モテ男でインキュバスな彼は、魅了の力をなくしたい

無月兄

文字の大きさ
4 / 45

第4話 メガネを外した彼

しおりを挟む
「ごちそうさま。どうもありがとね」
「いや、どういたしまして」

 最後にお茶を飲んでから、お弁当箱をオウマ君に返す。ああ、おいしかった。
 だけどありがたいと思う反面、本当によかったのかなと、今ごろになって思ってしまう。

「全部食べちゃったけど、オウマ君はお昼大丈夫なの? それに、さっきはどこか急いでたみたいだけど?」

 もしかすると、遅れちゃいけないような大事な用事でもあったんじゃないか。そうだとしたら、ずいぶん悪い事をしたのかもしれない。

「昼食のことなら、購買で適当に何かかって食べるから気にするな。それに急いでたのだって、ただ逃げていただけだから」
「逃げていたって、誰から?」

 穏やかでない言葉に首をかしげると、オウマ君は困ったように答えた。

「えっと、その…………女子から」
「女子から?」

 意外な答えだ。オウマ君と言えば、誰もが知ってる学校一のモテ男。そんな彼が女の子から逃げるなんて、いったい何があったんだろう。

「もしかして、二股がバレて修羅場になったとか?」
「ならない!」

 パッと浮かんだ可能性は、食いぎみなくらい即座に否定されてしまった。

「二股どころか、一人とだってつきあっちゃいないよ。ただ、いつも何人も側に寄ってくるものだから、たまには一人になりたいって思って隠れた。だけど結局見つかって、追いかけてきたから、こっちも急いで逃げ出した。それだけ」
「おぉーっ!」

 なんと言うモテ発言。それだけなんて言ってるけれど、聞く人が聞いたら嫉妬の炎を燃やすんじゃないだろうか。とは言え疲れきった顔で話しているのを見ると、本人にしてみれば本当に困っていたのかもしれない。
 まあ確かに、いつも周りにあれだけの人がいたら気疲れしてしまいそうだ。

「女の子にモテるってのも大変なんだね」

 思わぬところで、モテ男子の意外な一面を見たような気がする。
 そんな事を考えていると、オウマ君が唐突に、こんなことを言ってきた。

「なあ……一つ聞きたいんだけど、君、さっきメガネを外した俺と目が合ったよな?」
「そうだっけ?…………ああ、そういえばそうだね」

 急によく分からない質問をされて一瞬戸惑う。だけど思い出してみると、ぶつかって起き上がろうとした時、確かにメガネを落としたオウマ君と目が合っていた。
 ちなみに落としたメガネは、私がお弁当を食べてる間にオウマ君がとっくに拾って装着済みだ。

「うん、確かに目が合ってたね。で、それがどうかしたの?」

 思い出すことはできたけど、どうしてわざわざそんな質問をしてきたのかは謎のままだ。まさか、目が合って恥ずかしかった、なんて事では無いだろう。

「その時、何ともなかったか?」
「何ともって?」
「えっと、何て言うか……急に胸が鳴ったり、体が熱くなったり、そういうのなかった?」
「うーん、特になかったと思うけど」

 それよりも、その直後に見たおにぎりの惨劇の方がはるかに衝撃的だったから、大して気にも止めなかった。

 って言うか、なんなの。その、目を見たら起こる不思議現象は。呪われてるの?
 そう思ったけど、オウマ君の表情は、思いの外真剣だった。

「じゃあ、もう一回見てみようか。ちょっとメガネ貸して」
「えっ、ちょっと!?」

 返事を聞くより先に、オウマ君の顔からメガネを掴んでヒョイと外す。もし本当にそんな不思議現象が起こるなら、一度体験してみるのもいいだろう。再び裸眼になった彼と目を合わせ、これでもかってくらい見る。穴が空くくらい、ガン見する。
 だけど…………

「胸は平気だし熱もない。やっぱり何ともないよ」

 オウマ君があまりに真面目に話すから、もしかしたら何が起こるんじゃないかとちょっぴり期待していたけれど、現実はこんなもんだよね。たかだか目を合わせただけで、そんな体調不良が起こるわけがない。

 メガネを外したオウマ君の姿も、裸眼状態が多少新鮮ではあるものの、別に目の形が『3』になってる訳でもなく、特別驚くような事はなかった。

「何ともない? 本当に?」
「うん」

 私の言葉を聞いてもオウマ君は半信半疑なようで、しきりに首を捻っている。だけど本当に何ともないんだから、これしか言いようがない。

「何があったか知らないけど、それってそんなに大事な事なの?」
「大事って言えば大事だけど……まあ、何ともないならそれでいいか。悪かったな、変な事聞いて」

 本当に変な事だよ。なんだかモヤモヤするけど、それ以上話を続ける時間はなかった。いつの間にか、昼休みが残り僅かになっていたからだ。

「ねえ、購買で何か買うなら、そろそろ行った方がいいんじゃない?」
「そうだな。急がないと」

 すぐさまお弁当箱を持って、立ち去ろうとするオウマ君。だけどその直後、一度だけ足を止めて振り返った。

「君、俺と同じクラスだったよな。名前、何て言うんだ?」
「シアン=アルスターだよ。お弁当ありがとね」
「俺の方こそ、ぶつかってごめんな」

 お互い改めてお礼と謝罪を済ませると、オウマ君は今度こそ立ち去っていった。

 これが、私とオウマ君との間にできた初めての接点。今までは、ただのクラスメイトで、学校一のモテ男。そんな印象しかなかった彼のカテゴリに、新しい認識が追加された。

 とっても美味しいお弁当をくれた人という認識が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

処理中です...