真実はゴミに潜む

浅上秀

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会社の毒華

6話

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幹雄会長は一気に頭に血が上ったようで顔を真っ赤にしている。

「これが落ち着いていられるか!私の、私の一人息子が殺されたんだぞ!!」

「それなら義父様が犯人の可能性もありますよね」

岳剛社長の奥さんは気丈にも幹雄会長を睨みつけて反論し始める。

「な、なんだって私が!」

「私知ってるんですよ。この前会社のことでものすごく揉めていらっしゃったの。主人は義父様とお電話が終わった後それは機嫌が悪かったんですもの、悪い話をしていたに違いありません」

「女が会社のことに首を突っ込んでくるな!せっかくもらってやったのになんて口の利き方をするんだ」

「義父様っその時代錯誤の女性蔑視発言もどうかなさった方がいいと思いますよ」

「なんだと生意気な!」

幹雄会長は今にも殴りかかりそうな勢いでソファから立ち上がった。

「おじい様、こちらでも飲んで落ち着いていらして」

怯えながら高校生の岳剛社長の娘が幹雄会長にグラスを渡す。

「おぉ、おまえは本当に気が利くなぁ。あんな女ではなく岳剛に似たんだ、良い子に育ったのはあいつのおかげだな」

すっかり棘の取れた幹雄会長はニコニコとご機嫌にソファに深く腰掛けた。

「おじい様、あちらで一緒に遊びましょう。妹も待っておりますわよ」

「おぉ、ワシと遊びたいか、さぁ行こうか」

上手く孫二人が幹雄会長を殺伐とした空間から連れ出してくれた。
子供に頼るのは申し訳ないが、聞かせたくない話もあるのだろう。

「どうもよそさまがいるのに、すみません。毒物を探すのに朝から警察が家に来たりして大変だったんです…会社にも行くそうですよ」

会長の奥様が三人にそう言った。
最後の一言は内緒話でもするように小さな声で付け足したが。

「わかりました。我々はご家族のお邪魔でしょうからここで失礼いたします」

梅迫がデンと前田を見やると二人は梅迫の言葉に何回も頷いた。
よっぽど居心地が悪いのだろう。
会長がリビングを離れたタイミングに合わせて家を出ることにした。

「わざわざご足労いただいたのにすみません」

奥様がどうして三人を自宅に呼んだのかはわからなかった。
毒殺だったことを伝えたかったのだろうか。

「いえいえ」

「葬儀のことが決まりましたらまたご連絡させていただきます」

「はい、それでは失礼します」

幹雄会長は孫にかまってもらえてすっかりご機嫌で三人を見送ってくれた。
奥様方も玄関まで見送りに来てくれた。
三人は無言のまま社有車に乗り込む。

「二人とも家まで送ろうか」

車のエンジンをかけた梅迫が二人に尋ねる。

「あの、私会社に忘れ物をしたので送ってもらってもいいですか?」

前田は囁くように梅迫に言った。

「ああ、全然いいよ。デンはどうする?」

「俺はこの近くに家あるんでもうちょっと行ったところで降ろしてもらってもいいっすか」

「わかった」

デンを少し行ったコンビニの駐車場で降ろして梅迫と前田は二人で事務所に戻ったのだった。



次の日、出社するなり待ち構えていたのか警察官が一番最初に来た梅迫に事務所を開けさせた。
特に社長室を入念に調べているようだ。

「どうもすみません、お話伺ってもいいですか?」

「あ、ハイ」

少し遅れてきたデンも事情聴取された。
形式的な質問とはいえアリバイを問われるのは少し堪える。
デンも梅迫も事務所で残業をして二人で一緒に駅に向かって電車に乗っていたのでアリバイがあっただけましだろう。
デンの後にやってきた事務員は慣れない取り調べに終始顔色が悪かった。
ようやく終わりが見え、警察官たちは荒々しく事務所を去っていった。

「うわぁ、社長室ぐちゃぐちゃ」

体調の悪そうな事務員を早めに帰らせてデンと梅迫は後片付けを始める。
片付けながら梅迫がデンに言った。

「なぁ、いったい誰が殺したんだろうな」

「梅さんでは、ないんですよね?」

書類を整えながらデンは恐る恐る振り返った。

「さすがにな。毒なんてどこから持ってくんだって話だよ」

梅迫は一瞬、デンの言葉にドキリする。
実は梅迫はその昔、傷害罪で服役していたことがあるのだ。
刑期が明けて出所した冷たい世間の中で幹雄会長だけが梅迫に手を差し伸べてくれた。

「オレだって、毎日死ねばいいのにとは思ってましたけどね…でも俺だって殺してないっすよ」

デンはそもそも知識がないだろうから殺すとしたら撲殺などのシンプルな手段を選ぶだろうと失礼にも梅迫は思っていたため初めから疑っていなかった。




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