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第36話 全部言って
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小学生だった頃、今よりずっと子どもだった私にとって、ユウくんは理想だった。完璧だった。ヒーローだった。
大げさかもしれないけど、少なくとも私の目には、本気でそう映ってた。
そんなユウくんが、今目の前で弱々しく項垂れている。
その姿は、まるで別人みたいに見えた。
家族。そのたった一点をついただけで、私の思い描いてた理想の姿は、簡単に崩れ去っていた。
『軽蔑した?』
ユウくんがさっき言っていた言葉を思い出す。
そして、ようやくその意味を理解する。
(ああ、だからユウくんは、ずっとこのことを隠してきたんだ)
きっと、ユウくんは怖かったんだ。
私がこれを知って、自分を見る目が変わってしまうのを。
今まで築き上げた関係が、壊れてしまうのを。
(どうすれば良いの?)
何か言いたいのに、ちっとも言葉が出てこない。
今の話をどう受け止めればいいかなんて全然わからなくて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
いつの間にか私まで項垂れていて、目には涙が滲んできている。
だけどそんな状態になっても、一つだけ、たった一つだけ、確かなことがあった。
(それでも私は、ユウくんが好き)
その想いだけは、今も決して変わらない。
例えどんなにユウくんの弱い部分を目の当たりにしても、ユウくんが心配しているように、軽蔑したり嫌いになったりするようなことはなかった。
そしてそれに気づいた時、自然とやることは決まっていた。
下がっていた顔を上げると、もう一度ユウくんを見る。
肩を落とすその姿を見ながら、喉の痛みをこらえて、ゆっくりと声を絞り出す。
「ごめんねユウくん。私、あんなに近くにいたのに気付けなかった。ユウくんがこんなに苦しい思いをしていたんだって知らなかった」
それは、ユウくんの家の事情を初めて聞いた時から、ずっと言いたかった言葉でもあった。
ユウくんが苦しんでいる時、私はそばにいたのに、何もできなかった。
それどころか、気付きもしなかった。
それを、ずっと謝りたかった。
いつのまにか、目に溜まっていた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。
「そんな、藍が謝る事なんて何も無いよ。俺が、嫌われたくないって思って、ずっと隠してきただけなんだから!」
ユウくんが慌てたように言う。
そこで私は、それよりもっとずっと大きな声で叫んだ。
「嫌いになんてならないよ! ユウくんのこと、絶対に嫌いになんてならないから!」
目からは相変わらず、涙がぽろぽろと零れてる。
それでも、真っ直ぐにユウくんを見る。
ユウくんの前で、泣くことなんて、子供の頃から何度もあった。
その度に、ユウくんは私を慰め、元気づけてくれていた。
だけど、今は違う。今度は私が、ユウくんの不安をなんとかするんだ。
「ねえユウくん。ユウくんは、いつか心変わりするのが怖いって言ってたけど、そんなの誰だって同じだよ。絶対に変わらないって言える人なんて、多分一人もいない」
小学生の頃の私なら、きっとこんなこと言えなかった。
何も言えずに、ただ泣き崩れていたと思う。
けれど、今はもう子供じゃない。
どんなに涙を流しても、ただ泣くだけで終わりになんてしたくなかった。
「変わるかもしれないって言うなら、私だってそうだよね。いつか私のことも嫌いになるかもしれないって、そう思いながらずっと一緒にいたの?」
「なっ──」
その途端、ユウくんの顔色が変わった。
家の事や、自分の心の内を話した時だって、こんなにも取り乱したりはしなかった。
「違う! 藍は大事な妹で、その気持ちは変わりなんてしない!」
やっぱり。
ユウくんなら、きっとそう言ってくれるって思ってた。
私はユウくんのことが恋として好きだから、妹って言われるのは、ちょっと複雑。
だけど、妹としてすごく大事にされてるってのは、自信を持って言える。
でも、ユウくんが今まで言ってきたことには、矛盾があった。
「妹なら、変わらないの? お父さんやお母さんに対する気持ちは変わっても?」
ユウくんは確かに言ってた。
昔は大好きだったはずの両親のことも、今はもう他人よりも遠くに感じるって。
それなら、妹だってそうじゃないの?
ユウくんは、そこで一度目を瞑って、ゆっくりと天を仰ぐ。
それから深く大きく息をつくと、ハッキリと言う。
「ああ。変わらない。何があっても、藍は特別だから」
「ユウくん……」
そう言ってくれること、すごく嬉しい。
これだと、さっき言った矛盾は、全然解決していない。
だけどそれでも、ユウくんのその言葉は、嘘とは思えなかった。
今までたくさん可愛がってもらって、大事にしてもらったからこそ、いくら矛盾したことを言われても、ユウくんのことを信じられた。
それからユウくんは、またゆっくりと語り出す。
「さっきの話。誰かを好きになるのが怖いって話には、まだ続きがあるんだ。それは滅茶苦茶で、聞いても納得なんてできないかもしれない。それでも、俺の話を聞いてほしい」
ユウくんの手は固く握られ、微かに震えていた。
きっと、怖いんだ。
話せば話すほど、今まで築き上げてきた関係を、壊してしまう気がしてるんだ。
だけど、そんな不安を抱えながら、それでもちゃんと話そうとしてくれる。
なら、私がどうするかなんて決まってた。
「いいよ。ユウくんが思ってること、全部言って」
本当は、私だって少し怖い。
だけどどんなに怖くても、ユウくんの話そうとしていることから、逃げたくなんてなかった。
ユウくんの思っていること。
その全部を、しっかり受け止めたかった。
大げさかもしれないけど、少なくとも私の目には、本気でそう映ってた。
そんなユウくんが、今目の前で弱々しく項垂れている。
その姿は、まるで別人みたいに見えた。
家族。そのたった一点をついただけで、私の思い描いてた理想の姿は、簡単に崩れ去っていた。
『軽蔑した?』
ユウくんがさっき言っていた言葉を思い出す。
そして、ようやくその意味を理解する。
(ああ、だからユウくんは、ずっとこのことを隠してきたんだ)
きっと、ユウくんは怖かったんだ。
私がこれを知って、自分を見る目が変わってしまうのを。
今まで築き上げた関係が、壊れてしまうのを。
(どうすれば良いの?)
