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会社の毒華
2話
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社有車を会社の横にある青空駐車場に停めて二人は古ぼけた事務所のガラス扉を開いた。
「お、二人ともお疲れ」
扉を開けてすぐに見える応接スペースに置かれたソファには先客がいた。
「あ、松岡さん!お疲れ様です!」
「デン、どうだ最近?これ出張の土産だから食えよ」
「あざっす」
そこにいたのは松岡 久夫という他の会社で社長をしているが簡清株式会社の役員をしている中年男性だ。
時折、事務所に来てはデンや梅迫の愚痴を聞いてくれるだけでなく餌付けのようにお菓子もくれる。
「松岡さん、お元気そうで」
「梅迫さん、いやぁでも最近ね、ゴルフ行ったら次の日腰が痛くてね。年には勝てないよ」
松岡と岳剛社長はそこそこ仲がいい。
というのも元々社長同士の交流会の場でゴルフという共通の趣味で盛り上がったようだ。
社長はゴルフが大好きで一カ月のうちに会社にいる時間よりもゴルフ場にいる時間の方が長い。
「何言ってるんですか。まだまだお若いですよ」
梅迫は苦笑気味に松岡を持ち上げる。
松岡は53歳と梅迫よりも少し年上だ。
それに対してデンとは30くらい年が離れているので息子のようにかわいがってくれる。
早速デンは松岡のお土産を口いっぱいに食べていた。
「こへ、ほいしいれふ」
「コラコラ、飲み込んでから離せ」
梅迫は慌ててデンに置いてあったペットボトルの水を渡した。
「二人とも変わらずでよかったよ。今日、タケは?」
松岡は岳剛社長のことをあだ名で呼んでいる。
「朝はいましたよ」
デンは苦い顔をして答えた。
「車が駐車場になかったので営業か打ち合わせか…」
ゴルフという言葉を梅迫は飲み込んだ。
「そうかそうか、最近会えてないから顔でも見たかったんだけどな」
「社長には後で松岡さんがいらしてたこと伝えておきます」
「頼んだよ。それじゃあそろそろお暇するかな」
「あ、はい、お見送りします!」
デンは勢いよく椅子から立ち上がると松岡の後を追いかけていった。
梅迫も扉を出ていく松岡に一礼するとノルマのゴミの仕分けに取り掛かった。
…
簡清株式会社は岳剛社長、幹雄会長、デン、梅迫以外にも人がいる。
まず幹雄会長の奥さん。
彼女は名ばかりの監査役で役員報酬だけを持って行っているが会社には一度も姿を見せたことはない。
そしてアルバイトの大学生を二人ほど雇っているがあまりにブラックなのでその顔触れはかなりの短期間に入れ替わる。
それから女性事務員の前田がいる。
以前は岳剛社長の奥さんが事務員をしていたが妊娠を機に辞めてしまった。
そこで新たに雇う必要があり去年デンと一緒に採用されたのだった。
「梅迫さん、ちょっといいですか」
前田の日課は社長室にある鉢植えへの水やりと社長や来客へのお茶くみだ。
その他の業務としては長年、梅迫が担っていた経理関係の業務を一部引き継いでくれた。
まだまだ梅迫に聞きたいことがあるようでよく声をかけてくる。
「あぁ、どうした?」
「この領収書なんですけど、どれで計上したらいいんでしょうか?」
「これはな…」
決算時期が近づくとどうしても名前の付けがたい領収書も増えてくる。
それらをうまくどうにかすることが仕事ともいえた。
「げ、またかよ」
事務員の向かい側の席でデンは自身の携帯に来た岳剛社長からのメールに舌を出していた。
出張の手配も基本的には事務員の仕事だがなぜかデン経由で出張手続きをすることがある。
言わずもがな秘密の愛人との旅行だろう。
デンに命令が来るのは梅迫経由で妻や幹雄会長にバレないようにするためらしい。
デンと梅迫が出張に行く、という名目で経費を落とさせているのだ。
「はぁ、めんどくせぇな」
デンは指定された日付と目的地と宿をネット検索して自身の名前と梅迫の名前で予約を取る。
万が一、デンが社長に愛人がいることをバラしたとしてもデンが社長にさらに虐められるだけで今のところメリットがないので黙っているしかない。
「出張費、っと。これもお願いします」
事務員に印刷した領収書を手渡すと受け取った領収書に不備がないかを確認している。
