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頭からの出血もない。額に触れた時に手に着いた血もないことから、目の前の死神さんの誰かが綺麗にしてくれたものとみた。
そして多美江がいま身につけているのは、だぶっとした袖なしの白いワンピース。
何だか可愛らしい服に少しばかり照れながら、多美江は立ち上がった。
「転生する際に特別に願い事を叶えよと冥界の長の仰せですので・・・。何か希望はありますか?」
地面も雲のベッドと同じ素材のようだ。空も見えるし、大きな雲の上に立っている感じ。雲で出来た上へと繋がる階段も見える。ここは本当に空の上で、天国へと繋がる場所なのだと思った。
でもその前にヒーローにしてもらう約束を取り付けなくては。
「冒険者とかいる世界がいいです。そこで男性に転生して英雄にしてくださいっ!」
興奮して頬が染まる多美江の様子を、死神たちは何ともいえない顔で見ていた。
「立花さん。申し訳ないのですが、女性の魂は女性のまま転生されるのが天界での決まり事なのです。従って、例え異世界へ転生されても、貴女は男性にはなれません」
その言葉を聞いて、多美江は膝から崩れ落ちた。
「は、はうぅ~・・・」
ここでも駄目なのか? ここでも青になれないのか?
「うぅ~・・・」
何でも叶えてくれるほど、融通をきかせてくれるわけでもないらしい。
「で、では・・・。女一人でも楽に暮らしていける何か便利なもの・・・ください」
涙声で呟くと、クリップボードを持っている人が大きく頷き何かを書き込む。
「冒険者がいる世界へ転生は可能です。他に能力や、十年ほど何もしなくても生活できるだけの金銭をお渡しします」
おお、何とご都合主義! 働かなくても暮らしていけるとは。
「地球とは勝手が違う世界です。なので十年で基礎を覚え、慣れていただくしかありません」
多美江はゲームとは無縁の世界で生きてきた。冒険者などが蔓延る世界がどういったものかというのは、ぼんやりとイメージすることしかできない。
「能力・・・チートっていうんだっけ? それもできるだけでいいので、い・・・いただきたいです」
十年も働かなくても生きていけるお金も貰えるのに、贅沢だろうか? そう思いながらも、恐る恐る声を上げた。
だがメモを取る死神さんは躊躇もせずそれにも深く頷いた。
「はい、できるだけ善処いたします。いま日本でいうところのゲーム的に楽しめる世界に転生いたします。詳しくは説明書をご覧下さい」
(説明書。・・・付くんだね)
そうぼんやりと考える。
「では、いってらっしゃい」
「えっ!? もうっ?」
多美江が叫んだ途端、雲素材の床がすぽっと開いた。
「き、ぎゃあああぁぁぁぁぁ~っ!!!!!」
多美江が叫んだ時にはすでに遥か上空になってしまった小さな穴から、黒尽くめの男たちの顔が見える。
覗いて手を振る者までいた。
「こんなに上から落ちて死んじゃうんじゃないの~っ!?」
「問題ありませ~んっ! どうぞ第二の人生お楽しみくださ~いっ!」
呑気な死神長官の声に多美江は憤りを感じ、これ以上ないってくらい叫ぶ。
「楽しめるか~っ!!! 馬鹿野郎~っ!!!」
そうしている間にいくつかある雲の層をずぼずぼ抜け、遥か下の眼下に小さな島が見えた。
「マジでこの高さはヤバイって・・・。絶対死ぬよ~。第二の人生が早くも終わっちゃう~っ!」
いっそ気を失いたい。でも失えない。何かの作用でも働いているのかと思うほど、異常なほど意識がはっきりとしていた。
地面はどんどん近付いてくるし、気は失えないし・・・。
「もうどうにかして~っ! ぎゃああああぁぁぁぁ~っ!!!!」
眼下には森が、あんなところに落ちたら確か足の骨が砕けるって聞いた。一応足をクロスする。
「これじゃあ二本とも折れるかもね・・・」
でももう何の対処も出来ない。すでに地面は目の前だ。
その瞬間、風が地面から湧き上がりふわんと浮いた。
「だあっ!」
落ちていたのに急に浮くと、内臓が逆らって下に行く感じがして・・・。思わず苦痛の声が漏れる。本当は痛くも苦しくもないのだけど、何となくだ。
三十メートル、十メートル、五メートル。地面はゆっくりと近付く。
「よ、よかったぁ~・・・」
これで少なくとも死ぬことはないだろう。
そう安心していたところで、残り一メートルというところまできた。
そして急に浮力を失った。
「ぶへっ!」
鼻から落ちてしまった。
急なので受け身も取れない。あんなに日本で習った受け身なのに・・・。
「ど、どうせなら最後まで浮いててよ。地味に痛いじゃない・・・」
真っ白だった衣装は鼻が地面に着いた途端変わっていた。
茶色とオレンジ系の衣装。
胸あてが皮で出来ているのかオレンジ色・・・というかキャメル色をしていた。あとは全体的に茶色。
膝上くらいのロングのシャツの上から、短いお腹周りだけのコルセットが巻かれている。シャツの下は結構ピタッとサイズのズボンをはいて、その上から編み上げのロングブーツを着用。
肩から斜めにかかる小さな鞄。男の子がつけるようなデイバッグのようなものを背にしていた。
「これが異世界仕様ね」
確か説明書を読めって言っていたはず・・・。
説明書は何処だ?
