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浅上秀

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番外編 アイドル引退宣言

4話

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この社長、そんなこと言っていいのだろうか。
タツヤのことは最後の切り札にするべきだと俺は思うけど。

「人質ですか。穏やかじゃないですね」

「はは、わかったいるだろう。うちの商品に手を出しやがって」

「商品ね」

散々な言いようだ。

「うっ、なんだ、急に、眩暈が」

ようやく薬が効いてきたようで社長は頭を抑えている。

「はぁ、これ効き目悪いんじゃないか」

店員のふりをしてドリンクを持ってきてくれた山城に伝えると彼は笑っていた。

「おかしいなぁ、即効性のはずなんだけどな。わかったこいつが太ってるからだよ」

非常に蔑んだ目で山城は男のことを見ている。

「山城、お前さりげなくひどいな」

「さりげなくじゃなくてわざとだからね」

「たちが悪いぞ」

完全に意識がなくなったことを確認して俺たちは彼の身体を運び出した。



重量のある成人男性を男二人で運ぶのは非常に大変な作業だった。
二人で脇の下から肩を回してさも酔っ払いを介抱していますよ、という雰囲気でバーを出る。

「こいつの秘書とか付いてきてないのかよ」

「一応、密談だからじゃないかな」

山城が合図するとどこからともなく運営の仲間が現れた。
意識のない男性を運ぶことに手慣れている彼らは受け取ると何事もなかったかのように男の身体を運んでいく。

「さぁ、俺たちも移動しようか」

「あぁ」

男が黒塗りのいかにもなワゴン車に乗せられたのを見届けて山城の車に乗り込む。
連れていかれた場所は非常に懐かしい場所だった。

「おまえ、本当に趣味が悪いな」

「ふふふ、お気に召すかと思って」

そこは俺が初めてタツヤと出会った場所だった。
しかも部屋まで同じとは、本当にこの男は趣味が悪い。

「縛り方も一緒にしておいてあげたよ」

「そこまで再現しなくていいって」

あまりにあの日の再現度が高すぎて驚く。
ビール腹のおっさんが全裸で縛られている光景にはさすがの俺でも興奮しないが。

「で、こいつはあとどれくらいで目が覚めるんだよ」

「明日の朝までぐっすりな量だからこれから強制的に起きていただこうかと思って」

「マジかよ」

山城はポケットからアンプルのようなものを取り出した。
そして男の鼻の目の前で空けて匂いを嗅がせている。
数秒後、むせながら男は目を開けた。

「おはようございます、社長。その節はどうも」

「お、おまえたち、私にこんなことをして許されるとでも思っているのか」

思った通り、開口一番お怒りの声が飛んでくる。

「社長、約束を先に破ったのはあなたの方ではありませんか。まさかあんなパチモンのサイトを作ってお遊びになられて喜ぶとは」

「パチモンとはなんだ。現にあんたのところの顧客はみんなうちのサイトに流れてきているんだよ。さては負け惜しみか?」

全裸でベットに縛られながら山城に啖呵を切れるこいつの豪胆さにはあっぱれだ。
しかし相手が悪いぞ。

「ははは、それは全部うちから送ったサクラ。こっちの社長がもうあんたには愛想が尽きたってさ。残念だったな」

「なにを出鱈目なことを」

見事なまでの売り言葉に買い言葉。
俺は若干、暇すぎてあくびが出てきた。

「おいおまえ、こんなことをしていいと思っているのか。タツヤがどうなっても知らないぞ。おまえだってあのビデオをこいつに見られたらまずいだろう」

おっと、こっちにまで飛び火してきたぞ。

「俺は山城に知られて困ることなんてないんでね。てか知ってほしくないことまで全部知ってるし今更だろ。タツヤに関しては山城がどうにかしてくれるって補償してくれたから俺はこの話にのってるんだ、残念だったなぁおっさん」

「こ、この野郎!!」

男はベットの上で激しく暴れるが拘束が緩むことはない。
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