「…はい、大丈夫です」
「あざっす」
ようやくデンは自分の仕事に取り掛かるのだった。
「お、二人ともお疲れ」
扉を開けてすぐに見える応接スペースに置かれたソファには先客がいた。
「あ、松岡さん!お疲れ様です!」
「デン、どうだ最近?これ出張の土産だから食えよ」
「あざっす」
そこにいたのは松岡 久夫という他の会社で社長をしているが簡清株式会社の役員をしている中年男性だ。
時折、事務所に来てはデンや梅迫の愚痴を聞いてくれるだけでなく餌付けのようにお菓子もくれる。
「松岡さん、お元気そうで」
「梅迫さん、いやぁでも最近ね、ゴルフ行ったら次の日腰が痛くてね。年には勝てないよ」
松岡と岳剛社長はそこそこ仲がいい。
というのも元々社長同士の交流会の場でゴルフという共通の趣味で盛り上がったようだ。
社長はゴルフが大好きで一カ月のうちに会社にいる時間よりもゴルフ場にいる時間の方が長い。
「何言ってるんですか。まだまだお若いですよ」
梅迫は苦笑気味に松岡を持ち上げる。
松岡は53歳と梅迫よりも少し年上だ。
それに対してデンとは30くらい年が離れているので息子のようにかわいがってくれる。
早速デンは松岡のお土産を口いっぱいに食べていた。
「こへ、ほいしいれふ」
「コラコラ、飲み込んでから離せ」
梅迫は慌ててデンに置いてあったペットボトルの水を渡した。
「二人とも変わらずでよかったよ。今日、タケは?」
松岡は岳剛社長のことをあだ名で呼んでいる。
「朝はいましたよ」
デンは苦い顔をして答えた。
「車が駐車場になかったので営業か打ち合わせか…」
ゴルフという言葉を梅迫は飲み込んだ。
「そうかそうか、最近会えてないから顔でも見たかったんだけどな」
「社長には後で松岡さんがいらしてたこと伝えておきます」
「頼んだよ。それじゃあそろそろお暇するかな」
「あ、はい、お見送りします!」
デンは勢いよく椅子から立ち上がると松岡の後を追いかけていった。
梅迫も扉を出ていく松岡に一礼するとノルマのゴミの仕分けに取り掛かった。
…
簡清株式会社は岳剛社長、幹雄会長、デン、梅迫以外にも人がいる。
まず幹雄会長の奥さん。
彼女は名ばかりの監査役で役員報酬だけを持って行っているが会社には一度も姿を見せたことはない。
そしてアルバイトの大学生を二人ほど雇っているがあまりにブラックなのでその顔触れはかなりの短期間に入れ替わる。
それから女性事務員の前田がいる。
以前は岳剛社長の奥さんが事務員をしていたが妊娠を機に辞めてしまった。
そこで新たに雇う必要があり去年デンと一緒に採用されたのだった。
「梅迫さん、ちょっといいですか」
前田の日課は社長室にある鉢植えへの水やりと社長や来客へのお茶くみだ。
その他の業務としては長年、梅迫が担っていた経理関係の業務を一部引き継いでくれた。
まだまだ梅迫に聞きたいことがあるようでよく声をかけてくる。
「あぁ、どうした?」
「この領収書なんですけど、どれで計上したらいいんでしょうか?」
「これはな…」
決算時期が近づくとどうしても名前の付けがたい領収書も増えてくる。
それらをうまくどうにかすることが仕事ともいえた。
「げ、またかよ」
事務員の向かい側の席でデンは自身の携帯に来た岳剛社長からのメールに舌を出していた。
出張の手配も基本的には事務員の仕事だがなぜかデン経由で出張手続きをすることがある。
言わずもがな秘密の愛人との旅行だろう。
デンに命令が来るのは梅迫経由で妻や幹雄会長にバレないようにするためらしい。
デンと梅迫が出張に行く、という名目で経費を落とさせているのだ。
「はぁ、めんどくせぇな」
デンは指定された日付と目的地と宿をネット検索して自身の名前と梅迫の名前で予約を取る。
万が一、デンが社長に愛人がいることをバラしたとしてもデンが社長にさらに虐められるだけで今のところメリットがないので黙っているしかない。
「出張費、っと。これもお願いします」
事務員に印刷した領収書を手渡すと受け取った領収書に不備がないかを確認している。
「…はい、大丈夫です」
「あざっす」
ようやくデンは自分の仕事に取り掛かるのだった。
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