何か言いたいのに、ちっとも言葉が出てこない。
今の話をどう受け止めればいいかなんて全然わからなくて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
いつの間にか私まで項垂れていて、目には涙が滲んできている。
だけどそんな状態になっても、一つだけ、たった一つだけ、確かなことがあった。
(それでも私は、ユウくんが好き)
その想いだけは、今も決して変わらない。
例えどんなにユウくんの弱い部分を目の当たりにしても、ユウくんが心配しているように、軽蔑したり嫌いになったりするようなことはなかった。
そしてそれに気づいた時、自然とやることは決まっていた。
下がっていた顔を上げると、もう一度ユウくんを見る。
肩を落とすその姿を見ながら、喉の痛みをこらえて、ゆっくりと声を絞り出す。
「ごめんねユウくん。私、あんなに近くにいたのに気付けなかった。ユウくんがこんなに苦しい思いをしていたんだって知らなかった」
それは、ユウくんの家の事情を初めて聞いた時から、ずっと言いたかった言葉でもあった。
ユウくんが苦しんでいる時、私はそばにいたのに、何もできなかった。
それどころか、気付きもしなかった。
それを、ずっと謝りたかった。
いつのまにか、目に溜まっていた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。
「そんな、藍が謝る事なんて何も無いよ。俺が、嫌われたくないって思って、ずっと隠してきただけなんだから!」
ユウくんが慌てたように言う。
そこで私は、それよりもっとずっと大きな声で叫んだ。
「嫌いになんてならないよ! ユウくんのこと、絶対に嫌いになんてならないから!」
目からは相変わらず、涙がぽろぽろと零れてる。
それでも、真っ直ぐにユウくんを見る。
ユウくんの前で、泣くことなんて、子供の頃から何度もあった。
その度に、ユウくんは私を慰め、元気づけてくれていた。
だけど、今は違う。今度は私が、ユウくんの不安をなんとかするんだ。
「ねえユウくん。ユウくんは、いつか心変わりするのが怖いって言ってたけど、そんなの誰だって同じだよ。絶対に変わらないって言える人なんて、多分一人もいない」
小学生の頃の私なら、きっとこんなこと言えなかった。
何も言えずに、ただ泣き崩れていたと思う。
けれど、今はもう子供じゃない。
どんなに涙を流しても、ただ泣くだけで終わりになんてしたくなかった。
「変わるかもしれないって言うなら、私だってそうだよね。いつか私のことも嫌いになるかもしれないって、そう思いながらずっと一緒にいたの?」
「なっ──」
その途端、ユウくんの顔色が変わった。
家の事や、自分の心の内を話した時だって、こんなにも取り乱したりはしなかった。
「違う! 藍は大事な妹で、その気持ちは変わりなんてしない!」
やっぱり。
ユウくんなら、きっとそう言ってくれるって思ってた。
私はユウくんのことが恋として好きだから、妹って言われるのは、ちょっと複雑。
だけど、妹としてすごく大事にされてるってのは、自信を持って言える。
でも、ユウくんが今まで言ってきたことには、矛盾があった。
「妹なら、変わらないの? お父さんやお母さんに対する気持ちは変わっても?」
ユウくんは確かに言ってた。
昔は大好きだったはずの両親のことも、今はもう他人よりも遠くに感じるって。
それなら、妹だってそうじゃないの?
ユウくんは、そこで一度目を瞑って、ゆっくりと天を仰ぐ。
それから深く大きく息をつくと、ハッキリと言う。
「ああ。変わらない。何があっても、藍は特別だから」
「ユウくん……」
そう言ってくれること、すごく嬉しい。
これだと、さっき言った矛盾は、全然解決していない。
だけどそれでも、ユウくんのその言葉は、嘘とは思えなかった。
今までたくさん可愛がってもらって、大事にしてもらったからこそ、いくら矛盾したことを言われても、ユウくんのことを信じられた。
それからユウくんは、またゆっくりと語り出す。
「さっきの話。誰かを好きになるのが怖いって話には、まだ続きがあるんだ。それは滅茶苦茶で、聞いても納得なんてできないかもしれない。それでも、俺の話を聞いてほしい」
ユウくんの手は固く握られ、微かに震えていた。
きっと、怖いんだ。
話せば話すほど、今まで築き上げてきた関係を、壊してしまう気がしてるんだ。
だけど、そんな不安を抱えながら、それでもちゃんと話そうとしてくれる。
なら、私がどうするかなんて決まってた。
「いいよ。ユウくんが思ってること、全部言って」
本当は、私だって少し怖い。
だけどどんなに怖くても、ユウくんの話そうとしていることから、逃げたくなんてなかった。
ユウくんの思っていること。
その全部を、しっかり受け止めたかった。
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