21 / 47
第21話 いなくなったユウくん
しおりを挟む
次の日の放課後。私たちは、体育館の隅で部活動紹介の出番を待っていた。
その途中で先生がやって来て、簡単な説明をしてくれる。
「君達の順番がくる少し前に、機材のセットに入って。部活の説明や演奏は、時間内に納まれば自由にやってくれていいから」
「わかりました」
返事をしながら、ステージを見上げる。
いくつかの部が発表を終えているけど、私たち軽音部の順番までには、まだ少し時間があった。
それでも、これから自分達があそこに立って演奏するのかと思うと、早くも緊張してくる。
三島を見ると、ギターを持って何度も指の動きを確認している。
緊張してるのは、こっちも同じみたい。
(私も、最後の練習をしておかないと)
ベースを取り出して、昨日練習した曲の動きを確認する。
「二人とも、少しは落ち着きなって」
ユウくんがそう言うけど、落ち着くのは、ちょっと難しいかも。
「だって、あんな演奏じゃ心配だよ」
昨日の練習の様子を思い出す。
あれから三島と二人で何度か弾いてみたけど、上手くいかないところがたくさんあった。
元々、そういうことになるって覚悟して、それでも演奏するって決めたんだけど、やっぱり不安になる。
「こんなことになるなら、前からもっと一緒に練習しておけばよかったな」
三島がぼやくけど、私もそう思う。
今の私たちに足りないところなんてたくさんあるけど、特に、お互いの息が全然合ってない。
一人で弾いてた時はなんとかいけるって思えたところも、二人の音を重ねると、どうにも噛み合わないことが多かった。
そりゃそうだよね。
私たちが今まで一緒に練習したのは、せいぜい数回。そのくらいじゃ、息が合わないのも無理ないよ。
不安になる私たちを見て、ユウくんは小さくため息をつく。
「今それを言っても仕方ないだろ。それとも、やっぱり辞退した方が良かったって思ってるのか?」
「それは……」
突然の言葉に、顔を見合わせる私たち。
それから、三島が先に答えた。
「いや……弾きたいか弾きたくないかって言われたら、やっぱり弾きたい」
不安や緊張はあっても、その答えだけは昨日と変わらない。
それは私も同じだ。
「……私も、弾きたい」
力不足なのはわかってる。それでも、演奏自体はやっぱりやってみたかった。
するとそれを聞いて、ユウくんも安心したように微笑んだ。
「そうだろ。なら、もっと楽しみなよ。初めてのことだから、不安なのも緊張するのも当たり前。でも、上手くやらなきゃってことばかり気にしてたら、つまらなくなるぞ。だから決して無理せず、楽しいと思える事を精一杯出来たらそれで良いって、俺は思うよ」
「……うん、そうだね 」
優しく諭すような言葉に、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
ユウくんが背中を押してくれると、何の根拠もないのに、不思議とそれだけで気持ちが前向きになってくる。
「何だか、先輩っぽいこと言ってるな」
三島が生意気なことを言うけど、それは、緊張をとるためあえてそんなことを言っているようにも見えた。
そしてユウくんも、それを気にする様子はない。
「二人は俺にとって、軽音部で出来た初めての後輩だからな。こういう時は、先輩風を吹かせてもらうぞ」
ユウくんが冗談っぽく言うと、ようやく、その場の空気が少しだけ和らいだような気がした。
それから、見学に来ている生徒達に目を向ける。
さっきまでは緊張しすぎて、それを眺める余裕もなかった
集まっているのは、ほとんどが新一年生。
私たちも一年生なんだから、本当ならそっちにいるのが自然なはず。
そう思うと、なんだか不思議な感じがした。
「そうだ。真由子、いるかな?」
今日、私たちが演奏するってことは伝えていたし、絶対見に来るとも言ってくれてたから、今この体育館のどこかにいるはずだ。
そう思って真由子の姿を探すけど、あまりにも人が多すぎて、全然見つからない。
仕方ないか。
そう諦めかけたその時、ユウくんが小さく呟いた。
「えっ……なんで?」
見ると、ユウくんは驚いた表情で人混みの中を眺めてる。
どうかしたの?
私も、また集まった人達に目を向けるけど、ユウくんが何をそんなに驚いているのか、さっぱりわからない。
「ねえ、どうかしたの?」
「いや。多分、見間違いだと思う」
聞いてみたけど、返ってきた答えは、なんだか曖昧だ。
それからしばらくの間、ユウくんは黙ったまま何か考えているようだった。
だけど、やがて私たちに向かって、突然こんなことを言ってきた。
「ごめん。確かめたいことができたから、少し外す」
「えっ、今から?」
「大丈夫。演奏が始まるまでには、ちゃんと戻るから」
えっ? えっ? いったいどうしたの?
