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第40話 実験
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ユウくんが私に取り憑けるか。
私たちがそんな実験を始めたのは、今から少し前。
ユウくんの話を全部聞き終わった後、涙でぐしゃぐしゃになってた顔を洗って、ようやく落ち着いた時のことだった。
「ごめんな。いきなりこんな話して」
「謝らないでよ。ユウくんのいろんな話が聞けて、嬉しかったよ」
ユウくんの話は驚きもしたしショックだったところも沢山ある。
だけど、ユウくんの抱えていたものを、ちゃんと知れてよかった。
私がどれだけ大事に思われているかわかって、嬉しかった。
「これからは、辛かったり苦しかったりしたら話してよ。後になって、実は黙ってたってわかったら、凄いショックなんだからね」
「ああ。気を付けるよ」
苦笑しながら、それでもしっかり返事をするユウくん。
こうして、この話は終わりを迎えて、それから話の内容は、次第に他愛の無いものに移っていく。
だけどそんな中、私はあることを思い出した。
「そう言えば、私が階段から落ちかけた時、ユウくんが私に取り憑いてたっぽいけど、あれって何だったのかな?」
「ああ。俺が、藍の中に入ったやつだよな」
ユウくんの話にすっかり夢中になって忘れかけていたけど、今思い出しても不思議な体験だった。
私が階段から落ちそうになって、ユウくんがそれを助けようと手を伸ばして、だけどユウくんは私の体をすり抜けて、ちょうど私たち二人が重なるみたいになったんだよね。
おかしなことが起きたのは、それからだった。
「私は……体が勝手に動いたって思ったら、それからは、自分の体なのに自由がきない、変な感じになってた。あれって、ユウくんが動かしてたってことでいいのかな?」
「ああ、多分な。あの時俺は、藍の目を通して景色を見てたし、藍の体を自由に動かせていた。階段から落ちそうになったのを止められたのも、そのせい。まるで、俺が藍になったみたいだった」
こうして思い返してみると、やっぱり不思議。
だけど、取り憑いて体の自由を奪われるなんて、幽霊が出てくるお話だとけっこうあるから、そういうこともあるのかもって、なんとなく受け入れることはできた。
「咄嗟だったとは言え、ごめんな。勝手なことして。嫌じゃなかったか?」
「嫌じゃないよ。あの時取り憑いてくれなかったらケガしてたかもしれないんだし、むしろ感謝してるよ」
幽霊に取り憑かれるっていうと何だか怖いイメージがあるけど、そのおかげで助かったんだから、文句なんてあるわけない。
それにユウくんになら、取り憑かれても嫌だとは思わなかった。
「もしあのまま落ちてたら、取り憑いてたユウくんも痛い思いをしてたのかな?」
「そうだと思う。物を触った時は、ちゃんと肌に感触があったから、痛みだってちゃんと感じると思う。多分、見るとか聞くとか匂いを感じるとか、そういう五感全部を共有してたんじゃないかな」
「そうなんだ」
不思議なことではあるけど、そもそも幽霊自体がすっごく不思議なものなんだし、今さらそういうのがひとつくらい増えてもおかしくないのかも。
そこまで思ったところで、ある考えが浮かんできた。
「ねえ。取り憑くのって、ユウくんが私の中に入ってきたら、いつでもできるのかな?」
「うーん、どうだろう?」
首を傾げるユウくん。
たった一回偶然起きただけなんだから、もう一度同じようなことをやれば取り憑けるかなんて、ユウくんにもわからないか。
けどそれなら、もう一回やってみたらわかるよね。
「ねえ、実験してみない?」
この、取り憑かれるって不思議な現象に興味を持った私は、気が付けばそう提案していた。
◆◇◆◇◆◇
…………って話を、三島に聞かせたんだけど、三島はそこまで聞いたところで、突然口を挟んできた。
「いや、ちょっと待て」
なんだか納得いってないって感じで、頭を抱えている。
「じゃあ、あのバックハグ……じゃない。先輩が、後ろから藤崎に近づいて重なりそうになってたのは、その取り憑けるかどうかって実験のせいなんだな」
「うん。さっきは、私たちの体が重なったら取り憑けたから、また同じようにやったらできるかなって」
「なるほど、それはわかった。けどな、なんでわざわざそんな実験しようと思った? そりゃ、さっきはそのおかげで助かったかもしれねーけどよ、そうでもなけりゃ、わざわざ自分から幽霊に取り憑かれるなんてありえねえだろ」
そうかな?
