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会社の毒華
4話
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アツアツの真っ白なおしぼりが二人の日々の緊張をほぐす。
「乾杯!」
「お疲れっす」
二人のジョッキがぶつかって鈍い音を立てて中の液体が揺れる。
ジョッキが離れると梅迫は一気にビールを煽った。
デンはハイボールを飲んでいた。
炭酸が喉から食道を駆け抜けていく。
「しっかし今日も疲れましたね」
「そうだな」
二人ともアルコールが日々の疲れにしみていた。
「今日も言われたっすよ、俺、頭悪い奴嫌いなんだよねって」
デンはお通しのキャベツに箸を指しながら愚痴り始める。
「あれはもはや口癖だよな」
「そうっすね、それから舌打ちも」
「よく客の前とかで出さないよな」
「外面はいい、ってやつじゃないすか」
「違いない」
こうして二人は二杯、三杯とどんどんアルコールを摂取していく。
店員が机の上に並べてくれたおつまみたちも次々に二人の腹の中に消えていった。
「そういえばオレ、あんまし会長に会ったことないんですけど、どんななんすか?」
デンは急に思い立ったように言った。
つくねを飲み込んだ梅迫は困ったように口を開いた。
「どんなって言われてもなぁ」
幹雄会長は人格者として外では有名だった。
あくまでも外ではだが。
梅迫は拾ってもらった恩があるのであまり悪く言えないが、すまないといいつつ仕事を押し付けてくる少し質の悪いところが苦手だ。
「似てるところとかあります?」
デンは串から焼き鳥を引き抜きながら梅迫に尋ねる。
「似てるところなぁ…すぐ怒るところかな、あとは外面だけはいいところ、ゴルフ好きなところとか」
指を折りながら列挙していく梅迫をみてデンはケラケラ笑った。
「しっかり悪口じゃないすか」
「そうだな、そうかもな。ただ頭の悪い奴が嫌いとかは言わないぞ」
笑いながら応える梅迫も色々と思うところがあるようだった。
アルコールが二人に沁みわたりラーメンが恋しくなってきたころだった。
ふと梅迫が呟く。
「デン、おまえ岳剛社長にいくら生命保険掛かってるか知ってるか?」
デンはぎょっとして思わず割り箸を床に落としてしまう。
「え、いくらっすか」
割り箸を拾ったデンは身を乗り出して梅迫に迫る。
「この前、片付けてたら証券見つけちまってよ…1憶円だってよ」
梅迫は金額の部分だけ少しだけ声のトーンを低くしていた。
デンは思わず生唾を飲んだ。
「それって死んだら全部奥さんが受け取るやつですか?」
「それが受取は会社になってんだよ」
事業継承のための保険のようだが梅迫は少し訝しんでいた。
「いいなぁ、金のある人は…」
デンには特段違和感がないようで単に金額に驚いただけである。
彼自身、貯金が苦手で宵越しの銭は持たないというか持てないタイプだ。
「おまえは入ってきたらそこから消えていくもんな」
梅迫はいつものデンの様子を思い浮かべて笑った。
金欠で給料日前はいつも辛そうだ。
「梅さんはなんかうまいことやってそうっすね」
梅迫自身も嫁と子供には苦労を掛けているのでどっこいどっこいなのかもしれない。
「どうだろうな」
梅迫はデンの手元にあったウーロンハイをさりげなくノンアルコールのウーロン茶に差し替えた。
「オレたまに思うんすよ、オレといっさん二人で一気に休んだらどうなるかなって」
デンはノンアルコールであることに気が付かないまま一気に手元のグラスから飲む。
「休めないけどな」
簡清株式会社に有休なんてものは存在しない。
制度としてはあれど使えない。
そのため風邪をひいて熱が出ても這ってでも出社しなければならない。
それはこんなに労働問題が取り沙汰されている現代でも幹雄会長の時代から変わることのない旧態依然な会社の現れである。
…
居酒屋の会計を終えて二人で店を出る。
さすがにもう終電も残っていないのでタクシーを探してヨロヨロと歩き出した。
「あーぁ!社長、死なねぇかな!」
寒空に向かってデンが叫ぶ。
