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「ターミャちゃん、降りて」
「あ、はい」
多美江は無駄に高い御者台から、またも「よいしょ、よいしょ」小さく無意識に呟きながら降りようとすると、エブリンに後ろから抱えられてしまった。
「ひゃっ!」
「あ~、軽いねぇ。カポードさん、何を食わせているのさ」
「ああ? そう言えば、まだ何も食わせてないな」
それを聞いて、エブリンは眉を吊り上げる。
「はあ? 何も食わせてない? 幼児虐待かい?」
幼児・・・・・・。そんなに幼く見られているのか・・・。
しかし、何でこの御者台はこんなに高いのだ? 他の街中を行く馬車も少し見たが、カポードのものというほどではないが皆高いようだ。
もし自分が馬車を買う日がくる時は、ステップを付けてもらわなくてはならないだろう。
今だって精一杯全身を伸ばしまくって、ようやく足が地面に着くか? というほどなのだから・・・。
「あ、あの・・・降ろして下さい」
ぷるぷるもしないエブリンの腕に、ちょっと情けなくなってくる。
「遠慮しなくてもいいよ。あんたくらいなら1時間だって二時間だって、抱えてられる」
(マジか・・・)
カポードが呆れたような声で援護してくれた。
「降ろしてやれよ、エブリン。ターミャちゃんの顔があまりにも真っ赤で可哀想だ」
「おやおや・・・・・・」
ここの世界の人の過保護ぶりは無自覚が多いので、非常に心と身のやり場に困る。
多美江を降ろすか降ろさないかのタイミングで、カポードは馬車ごと裏へ回って行った。どうやらどの家やお店でもこういったものは裏に停めるのが基本らしい。
「カポードさんは裏から入ってくるだろうから、先に入ってようか」
そう言いながら多美江の手を引き、エブリンは中へと促した。
中もこじんまりとして、凄く可愛らしい作りになっていた。白い壁に木のぬくもりが感じられる家具。窓にかかるカーテンも小花が散らしたもの。小さなお花の植木鉢も要所要所にあって、とてもメルヘンだった。
裏から入ってきたカポードが「ちっ」と舌打ちする。
「相変わらず似合わねぇ家だな」
おじさんには居心地が悪い宿になっているようだ。
「この図体でこの乙女心だからな・・・・・・」
確かに意外かもしれない。
「何日、泊まるんだい?」
大人対応のエブリンに、多美江は尊敬のまなざしを向ける。もう少し怒ってもよさそうなものなのに。カポードの言葉はそれほど辛辣だ。
「俺は明日帰る」
「・・・・・・俺は? この子は? もしかして置いていく気かい?」
カポードは笑顔で多美江の背中を押す。
「この子はこう見えて、もう十五歳だ。それに今日、冒険者になったばかりだからな」
「冒険者っ!? この子が?」
疑うような目を向けられるのも、もう慣れてきたなと多美江は思う。
「ターミャちゃん、エブリンも元は冒険者だ」
「へ?」
驚いて、すぐ側に立つエブリンを見上げる。
でも納得した。だからこの筋肉質な身体なのだ。
「この子は魔術師だ。国に目を付けられかねないほどのな」
「あ~・・・・・・」
すべて把握したかのようなエブリンの素振りに、ここへ連れてきて正解だったとカポードは笑む。
昔から冒険者と国の管轄である騎士団とでは諍いがあった。
ギルラスがシムスのギルドマスターを引き継いでからは、大分とそれもましになってはいたが。細かなものは、いまだに起きている。
もし魔獣などが現れれば、まず前線に立つのは冒険者だ。騎士は団体を組んでゆっくりとやってくる。それが冒険者たちの反感を買っている。
しかも優秀な魔術師は国が持っていく始末だ。
ほぼ身一つで敵と対峙する冒険者に取って、戦いはまさに死闘と言える。
「ターミャちゃんだっけ? あんたは何日泊まるつもりだい?」
「しばらくはこの街にいたいので・・・」
ここで心配なのが、宿代がいくらくらいなのかだ。あまり高いと家を借りた方が安いかもしれない。
「ここは朝夕二食付きで一日五千ラリーだよ」
「まあ、高くもなく低くもないって値段設定だな」
カポードがそういうのだから、それが正しいのだろう。
「この子はな何と北の最果て、クリシャーナからきたんだ」
「あんな遠い所からかいっ? そりゃここの物価は高いって思うだろうね~。わかった。私も小さな子から、そんなに多くは取りたくないからね。昼もつけて一日三千ラリーでどうだい?」
お昼ご飯もつけてくれて、しかも安くなっている・・・。どういう計算の仕方なんだ?
