はそこの二人と違って、ちゃんとからお出迎えしただけですよ」

 キツネ耳の少年はリリが日本で買ってきた服を身に纏っていた。
 『紫苑シオン』の制服であるゴスロリ衣装ではなく、着心地のいいシャツとゆったりとしたカーゴパンツ姿だ。

「おかえりなさい、リリさま。アーリー・モーニングティーの準備をしますね。ベッドではなく、ダイニングになりますが」

 セオの言葉に甘えて、魔法のトランクの家に移動することになった。


◆◇◆


 帰宅が遅かったことを、ひとしきり使い魔の三人に愚痴られたけれど、ひとまず許しを得たリリはほっと胸を撫で下ろした。
 当初の予定より長逗留になってしまったが、おかげで雑貨店『紫苑シオン』王都店の開店の目処がたった。
 何度か打ち合わせに出向く必要があるのではと考えていたので、ここまでスピーディに話が進んだことに、むしろ戸惑ったくらいだ。

「ごめんなさい。心配をかけましたよね? 王都のお土産を買ってきたので、機嫌をなおしてください」
「王都のお土産、ですか……」

 あからさまにガッカリされてしまい、リリは戸惑った。

「一応、王都では大人気の商品と聞いたのですが……」

 セオがやれやれとため息を吐いた。

「王都で人気の菓子って、高価な砂糖をたっぷり使った焼き菓子ですよね? あれなら、リリさまがいつも買ってきてくれる、にほんの菓子の方が断然、美味しいです」

 侯爵令嬢のローザに王都を案内してもらっている際に、若い女性に大人気だという菓子店に寄ったのだ。
 そこでいちばん人気だという、焼き菓子を購入した。
 見た目はクリスマスの定番菓子、シュトーレンそっくりだった。

「ドライフルーツにナッツが練り込まれたパウンドケーキっぽいお菓子ですよ? 長期間保管できるように、たっぷりのお酒とお砂糖を使っているそうです」

 粉糖でコーティングされている焼き菓子はどっしりと重い。
 ふわふわの生地とは正反対なため、とても食べ応えがありそうだと思う。
 見た目はそれこそシュトーレンそのもので美味しそうに見えたのだが。

「……それ、噛み締めるとジョリジョリするやつ」

 ぽつりとネージュがこぼす。

「ジョリジョリ……まさか、お砂糖で?」
「ん、とにかく甘い。砂糖が甘すぎて、他の味がしないくらい」

 食べることが大好きなネージュが顔をしかめている。……そんなに?

「……うすくスライスして、ちょっとずつ食べましょうか。濃いめのコーヒーと一緒に」
「それがいいだろうな。俺はブラックで頼む」

 真顔のネージュは嘘を言っているようには見えない。
 砂糖でジャリジャリした食感の焼き菓子だと聞いて、リリは遠い目になった。
 ご婦人方に大人気な菓子屋だと聞いていたので、ガッカリだ。
 ルーファスが言うように、ブラックコーヒーで流し込むしかないだろう。

(銀貨三枚の値段だったのに、残念すぎます……)

 日本で三万円分のケーキを買ってきた方が彼らは喜んでくれたに違いない。
 そう考えて、ふと妙案を思い付いた。

「そうだわ。王都の焼き菓子は玲王レオ兄と瑠海ルカ兄へのお土産にしましょう!」

 異世界の食べ物を楽しみにしている二人なら、この甘すぎる焼き菓子も喜んでくれるに違いない。
 ルーファスも「おお、なるほど!」と納得顔で頷いている。

「明日、荷物を受け取りに日本へ行くついでに皆にはまた美味しいお菓子を買ってきてあげます」

 リリの提案に、三人がぱっと顔を輝かせた。
 王都土産と聞くと、辺境に住む街の人たちなら大喜びしそうなものだが、彼らは日本の品物の方が上質なことを熟知しているのだ。

「リリさま、わたくし美味しいお菓子も嬉しいのですけれど……。にほんの映画が観たいですわ、音声付きの!」

 クロエのおねだりに、リリがきょとんとする。

「え、でも……」
「ふふ。実はわたくしたち、リリさまが王都に滞在している間にダンジョンを攻略して、【翻訳】スキルを手に入れたのです!」
「え…っ? 攻略って……最寄りのダンジョンでも、五十階層と聞いていたのですが……」
「五十階層でしたよ、リリさま。ダンジョンボスを倒さないとスクロールは落とさないので、僕たちは何十回と挑んだんです!」

 胸を張るセオ。
 ダンジョンを攻略すると、以降は何度でも好きな階層へ再挑戦できるのだと以前にナイトから教えてもらっていたが──

「無事に三人分の【翻訳】スクロールを手に入れましたわ!」
「これでどんな映画も楽しめるの」

 わくわくした表情の白黒双子にねだられて、断れるわけもない。

「そういうことなら、頑張ったご褒美にたくさん仕入れてきますね」

 わっと歓声が上がる。
 よほど嬉しかったのだろう、手放しで喜んでいる三人をリリは微笑ましく見守った。
 黒猫のナイトが呆れたように、鼻を鳴らす。

『なら、ドロップアイテムをリリに対価として渡すといいよ』

 その提案に、セオがはっと我にかえった。

「そうでした! リリさま、ドロップアイテムをどうぞ。食べられる魔獣や魔物の肉も大量にあるんですよ!」
「お肉もですけれど、ポーションもたくさん手に入ったので、こちらもどうぞ」
「……いいのです?」

 ドン、と塊肉の山がテーブルに築かれる。リリの代わりにナイトが【アイテムボックス】にしまってくれた。
 ポーション類もありがたくクロエから受け取る。

「じゃあ、ポーションは私が預かりますね。お肉と一緒に、伯父さまに買い取ってもらいます。そのお金で映画やアニメ、ドラマなどのディスクを購入するのはどう?」
「それでお願いしますわ!」
「ん、お願いします、リリさま」
「映画に合うお菓子や飲み物も欲しいな、僕」
「もちろん、そっちも用意しますね」
「やった!」

 余ったお金はお小遣いとして代理で預かっておき、お菓子などの購入費にすればいいだろう。

「それにしても、こんなに短期間で攻略するなんて驚きました」
「よほど、映画やアニメを観たかったのだろうな」
「……ですね。なら、まずは皆が楽しめるアニメのディスクを買ってきましょうか」

 日本が誇る、海外でも話題になったアニメ映画を中心に選ぶつもりだ。

(空から女の子が降ってくる、冒険譚アニメは皆が好きそうです)

 アクションあり、コメディあり、ロマンスもあるアドベンチャーものなのだ。
 同じ監督作のファンタジーアニメもぜひとも購入したい。大きな蟲が苦手でなければいいのだが……。

(魔女の女の子と黒猫のコンビが活躍するアニメは絶対に買ってこよう。きっとナイトは気に入ってくれるはず)

 ドラゴンが登場するアニメを観たルーファスの反応も気になる。

「なら、買い出しだな、リリィ」
『ボクもにほんに行くよ! 薬草の様子が気になるからね』

 幸い、今日は闇曜日。
 雑貨店『紫苑シオン』は休日なので、のんびり映画を鑑賞して過ごすには最適だ。

「では、行ってきますね!」

 魔法のドアで世界を繋ぎ、リリは笑顔で手を振って。
 赤毛のドラゴンと黒猫をお供に、颯爽とドアを潜り抜けた。



◆◆◆

生後二週間くらいの子猫四匹を保護しまして、お世話でバタバタしております💦
更新が遅くなって申し訳ないです。

◆◆◆







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