「コラ、酔いすぎだぞ」
夜空とタクシー運転手に永遠と社長への文句をぶつけるデンを宥めながら梅迫は呼び寄せたタクシーにデンと一緒に乗り込んでようやく帰宅の途についたのだった。
「乾杯!」
「お疲れっす」
二人のジョッキがぶつかって鈍い音を立てて中の液体が揺れる。
ジョッキが離れると梅迫は一気にビールを煽った。
デンはハイボールを飲んでいた。
炭酸が喉から食道を駆け抜けていく。
「しっかし今日も疲れましたね」
「そうだな」
二人ともアルコールが日々の疲れにしみていた。
「今日も言われたっすよ、俺、頭悪い奴嫌いなんだよねって」
デンはお通しのキャベツに箸を指しながら愚痴り始める。
「あれはもはや口癖だよな」
「そうっすね、それから舌打ちも」
「よく客の前とかで出さないよな」
「外面はいい、ってやつじゃないすか」
「違いない」
こうして二人は二杯、三杯とどんどんアルコールを摂取していく。
店員が机の上に並べてくれたおつまみたちも次々に二人の腹の中に消えていった。
「そういえばオレ、あんまし会長に会ったことないんですけど、どんななんすか?」
デンは急に思い立ったように言った。
つくねを飲み込んだ梅迫は困ったように口を開いた。
「どんなって言われてもなぁ」
幹雄会長は人格者として外では有名だった。
あくまでも外ではだが。
梅迫は拾ってもらった恩があるのであまり悪く言えないが、すまないといいつつ仕事を押し付けてくる少し質の悪いところが苦手だ。
「似てるところとかあります?」
デンは串から焼き鳥を引き抜きながら梅迫に尋ねる。
「似てるところなぁ…すぐ怒るところかな、あとは外面だけはいいところ、ゴルフ好きなところとか」
指を折りながら列挙していく梅迫をみてデンはケラケラ笑った。
「しっかり悪口じゃないすか」
「そうだな、そうかもな。ただ頭の悪い奴が嫌いとかは言わないぞ」
笑いながら応える梅迫も色々と思うところがあるようだった。
アルコールが二人に沁みわたりラーメンが恋しくなってきたころだった。
ふと梅迫が呟く。
「デン、おまえ岳剛社長にいくら生命保険掛かってるか知ってるか?」
デンはぎょっとして思わず割り箸を床に落としてしまう。
「え、いくらっすか」
割り箸を拾ったデンは身を乗り出して梅迫に迫る。
「この前、片付けてたら証券見つけちまってよ…1憶円だってよ」
梅迫は金額の部分だけ少しだけ声のトーンを低くしていた。
デンは思わず生唾を飲んだ。
「それって死んだら全部奥さんが受け取るやつですか?」
「それが受取は会社になってんだよ」
事業継承のための保険のようだが梅迫は少し訝しんでいた。
「いいなぁ、金のある人は…」
デンには特段違和感がないようで単に金額に驚いただけである。
彼自身、貯金が苦手で宵越しの銭は持たないというか持てないタイプだ。
「おまえは入ってきたらそこから消えていくもんな」
梅迫はいつものデンの様子を思い浮かべて笑った。
金欠で給料日前はいつも辛そうだ。
「梅さんはなんかうまいことやってそうっすね」
梅迫自身も嫁と子供には苦労を掛けているのでどっこいどっこいなのかもしれない。
「どうだろうな」
梅迫はデンの手元にあったウーロンハイをさりげなくノンアルコールのウーロン茶に差し替えた。
「オレたまに思うんすよ、オレといっさん二人で一気に休んだらどうなるかなって」
デンはノンアルコールであることに気が付かないまま一気に手元のグラスから飲む。
「休めないけどな」
簡清株式会社に有休なんてものは存在しない。
制度としてはあれど使えない。
そのため風邪をひいて熱が出ても這ってでも出社しなければならない。
それはこんなに労働問題が取り沙汰されている現代でも幹雄会長の時代から変わることのない旧態依然な会社の現れである。
…
居酒屋の会計を終えて二人で店を出る。
さすがにもう終電も残っていないのでタクシーを探してヨロヨロと歩き出した。
「あーぁ!社長、死なねぇかな!」
寒空に向かってデンが叫ぶ。
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