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139. 大成功でした
しおりを挟む『紫苑』王都店のお披露目は大成功で幕を下ろした。
侯爵家と親しい人々を招いたプレオープンで王都の話題をかっさらい、満を持しての開店では長蛇の列を作った。
あまりの客数に、リリは整理券を配布したほどだ。
店内で事故が起こることを恐れて、人数制限を設けて、入れ替え制にしたことでスムーズに客をさばけたように思う。
待ち時間を近くのカフェで過ごせるようになったため、意外と好評だったようだ。
この日のために商品を大量に揃えていたのだが、閉店前に品切れになるものもあった。
「ノベルティがギリギリ足りて良かったです……」
余るだろうな、というくらいの量を発注していたのだが、オープン日から二日で配布しきってしまった。
大きなクレームがなかったことに、リリはほっと胸を撫で下ろす。
「うふふ。想定通りですわよ、リリさん。ノベルティのポーチはいま、王都での人気アイテムだとか」
「……がま口ポーチが?」
「ええ。『紫苑』でお買い物をしたことが自慢できますもの。学園でも流行っているのよ」
「流行っているんだ……」
驚いたが、ナイトをモデルにした黒猫のロゴマークは我ながら可愛く作れたので、納得だ。
(他の使い魔の皆が拗ねて大変だったけど……)
ルーファスはドラゴンのロゴの方が格好いいし、強そうだろう、となぜか売り込んできたし、白黒姉妹はカラスのシルエットも素敵でしてよ? と推していた。
セオは日本のアニメの影響を受けてか、キツネ耳カチューシャをノベルティにするのはどうかと聞いてきたのだが、これは断固拒否しておいた。
リリが黒猫デザインを押し通すと、目に見えて落ち込んでいたので、そのうち彼らを模したグッズを作ってあげようと思う。
ともあれ、『紫苑』王都店は華々しく開店して、売り上げも想定以上。
店長のローザは笑いが止まらない。
後ろ盾になった侯爵家も国内の有力貴族との絆が深まったと、大喜びだ。
(何より、女の子たちが喜んでくれたのが嬉しいです)
可愛らしい雑貨を買うことができたと、はしゃぐ少女たちの様子をバックヤードから確認できて、雑貨店をやっていて良かったと心の底から思えたリリだった。
◆◇◆
怒涛の三日間を終え、リリは慰労会と称したパーティを開催した。
ローザが王都のタウンハウスを会場に提供してくれたので、ガーデンパーティーに従業員を招いた。
「オードブルはこちらのテーブルに、デザートはあちらのテーブルに用意していますので、どうぞ楽しんでくださいね」
人数が多いのもあって、ランチはケータリングで用意してもらった。
スイーツは食べやすいように一口サイズのケーキを中心に、こちらもたくさん仕入れてきている。
食べ応えもあって、見栄えのいいローストビーフを中心に、立食形式のパーティでつまみやすいメニューを選んだ。
色鮮やかなピンチョスにロールサラダ、カナッペにキッシュ、サーモンのカルパッチョも美味しそうだった。
スイーツはもっと華やかだ。
ミニサイズのチョコレートケーキにいちごのショートケーキ。
チーズケーキにモンブラン、ブルーベリーとヨーグルトのムースも愛らしい。
圧巻なのは、ミニシュークリームを重ねてタワーを作ったプロフィットロールだ。
チョコレートや生クリーム、ベリーに粉砂糖などを散らして、崩すのがもったいないくらい。
『紫苑』の女性従業員は大喜びで、立食パーティを楽しんだ。
「お食事がどれも絶品です!」
「やわらかいお肉、最高っ」
「お料理も気になるけど、お菓子も素晴らしいです!」
そこは乙女心なのか。
食べ尽くされる前にと、まずはスイーツのテーブルに駆け寄る女性が多かった。
オープンして怒涛の三日間を終えた本日は休日だ。
明日からはまた忙しい日々になるため、慰労会ではあるが、アルコール抜きの健全なパーティとなった。
ジェイドの街の本店から助っ人として呼ばれた使い魔三人も、笑顔でオードブルやスイーツをつまんでいる。
「クロエにネージュ。楽しんでいますか?」
「リリさま!」
「ん、楽しい。ごはんも美味しくて幸せ」
「ふふ。たくさん食べてくださいね」
二人には特にお世話になっている。
ハンドマッサージにネイルの仕方を実演してもらい、またお化粧品の使い方も従業員にレクチャーしてもらったのだ。
おかげで二階の従業員からは神さま扱いされている。
「皆さま、明日からも『紫苑』をよろしくお願いしますね」
あらためてローザが挨拶を口にすると、わっと歓声が上がった。
◆◇◆
どうにか王都店の手伝いを終えて、リリはナイトと共に魔法のトランクの家へ帰宅した。
白黒姉妹とセオは、ルーファスのドラゴンタクシーで送ってもらう必要があるため、彼らを置いて一足先にジェイドの街に戻ってきたのだ。
「こっちのお店もしばらくお休みにしていたから、明日から頑張らないとね」
『そうだね。きっと、明日は大賑わいだ』
ナイトの指摘に「まさか」と笑い飛ばそうとしたリリだったが、ふと真顔になった。
「まさか、よね……?」
品揃えが不安になって、日本へ戻ることにした。
「とりあえず、王都店の商品とうちで売る品と両方を多めに注文しておくわ」
『それがいいと思うよ。あと、家族への連絡も入れておいたら?』
「あ……そういえば、スマホの電源、落としていたかも」
しばらくは多忙なため報告は三日後、と伝えてスマホはストレージバングルに放り込んでしまっていたのだ。
電源を入れるや否や、恐ろしい量の通知が届く。
「……見なかったことにしましょう」
そっとスマホを片付けると、リリは無心でパソコンに向き合った。
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