私は、自由に取り憑くことができるなら、便利なことだってあると思うんだけど。
「だってとり憑いている間は、ユウくんも私の体で物に触ったりできるんだよ。それに、私の体で見たり聞いたりできるなら、多分ご飯を食べた時には味だってわかるよね。だったら、私に取り憑けばユウくんだってご飯が食べられるようになるかなって」
「そんな理由かよ!」
理由を話しても、三島はますます納得できないって感じで怒鳴る。
けど、けっこう大事なことだと思うんだけどな。
「だって私がごはん食べてる時だって、ユウくんはずっとそばで見てるだけなんだよ。そんなの寂しいじゃない」
幽霊になったユウくんのそばでご飯を食べたことは何度かあったけど、もちろんユウくんは食べることができない。
私が入れたコーヒーだって飲めなかった。
飲んだり食べたりすることができないって、すごく残念なことなんじゃないの?
すると三島、今度はユウくんに質問する。
「有馬先輩も、そう思っているのか?」
「いや。俺は別に、そこまで気にしてはしないんだけどな」
そうなんだよね。
今言ったご飯の話も取り憑く実験も、ほとんど私が言い出したことで、ユウくんはそれにつきあってくれてるって感じ。
けど、できることが増えるってのはいいことだと思うんだけどな。
「なるほど。つまり、この取り憑くことができるかっていうわけのわからない実験は、全部藤崎が言い出したことなんだな」
三島はそう言うと、呆れたように深~いため息をついた。
私たちがそんな実験を始めたのは、今から少し前。
ユウくんの話を全部聞き終わった後、涙でぐしゃぐしゃになってた顔を洗って、ようやく落ち着いた時のことだった。
「ごめんな。いきなりこんな話して」
「謝らないでよ。ユウくんのいろんな話が聞けて、嬉しかったよ」
ユウくんの話は驚きもしたしショックだったところも沢山ある。
だけど、ユウくんの抱えていたものを、ちゃんと知れてよかった。
私がどれだけ大事に思われているかわかって、嬉しかった。
「これからは、辛かったり苦しかったりしたら話してよ。後になって、実は黙ってたってわかったら、凄いショックなんだからね」
「ああ。気を付けるよ」
苦笑しながら、それでもしっかり返事をするユウくん。
こうして、この話は終わりを迎えて、それから話の内容は、次第に他愛の無いものに移っていく。
だけどそんな中、私はあることを思い出した。
「そう言えば、私が階段から落ちかけた時、ユウくんが私に取り憑いてたっぽいけど、あれって何だったのかな?」
「ああ。俺が、藍の中に入ったやつだよな」
ユウくんの話にすっかり夢中になって忘れかけていたけど、今思い出しても不思議な体験だった。
私が階段から落ちそうになって、ユウくんがそれを助けようと手を伸ばして、だけどユウくんは私の体をすり抜けて、ちょうど私たち二人が重なるみたいになったんだよね。
おかしなことが起きたのは、それからだった。
「私は……体が勝手に動いたって思ったら、それからは、自分の体なのに自由がきない、変な感じになってた。あれって、ユウくんが動かしてたってことでいいのかな?」
「ああ、多分な。あの時俺は、藍の目を通して景色を見てたし、藍の体を自由に動かせていた。階段から落ちそうになったのを止められたのも、そのせい。まるで、俺が藍になったみたいだった」
こうして思い返してみると、やっぱり不思議。
だけど、取り憑いて体の自由を奪われるなんて、幽霊が出てくるお話だとけっこうあるから、そういうこともあるのかもって、なんとなく受け入れることはできた。
「咄嗟だったとは言え、ごめんな。勝手なことして。嫌じゃなかったか?」
