伝えたい想いは歌声と共に

無月兄

文字の大きさ
40 / 47

第40話 実験

しおりを挟む
 ユウくんが私に取り憑けるか。
 私たちがそんな実験を始めたのは、今から少し前。
 ユウくんの話を全部聞き終わった後、涙でぐしゃぐしゃになってた顔を洗って、ようやく落ち着いた時のことだった。

「ごめんな。いきなりこんな話して」
「謝らないでよ。ユウくんのいろんな話が聞けて、嬉しかったよ」

 ユウくんの話は驚きもしたしショックだったところも沢山ある。
 だけど、ユウくんの抱えていたものを、ちゃんと知れてよかった。
 私がどれだけ大事に思われているかわかって、嬉しかった。

「これからは、辛かったり苦しかったりしたら話してよ。後になって、実は黙ってたってわかったら、凄いショックなんだからね」
「ああ。気を付けるよ」

 苦笑しながら、それでもしっかり返事をするユウくん。

 こうして、この話は終わりを迎えて、それから話の内容は、次第に他愛の無いものに移っていく。
 だけどそんな中、私はあることを思い出した。

「そう言えば、私が階段から落ちかけた時、ユウくんが私に取り憑いてたっぽいけど、あれって何だったのかな?」
「ああ。俺が、藍の中に入ったやつだよな」

 ユウくんの話にすっかり夢中になって忘れかけていたけど、今思い出しても不思議な体験だった。

 私が階段から落ちそうになって、ユウくんがそれを助けようと手を伸ばして、だけどユウくんは私の体をすり抜けて、ちょうど私たち二人が重なるみたいになったんだよね。

 おかしなことが起きたのは、それからだった。

「私は……体が勝手に動いたって思ったら、それからは、自分の体なのに自由がきない、変な感じになってた。あれって、ユウくんが動かしてたってことでいいのかな?」
「ああ、多分な。あの時俺は、藍の目を通して景色を見てたし、藍の体を自由に動かせていた。階段から落ちそうになったのを止められたのも、そのせい。まるで、俺が藍になったみたいだった」

 こうして思い返してみると、やっぱり不思議。
 だけど、取り憑いて体の自由を奪われるなんて、幽霊が出てくるお話だとけっこうあるから、そういうこともあるのかもって、なんとなく受け入れることはできた。

「咄嗟だったとは言え、ごめんな。勝手なことして。嫌じゃなかったか?」
「嫌じゃないよ。あの時取り憑いてくれなかったらケガしてたかもしれないんだし、むしろ感謝してるよ」

 幽霊に取り憑かれるっていうと何だか怖いイメージがあるけど、そのおかげで助かったんだから、文句なんてあるわけない。
 それにユウくんになら、取り憑かれても嫌だとは思わなかった。

「もしあのまま落ちてたら、取り憑いてたユウくんも痛い思いをしてたのかな?」
「そうだと思う。物を触った時は、ちゃんと肌に感触があったから、痛みだってちゃんと感じると思う。多分、見るとか聞くとか匂いを感じるとか、そういう五感全部を共有してたんじゃないかな」
「そうなんだ」

 不思議なことではあるけど、そもそも幽霊自体がすっごく不思議なものなんだし、今さらそういうのがひとつくらい増えてもおかしくないのかも。

 そこまで思ったところで、ある考えが浮かんできた。

「ねえ。取り憑くのって、ユウくんが私の中に入ってきたら、いつでもできるのかな?」
「うーん、どうだろう?」

 首を傾げるユウくん。

 たった一回偶然起きただけなんだから、もう一度同じようなことをやれば取り憑けるかなんて、ユウくんにもわからないか。

 けどそれなら、もう一回やってみたらわかるよね。

「ねえ、実験してみない?」

 この、取り憑かれるって不思議な現象に興味を持った私は、気が付けばそう提案していた。



 ◆◇◆◇◆◇




 …………って話を、三島に聞かせたんだけど、三島はそこまで聞いたところで、突然口を挟んできた。

「いや、ちょっと待て」

 なんだか納得いってないって感じで、頭を抱えている。

「じゃあ、あのバックハグ……じゃない。先輩が、後ろから藤崎に近づいて重なりそうになってたのは、その取り憑けるかどうかって実験のせいなんだな」
「うん。さっきは、私たちの体が重なったら取り憑けたから、また同じようにやったらできるかなって」
「なるほど、それはわかった。けどな、なんでわざわざそんな実験しようと思った? そりゃ、さっきはそのおかげで助かったかもしれねーけどよ、そうでもなけりゃ、わざわざ自分から幽霊に取り憑かれるなんてありえねえだろ」

 そうかな?
 私は、自由に取り憑くことができるなら、便利なことだってあると思うんだけど。

「だってとり憑いている間は、ユウくんも私の体で物に触ったりできるんだよ。それに、私の体で見たり聞いたりできるなら、多分ご飯を食べた時には味だってわかるよね。だったら、私に取り憑けばユウくんだってご飯が食べられるようになるかなって」
「そんな理由かよ!」

 理由を話しても、三島はますます納得できないって感じで怒鳴る。
 けど、けっこう大事なことだと思うんだけどな。
 
「だって私がごはん食べてる時だって、ユウくんはずっとそばで見てるだけなんだよ。そんなの寂しいじゃない」

 幽霊になったユウくんのそばでご飯を食べたことは何度かあったけど、もちろんユウくんは食べることができない。
 私が入れたコーヒーだって飲めなかった。

 飲んだり食べたりすることができないって、すごく残念なことなんじゃないの?

 すると三島、今度はユウくんに質問する。

「有馬先輩も、そう思っているのか?」
「いや。俺は別に、そこまで気にしてはしないんだけどな」

 そうなんだよね。
 今言ったご飯の話も取り憑く実験も、ほとんど私が言い出したことで、ユウくんはそれにつきあってくれてるって感じ。
 けど、できることが増えるってのはいいことだと思うんだけどな。

「なるほど。つまり、この取り憑くことができるかっていうわけのわからない実験は、全部藤崎が言い出したことなんだな」

 三島はそう言うと、呆れたように深~いため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

救助隊との色恋はご自由に。

すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。 ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。 助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・ 香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」 ほたる(消防関係の人だ・・・!) 『消防署員』には苦い思い出がある。 できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。 しまいには・・・ 「ほたるから手を引け・・!」 「あきらめない!」 「俺とヨリを戻してくれ・・!」 「・・・・好きだ。」 「俺のものになれよ。」 みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。 『俺がいるから大丈夫』 そう言ってくれるのは誰? 私はもう・・・重荷になりたくない・・・! ※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。 すずなり。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

処理中です...