多美江が躊躇っていると、カポードが苦笑した。
「こんなに安い宿は、さすがにもうないぞ。もう決めてしまえ」
「あ・・・、はい。では一応十日ほどお願いします。その後は様子を見てからでもいいですか?」
「はい、毎度」
多美江のシムスでも暮らしが始まった。
「あ、はい」
多美江は無駄に高い御者台から、またも「よいしょ、よいしょ」小さく無意識に呟きながら降りようとすると、エブリンに後ろから抱えられてしまった。
「ひゃっ!」
「あ~、軽いねぇ。カポードさん、何を食わせているのさ」
「ああ? そう言えば、まだ何も食わせてないな」
それを聞いて、エブリンは眉を吊り上げる。
「はあ? 何も食わせてない? 幼児虐待かい?」
幼児・・・・・・。そんなに幼く見られているのか・・・。
しかし、何でこの御者台はこんなに高いのだ? 他の街中を行く馬車も少し見たが、カポードのものというほどではないが皆高いようだ。
もし自分が馬車を買う日がくる時は、ステップを付けてもらわなくてはならないだろう。
今だって精一杯全身を伸ばしまくって、ようやく足が地面に着くか? というほどなのだから・・・。
「あ、あの・・・降ろして下さい」
ぷるぷるもしないエブリンの腕に、ちょっと情けなくなってくる。
「遠慮しなくてもいいよ。あんたくらいなら1時間だって二時間だって、抱えてられる」
(マジか・・・)
カポードが呆れたような声で援護してくれた。
「降ろしてやれよ、エブリン。ターミャちゃんの顔があまりにも真っ赤で可哀想だ」
「おやおや・・・・・・」
ここの世界の人の過保護ぶりは無自覚が多いので、非常に心と身のやり場に困る。
多美江を降ろすか降ろさないかのタイミングで、カポードは馬車ごと裏へ回って行った。どうやらどの家やお店でもこういったものは裏に停めるのが基本らしい。
「カポードさんは裏から入ってくるだろうから、先に入ってようか」
そう言いながら多美江の手を引き、エブリンは中へと促した。
中もこじんまりとして、凄く可愛らしい作りになっていた。白い壁に木のぬくもりが感じられる家具。窓にかかるカーテンも小花が散らしたもの。小さなお花の植木鉢も要所要所にあって、とてもメルヘンだった。
裏から入ってきたカポードが「ちっ」と舌打ちする。
「相変わらず似合わねぇ家だな」
おじさんには居心地が悪い宿になっているようだ。
「この図体でこの乙女心だからな・・・・・・」
確かに意外かもしれない。
「何日、泊まるんだい?」
大人対応のエブリンに、多美江は尊敬のまなざしを向ける。もう少し怒ってもよさそうなものなのに。カポードの言葉はそれほど辛辣だ。
「俺は明日帰る」
「・・・・・・俺は? この子は? もしかして置いていく気かい?」
カポードは笑顔で多美江の背中を押す。
「この子はこう見えて、もう十五歳だ。それに今日、冒険者になったばかりだからな」
「冒険者っ!? この子が?」
疑うような目を向けられるのも、もう慣れてきたなと多美江は思う。
「ターミャちゃん、エブリンも元は冒険者だ」
「へ?」
驚いて、すぐ側に立つエブリンを見上げる。
でも納得した。だからこの筋肉質な身体なのだ。
「この子は魔術師だ。国に目を付けられかねないほどのな」
「あ~・・・・・・」
すべて把握したかのようなエブリンの素振りに、ここへ連れてきて正解だったとカポードは笑む。
昔から冒険者と国の管轄である騎士団とでは諍いがあった。
ギルラスがシムスのギルドマスターを引き継いでからは、大分とそれもましになってはいたが。細かなものは、いまだに起きている。
もし魔獣などが現れれば、まず前線に立つのは冒険者だ。騎士は団体を組んでゆっくりとやってくる。それが冒険者たちの反感を買っている。
しかも優秀な魔術師は国が持っていく始末だ。
ほぼ身一つで敵と対峙する冒険者に取って、戦いはまさに死闘と言える。
「ターミャちゃんだっけ? あんたは何日泊まるつもりだい?」
「しばらくはこの街にいたいので・・・」
ここで心配なのが、宿代がいくらくらいなのかだ。あまり高いと家を借りた方が安いかもしれない。
「ここは朝夕二食付きで一日五千ラリーだよ」
「まあ、高くもなく低くもないって値段設定だな」
カポードがそういうのだから、それが正しいのだろう。
「この子はな何と北の最果て、クリシャーナからきたんだ」
「あんな遠い所からかいっ? そりゃここの物価は高いって思うだろうね~。わかった。私も小さな子から、そんなに多くは取りたくないからね。昼もつけて一日三千ラリーでどうだい?」
お昼ご飯もつけてくれて、しかも安くなっている・・・。どういう計算の仕方なんだ?
多美江が躊躇っていると、カポードが苦笑した。
「こんなに安い宿は、さすがにもうないぞ。もう決めてしまえ」
「あ・・・、はい。では一応十日ほどお願いします。その後は様子を見てからでもいいですか?」
「はい、毎度」
多美江のシムスでも暮らしが始まった。
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