ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 マリリーネと多美江がいちゃこらしていると、目の前に壁が迫ってきた。
 多美江が顔を上げると、先程水をやった男性の一部の五人が目の前に立っていた。身体が大きい分多美江の周りは暗くなり、本当に壁みたいになっている。
「何よ、あんたたち」
 マリリーネが多美江の髪をいじりながら、五人を睨みつけた。
「ターミャちゃん、お兄さんがいるんだろ?」
「・・・・・・はい」
 いったい何なのか? 五人の笑顔が、ちょっと怖い。
「そうだ。ターミャちゃんのお兄さんっていくつ? 男前?」
 マリリーネが思い出したように、多美江に満面の笑顔で聞く。
「兄は二十歳です。妹の私から見ても・・・男前かな」
「きゃあぁぁぁ~っ!」
 嬉しそうにマリリーネは歓喜の声を上げて、多美江の手を掴んできた。
「ターミャちゃん、紹介してっ!」
 ああ・・・、そういうことか。しかしどんなにマリリーネが美人でも、紹介はできないだろう。だって兄のジルドは架空の人間なのだから。
「あ~・・・、でも兄は人前には決して出ませんよ? 影からの会話なら可能・・・・・・かなぁ~?」
 五分しか持たないことを考えれば、それもちょっと無理かな?
「ターミャちゃんの前では平気なんでしょう?」
「はい、さすがに妹ですからね」
 手を離そうとするけど、意外にマリリーネの力が強い。逃してなるものかという執念を感じる。
「ちょっとマリリーネさんっ! 俺の話に割り込まないで下さいよっ」
 このギルド内に、手を引いて入れてくれたダニーが憤慨している。
「どうせ、ろくでもない話でしょうが。こっちの方が切迫しているのよっ!」
「弟と同じ年の奴、狙うなよ~」
 顎に髭を生やした男性が、呆れたように声を出す。
「私の理想はヴァレンス団長のような男前なのよ。もう若くもないって自覚しているからこそ、焦っているんでしょうがっ!」
 ドン! と机を叩くマリリーネはとても迫力があった。
 多美江も仰け反ってしまうほどだ。先程までの優しいマリリーネは、何処へいってしまったのだ。
「こ、怖っ」
「早く話しなさいよっ!」
 マリリーネ、逆切れである。
「タ、ターミャちゃん。お兄さんと一緒に、俺たちの仲間に入らないか?」
「仲間・・・・・・」
 要するにパーティに入らないかということか。しかしこれにも問題点が多々ある。
「でも、あの・・・。兄は人前には出られないので、ちょっと・・・無理かも」
「そんなに兄さんは人見知りなのか?」
 顎髭が眉尻を下げながら話す。
「あ、紹介がまだだった。俺はダニー。この髭のごつい人がリーダーのグリソンさん。あとはその他大勢ということで」
「「「おいっ!」」」
 ダニーはその他大勢の男性たちから、はがいじめされて首を絞められてしまう。
「や、やめろ~っ」
 その間に顎髭リーダー、グリソンはさらに多美江に詰め寄る。
「俺たちの班には、まともに魔術を使える者がいないんだ。何とか魔力増幅剤で補ってはいるが、それももの凄く高い代物だしな」
 パーティのことを、ここでは班というらしい。それに魔力増幅剤・・・そんなものがあったのか。
 それを使えば魔力がない人でも魔術を使えるのか?
「ターミャちゃんが入ってくれると・・・凄く、もの凄~く助かるんだけどな~」
 恨みがましい目で見られるが、こればかりはどうしようもない。
「初めての仕事は、確かに手慣れた人たちと組むのはいいことよ? 一回だけでもやってみれば?」
「そうだよっ! 兄さんが無理なら、ターミャちゃんだけでの参加も大丈夫だからさ。一回お試しってことでやってみないか?」
 藁にも縋るように拝まれると断りにくい。でも一度引き受けたらきっと、次も次もとなるに違いない。
「・・・・・・ごめんなさい」
「あ~・・・、駄目か?」
「しつこい男は嫌われるぞ」
 カポードが帰ってきた。ギルラスとの話は終わったようだ。
「お譲ちゃんほどの実力があれば、お前たちは反対に足手まといだろうよ」
「うわっ! そこまで言う~? カポードさん」
「情け容赦ないな~・・・」
 ちょっと小競り合いしていた四人も帰ってきた。
「実際そうだろうな」
「ああ・・・、ギルドマスターにも言われた」
 皆がしゅんとしながら、その場を去って行く。
「ああ、敵がいなくなった。さあ、ターミャちゃん。お兄さんの情報もっと頂戴。お兄さんは何が好き? 食べ物は? 色は? 身長はどのくらい?」
 わきわきしてマリリーネが再度多美江の手を掴んだ時、ギルラスが口を挟んだ。
「ギルドの説明は終えたのか? 仕事をしてから口説けよ?」
「あ、そうだった。ターミャちゃんは実力はあるけど、誰でも最初はF階級から始まるからね。あの入り口に張ってあるのが仕事の依頼ね。受けたい仕事があったら剥がして、受付まで持ってきて。仕事をこなすほどに階級は上がっていくの。D階級までは昇級試験なしで上がれるわ。それ以上は年に一度ある昇級試験を受ける必要があるの。C階級以上は緊急事態には強制的に駆けつけなければならない義務があるのよ。だからそれが煩わしい人はC階級の試験を受けない人もいるわ」
 おお~、結構な情報量だ。
 そう言えば確か、死神長官ボーガンも少しだけ話してくれていたなと思い出す。
 しかしやや早口のマリリーネに、あまり理解はできない。っていうか頭が追い付かない。
「ターミャにはできれば昇級試験は受けて欲しいところだがな・・・」
 ギルラスがぼそりと呟く。
 ギルドマスターとしては、優秀な人材は手下に置いておきたいということだろうか?
 すでに魔力量が多いと露見してしまった多美江としては、これ以降慎重に行動しなければならないと肝に銘じた。
「このタグはあれば、どの町のギルドでも仕事をできるの。でも仕事依頼の優先権があるのは、ここのギルドだからね」
 優先権とかあるのかと、多美江は思う。
 この仕事はこの人が最適。とかいうのだろうか?
 それは強制ではなく?
「もちろん他に先に仕事を受けている場合は、その仕事優先でいいの。ただターミャちゃんは知らないかもしれないけど、普通冒険者志望の子たちはこのギルドマスターに支持したい憧れているって子がほとんどだから、自然に登録したギルドの従うのよね。ターミャちゃんはギルラスさんのこと知らなかったのよね?」
「・・・・・・はい」
 どうにも返事のし難い質問だ。
 ギルラス本人も苦笑しているし・・・。
「これはギルドの規約書ね。わからないことがあれば、また聞いて」
 有り難いことに冊子があるらしい。これでゆっくり頭が整理できる。
「これね・・・文字読めない子もいるから、無駄になることが多いのよ。その辺ターミャちゃんは文字も読めるし書けるし、いい子だね~」
 そう言ってマリリーネに頭を頬刷りされる。
 力が強いマリリーネがすると、またも微妙に痛かった。
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