多美江はきょろきょろとあたりを見回した。
そして多美江がいま身につけているのは、だぶっとした袖なしの白いワンピース。
何だか可愛らしい服に少しばかり照れながら、多美江は立ち上がった。
「転生する際に特別に願い事を叶えよと冥界の長の仰せですので・・・。何か希望はありますか?」
地面も雲のベッドと同じ素材のようだ。空も見えるし、大きな雲の上に立っている感じ。雲で出来た上へと繋がる階段も見える。ここは本当に空の上で、天国へと繋がる場所なのだと思った。
でもその前にヒーローにしてもらう約束を取り付けなくては。
「冒険者とかいる世界がいいです。そこで男性に転生して英雄にしてくださいっ!」
興奮して頬が染まる多美江の様子を、死神たちは何ともいえない顔で見ていた。
「立花さん。申し訳ないのですが、女性の魂は女性のまま転生されるのが天界での決まり事なのです。従って、例え異世界へ転生されても、貴女は男性にはなれません」
その言葉を聞いて、多美江は膝から崩れ落ちた。
「は、はうぅ~・・・」
ここでも駄目なのか? ここでも青になれないのか?
「うぅ~・・・」
何でも叶えてくれるほど、融通をきかせてくれるわけでもないらしい。
「で、では・・・。女一人でも楽に暮らしていける何か便利なもの・・・ください」
涙声で呟くと、クリップボードを持っている人が大きく頷き何かを書き込む。
「冒険者がいる世界へ転生は可能です。他に能力や、十年ほど何もしなくても生活できるだけの金銭をお渡しします」
おお、何とご都合主義! 働かなくても暮らしていけるとは。
「地球とは勝手が違う世界です。なので十年で基礎を覚え、慣れていただくしかありません」
多美江はゲームとは無縁の世界で生きてきた。冒険者などが蔓延る世界がどういったものかというのは、ぼんやりとイメージすることしかできない。
「能力・・・チートっていうんだっけ? それもできるだけでいいので、い・・・いただきたいです」
十年も働かなくても生きていけるお金も貰えるのに、贅沢だろうか? そう思いながらも、恐る恐る声を上げた。
だがメモを取る死神さんは躊躇もせずそれにも深く頷いた。
「はい、できるだけ善処いたします。いま日本でいうところのゲーム的に楽しめる世界に転生いたします。詳しくは説明書をご覧下さい」
(説明書。・・・付くんだね)
そうぼんやりと考える。
「では、いってらっしゃい」
「えっ!? もうっ?」
多美江が叫んだ途端、雲素材の床がすぽっと開いた。
「き、ぎゃあああぁぁぁぁぁ~っ!!!!!」
多美江が叫んだ時にはすでに遥か上空になってしまった小さな穴から、黒尽くめの男たちの顔が見える。
覗いて手を振る者までいた。
「こんなに上から落ちて死んじゃうんじゃないの~っ!?」
「問題ありませ~んっ! どうぞ第二の人生お楽しみくださ~いっ!」
呑気な死神長官の声に多美江は憤りを感じ、これ以上ないってくらい叫ぶ。
「楽しめるか~っ!!! 馬鹿野郎~っ!!!」
そうしている間にいくつかある雲の層をずぼずぼ抜け、遥か下の眼下に小さな島が見えた。
「マジでこの高さはヤバイって・・・。絶対死ぬよ~。第二の人生が早くも終わっちゃう~っ!」
いっそ気を失いたい。でも失えない。何かの作用でも働いているのかと思うほど、異常なほど意識がはっきりとしていた。
地面はどんどん近付いてくるし、気は失えないし・・・。
「もうどうにかして~っ! ぎゃああああぁぁぁぁ~っ!!!!」
眼下には森が、あんなところに落ちたら確か足の骨が砕けるって聞いた。一応足をクロスする。
「これじゃあ二本とも折れるかもね・・・」
でももう何の対処も出来ない。すでに地面は目の前だ。
その瞬間、風が地面から湧き上がりふわんと浮いた。
「だあっ!」
落ちていたのに急に浮くと、内臓が逆らって下に行く感じがして・・・。思わず苦痛の声が漏れる。本当は痛くも苦しくもないのだけど、何となくだ。
三十メートル、十メートル、五メートル。地面はゆっくりと近付く。
「よ、よかったぁ~・・・」
これで少なくとも死ぬことはないだろう。
そう安心していたところで、残り一メートルというところまできた。
そして急に浮力を失った。
「ぶへっ!」
鼻から落ちてしまった。
急なので受け身も取れない。あんなに日本で習った受け身なのに・・・。
「ど、どうせなら最後まで浮いててよ。地味に痛いじゃない・・・」
真っ白だった衣装は鼻が地面に着いた途端変わっていた。
茶色とオレンジ系の衣装。
胸あてが皮で出来ているのかオレンジ色・・・というかキャメル色をしていた。あとは全体的に茶色。
膝上くらいのロングのシャツの上から、短いお腹周りだけのコルセットが巻かれている。シャツの下は結構ピタッとサイズのズボンをはいて、その上から編み上げのロングブーツを着用。
肩から斜めにかかる小さな鞄。男の子がつけるようなデイバッグのようなものを背にしていた。
「これが異世界仕様ね」
確か説明書を読めって言っていたはず・・・。
説明書は何処だ?
多美江はきょろきょろとあたりを見回した。
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