「嫌じゃないよ。あの時取り憑いてくれなかったらケガしてたかもしれないんだし、むしろ感謝してるよ」
幽霊に取り憑かれるっていうと何だか怖いイメージがあるけど、そのおかげで助かったんだから、文句なんてあるわけない。
それにユウくんになら、取り憑かれても嫌だとは思わなかった。
「もしあのまま落ちてたら、取り憑いてたユウくんも痛い思いをしてたのかな?」
「そうだと思う。物を触った時は、ちゃんと肌に感触があったから、痛みだってちゃんと感じると思う。多分、見るとか聞くとか匂いを感じるとか、そういう五感全部を共有してたんじゃないかな」
「そうなんだ」
不思議なことではあるけど、そもそも幽霊自体がすっごく不思議なものなんだし、今さらそういうのがひとつくらい増えてもおかしくないのかも。
そこまで思ったところで、ある考えが浮かんできた。
「ねえ。取り憑くのって、ユウくんが私の中に入ってきたら、いつでもできるのかな?」
「うーん、どうだろう?」
首を傾げるユウくん。
たった一回偶然起きただけなんだから、もう一度同じようなことをやれば取り憑けるかなんて、ユウくんにもわからないか。
けどそれなら、もう一回やってみたらわかるよね。
「ねえ、実験してみない?」
この、取り憑かれるって不思議な現象に興味を持った私は、気が付けばそう提案していた。
◆◇◆◇◆◇
…………って話を、三島に聞かせたんだけど、三島はそこまで聞いたところで、突然口を挟んできた。
「いや、ちょっと待て」
なんだか納得いってないって感じで、頭を抱えている。
「じゃあ、あのバックハグ……じゃない。先輩が、後ろから藤崎に近づいて重なりそうになってたのは、その取り憑けるかどうかって実験のせいなんだな」
「うん。さっきは、私たちの体が重なったら取り憑けたから、また同じようにやったらできるかなって」
「なるほど、それはわかった。けどな、なんでわざわざそんな実験しようと思った? そりゃ、さっきはそのおかげで助かったかもしれねーけどよ、そうでもなけりゃ、わざわざ自分から幽霊に取り憑かれるなんてありえねえだろ」
そうかな?
私は、自由に取り憑くことができるなら、便利なことだってあると思うんだけど。
「だってとり憑いている間は、ユウくんも私の体で物に触ったりできるんだよ。それに、私の体で見たり聞いたりできるなら、多分ご飯を食べた時には味だってわかるよね。だったら、私に取り憑けばユウくんだってご飯が食べられるようになるかなって」
「そんな理由かよ!」
理由を話しても、三島はますます納得できないって感じで怒鳴る。
けど、けっこう大事なことだと思うんだけどな。
「だって私がごはん食べてる時だって、ユウくんはずっとそばで見てるだけなんだよ。そんなの寂しいじゃない」
幽霊になったユウくんのそばでご飯を食べたことは何度かあったけど、もちろんユウくんは食べることができない。
私が入れたコーヒーだって飲めなかった。
飲んだり食べたりすることができないって、すごく残念なことなんじゃないの?
すると三島、今度はユウくんに質問する。
「有馬先輩も、そう思っているのか?」
「いや。俺は別に、そこまで気にしてはしないんだけどな」
そうなんだよね。
今言ったご飯の話も取り憑く実験も、ほとんど私が言い出したことで、ユウくんはそれにつきあってくれてるって感じ。
けど、できることが増えるってのはいいことだと思うんだけどな。
「なるほど。つまり、この取り憑くことができるかっていうわけのわからない実験は、全部藤崎が言い出したことなんだな」
三島はそう言うと、呆れたように深~いため息をついた。
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