突然のことに戸惑うけど、ちゃんと戻るって言ってくれたし、引き止めるのもよくないよね。
「早く帰ってきてね」
結局、それだけを言って、ユウくんを送り出す。
ユウくんは集まっていた人の体をすり抜けて進んで行って、その姿はすぐに見えなくなった。
「どうしたんだ、あいつ?」
私と一緒にそれを見送った三島も、不思議そうに呟いた。
その途中で先生がやって来て、簡単な説明をしてくれる。
「君達の順番がくる少し前に、機材のセットに入って。部活の説明や演奏は、時間内に納まれば自由にやってくれていいから」
「わかりました」
返事をしながら、ステージを見上げる。
いくつかの部が発表を終えているけど、私たち軽音部の順番までには、まだ少し時間があった。
それでも、これから自分達があそこに立って演奏するのかと思うと、早くも緊張してくる。
三島を見ると、ギターを持って何度も指の動きを確認している。
緊張してるのは、こっちも同じみたい。
(私も、最後の練習をしておかないと)
ベースを取り出して、昨日練習した曲の動きを確認する。
「二人とも、少しは落ち着きなって」
ユウくんがそう言うけど、落ち着くのは、ちょっと難しいかも。
「だって、あんな演奏じゃ心配だよ」
昨日の練習の様子を思い出す。
あれから三島と二人で何度か弾いてみたけど、上手くいかないところがたくさんあった。
元々、そういうことになるって覚悟して、それでも演奏するって決めたんだけど、やっぱり不安になる。
「こんなことになるなら、前からもっと一緒に練習しておけばよかったな」
三島がぼやくけど、私もそう思う。
今の私たちに足りないところなんてたくさんあるけど、特に、お互いの息が全然合ってない。
一人で弾いてた時はなんとかいけるって思えたところも、二人の音を重ねると、どうにも噛み合わないことが多かった。
そりゃそうだよね。
私たちが今まで一緒に練習したのは、せいぜい数回。そのくらいじゃ、息が合わないのも無理ないよ。
不安になる私たちを見て、ユウくんは小さくため息をつく。
「今それを言っても仕方ないだろ。それとも、やっぱり辞退した方が良かったって思ってるのか?」
「それは……」
突然の言葉に、顔を見合わせる私たち。
それから、三島が先に答えた。
「いや……弾きたいか弾きたくないかって言われたら、やっぱり弾きたい」
不安や緊張はあっても、その答えだけは昨日と変わらない。
それは私も同じだ。
「……私も、弾きたい」
力不足なのはわかってる。それでも、演奏自体はやっぱりやってみたかった。
するとそれを聞いて、ユウくんも安心したように微笑んだ。
「そうだろ。なら、もっと楽しみなよ。初めてのことだから、不安なのも緊張するのも当たり前。でも、上手くやらなきゃってことばかり気にしてたら、つまらなくなるぞ。だから決して無理せず、楽しいと思える事を精一杯出来たらそれで良いって、俺は思うよ」
「……うん、そうだね 」
優しく諭すような言葉に、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
ユウくんが背中を押してくれると、何の根拠もないのに、不思議とそれだけで気持ちが前向きになってくる。
「何だか、先輩っぽいこと言ってるな」
三島が生意気なことを言うけど、それは、緊張をとるためあえてそんなことを言っているようにも見えた。
そしてユウくんも、それを気にする様子はない。
「二人は俺にとって、軽音部で出来た初めての後輩だからな。こういう時は、先輩風を吹かせてもらうぞ」
ユウくんが冗談っぽく言うと、ようやく、その場の空気が少しだけ和らいだような気がした。
それから、見学に来ている生徒達に目を向ける。
さっきまでは緊張しすぎて、それを眺める余裕もなかった
集まっているのは、ほとんどが新一年生。
私たちも一年生なんだから、本当ならそっちにいるのが自然なはず。
そう思うと、なんだか不思議な感じがした。
「そうだ。真由子、いるかな?」
今日、私たちが演奏するってことは伝えていたし、絶対見に来るとも言ってくれてたから、今この体育館のどこかにいるはずだ。
そう思って真由子の姿を探すけど、あまりにも人が多すぎて、全然見つからない。
仕方ないか。
そう諦めかけたその時、ユウくんが小さく呟いた。
「えっ……なんで?」
見ると、ユウくんは驚いた表情で人混みの中を眺めてる。
どうかしたの?
私も、また集まった人達に目を向けるけど、ユウくんが何をそんなに驚いているのか、さっぱりわからない。
「ねえ、どうかしたの?」
「いや。多分、見間違いだと思う」
聞いてみたけど、返ってきた答えは、なんだか曖昧だ。
それからしばらくの間、ユウくんは黙ったまま何か考えているようだった。
だけど、やがて私たちに向かって、突然こんなことを言ってきた。
「ごめん。確かめたいことができたから、少し外す」
「えっ、今から?」
「大丈夫。演奏が始まるまでには、ちゃんと戻るから」
えっ? えっ? いったいどうしたの?
突然のことに戸惑うけど、ちゃんと戻るって言ってくれたし、引き止めるのもよくないよね。
「早く帰ってきてね」
結局、それだけを言って、ユウくんを送り出す。
ユウくんは集まっていた人の体をすり抜けて進んで行って、その姿はすぐに見えなくなった。
「どうしたんだ、あいつ?」
私と一緒にそれを見送った三島も、不思議そうに呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
救助隊との色恋はご自由に。
すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。
ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。
助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・
香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」
ほたる(消防関係の人だ・・・!)
『消防署員』には苦い思い出がある。
できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。
しまいには・・・
「ほたるから手を引け・・!」
「あきらめない!」
「俺とヨリを戻してくれ・・!」
「・・・・好きだ。」
「俺のものになれよ。」
みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。
『俺がいるから大丈夫』
そう言ってくれるのは誰?
私はもう・・・重荷になりたくない・・・!
※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。
すずなり。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる