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「説明書、説明書」
そう呟きながら多美江は腰の辺りをぽんぽんと叩くが、もちろんそんなところにはない。
ならば鞄の中か? と背中に回っている鞄を前へ回そうとすると、ポンという音と共に目の前に分厚い説明書らしき本が出てきた。
ふよふよと浮いている本をじっと見つめる多美江。
白い煙がもわもわと僅かに残っている。
「もしかして・・・渡すの忘れていたとかいう?」
死神たちが慌ててこの世界に送った感が半端なく感じる。
「ま・・・・・・いいか」
手を前に差し出すと本はゆっくりと降りてきた。多美江がする前に勝手にページが開かれる。
「え~と・・・、何々?」
開かれたページにはこう書かれてあった。
そこは危ない区域ですので、まずは鞄から対魔獣用テントを出して張りましょう。
「あ・・・、危ないだとっ?」
しかも「魔獣」とか書いてあるし。
思わず多美江は周りをきょろきょろと見回した。
だけど木の葉がさわさわ風に揺れる音しか聞こえない。
平和そのものの光景に、この森に魔獣がいるなどとは到底思えなかった。
多美江は仕方なく背にある鞄を前へと回す。
「こんなに小さな鞄にテントなんて入るものなの?」
この鞄をくれた死神がそういうのだから、入ってはいるのだろうが・・・。
手を話してもふよふよ浮いている説明書をもう一度見る。
この鞄は異空間へと繋がっています。欲しいものを思い浮かべれば、それが手に触れるので取り出して下さい。
何だか不思議な鞄のようだ。しかし何が入っているのかわからないので、罰ゲームのようにも感じる。
「生き物なんて・・・・・・入ってないよね?」
何故だか怖い。
多美江は恐る恐る鞄を覗き見るが、中は真っ黒な空間が広がっていた。
「こ、怖っ!」
恐怖心は高鳴る一方だが、魔獣も大変気になる。
「し、仕方がない」
諦めたように多美江は呟き、ごくりと唾を飲みながら勢いで手を突っ込んだ。
「対魔獣用テント、こいっ!」
少し冷たい感触が指先に当たる。多美江はむんずとそれを掴み一気に取り出した。
目の前に広がる大きなテントに多美江は思わず怒鳴る。
「思ってたより大きいじゃんっ!」
それは宙に浮いて、そしてドンッ! と地面に着地した。
その光景に多美江は呆気に取られた。
「・・・・・・・・・便利にもほどがある」
これは死神の善意だろうけど、結構困った感じのものもあるのかもしれない。
何しろ相手は人間ではない。死神だ。自分とは感じ方も常識も違うだろう。
ぼう~と巨大テントを見ていると背後の茂みがガサリとなり、慌ててテントの中に入る。そうっと顔を覗かせるが、何も現れなかった。
「こ、怖いんですけどぉ」
とりあえずテントの中にいれば大丈夫みたいなので、まだ昼間みたいだけど今日はこのままここで泊まった方がいいのかもしれない。
何しろこの世界の常識も知らない多美江だ。まずは説明書を熟知しなければならない。
そう思い、外を窺う視線を中へ移した途端、多美江はあんぐりと口を開けた。
「な・・・なんじゃこりゃあぁ~っ!?」
先程の重いドンッ! とした音の原因が理解出来た。
ただの皮のテントの割には重い音だなと思ったのだ。
「何で・・・テントの中にお寛ぎセットがあるの・・・・・・?」
大きなベッドにテーブルセット。奥には仕切られた空間があるが、もしかしてトイレかお風呂でもあるのか?
簡易的な台所まであるし・・・。
「便利すぎるにも・・・・・・・・・ほどがあるだろう」
多美江はそう呟くしかなかった。
そう呟きながら多美江は腰の辺りをぽんぽんと叩くが、もちろんそんなところにはない。
ならば鞄の中か? と背中に回っている鞄を前へ回そうとすると、ポンという音と共に目の前に分厚い説明書らしき本が出てきた。
ふよふよと浮いている本をじっと見つめる多美江。
白い煙がもわもわと僅かに残っている。
「もしかして・・・渡すの忘れていたとかいう?」
死神たちが慌ててこの世界に送った感が半端なく感じる。
「ま・・・・・・いいか」
手を前に差し出すと本はゆっくりと降りてきた。多美江がする前に勝手にページが開かれる。
「え~と・・・、何々?」
開かれたページにはこう書かれてあった。
そこは危ない区域ですので、まずは鞄から対魔獣用テントを出して張りましょう。
「あ・・・、危ないだとっ?」
しかも「魔獣」とか書いてあるし。
思わず多美江は周りをきょろきょろと見回した。
だけど木の葉がさわさわ風に揺れる音しか聞こえない。
平和そのものの光景に、この森に魔獣がいるなどとは到底思えなかった。
多美江は仕方なく背にある鞄を前へと回す。
「こんなに小さな鞄にテントなんて入るものなの?」
この鞄をくれた死神がそういうのだから、入ってはいるのだろうが・・・。
手を話してもふよふよ浮いている説明書をもう一度見る。
この鞄は異空間へと繋がっています。欲しいものを思い浮かべれば、それが手に触れるので取り出して下さい。
何だか不思議な鞄のようだ。しかし何が入っているのかわからないので、罰ゲームのようにも感じる。
「生き物なんて・・・・・・入ってないよね?」
何故だか怖い。
多美江は恐る恐る鞄を覗き見るが、中は真っ黒な空間が広がっていた。
「こ、怖っ!」
恐怖心は高鳴る一方だが、魔獣も大変気になる。
「し、仕方がない」
諦めたように多美江は呟き、ごくりと唾を飲みながら勢いで手を突っ込んだ。
「対魔獣用テント、こいっ!」
少し冷たい感触が指先に当たる。多美江はむんずとそれを掴み一気に取り出した。
目の前に広がる大きなテントに多美江は思わず怒鳴る。
「思ってたより大きいじゃんっ!」
それは宙に浮いて、そしてドンッ! と地面に着地した。
その光景に多美江は呆気に取られた。
「・・・・・・・・・便利にもほどがある」
これは死神の善意だろうけど、結構困った感じのものもあるのかもしれない。
何しろ相手は人間ではない。死神だ。自分とは感じ方も常識も違うだろう。
ぼう~と巨大テントを見ていると背後の茂みがガサリとなり、慌ててテントの中に入る。そうっと顔を覗かせるが、何も現れなかった。
「こ、怖いんですけどぉ」
とりあえずテントの中にいれば大丈夫みたいなので、まだ昼間みたいだけど今日はこのままここで泊まった方がいいのかもしれない。
何しろこの世界の常識も知らない多美江だ。まずは説明書を熟知しなければならない。
そう思い、外を窺う視線を中へ移した途端、多美江はあんぐりと口を開けた。
「な・・・なんじゃこりゃあぁ~っ!?」
先程の重いドンッ! とした音の原因が理解出来た。
ただの皮のテントの割には重い音だなと思ったのだ。
「何で・・・テントの中にお寛ぎセットがあるの・・・・・・?」
大きなベッドにテーブルセット。奥には仕切られた空間があるが、もしかしてトイレかお風呂でもあるのか?
簡易的な台所まであるし・・・。
「便利すぎるにも・・・・・・・・・ほどがあるだろう」
多美江はそう呟くしかなかった。
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