31 / 45
第31話 ピンチと怒り
しおりを挟む
謎の男達に取り囲まれ、意識を奪われた私。
気がついたのは、それからどれくらいたってからだろう。意識が戻った時、私は自分に何が起きていたのか一瞬忘れていた。
開いた目に映ったのは、見知らぬ室内。と言うより、どうやら倉庫のような場所らしい。ろくに使われていないのか、周りはガランとしていて、置いてあるものといえば、隅っこにいくつかのガラクタが転がっているだけだ。
そして私は、手を後ろで縛られた状態で、床に寝かされていた。
「なんで? そうだ、私変な奴らに囲まれて、それから……それから、どうなったんだっけ?」
ようやく我が身に起こった出来事を思い出し声をあげる。するとそれに応えるように、冷たい声が投げ掛けられた。
「あら、ようやく目が覚めたの。ちょっと薬が強すぎたかしら?」
その声にハッとするけど、手を縛られているせいで、上手く体を起こすことができない。それでもなんとか顔だけを上げ、声の主が誰なのか確認すると、見覚えのある顔がそこにはあった。
「エイダさん……」
そこにいたのは、エイダ=フェリスさん。そのそばに、いつも彼女について回っている女子二人の姿はない。
そのかわり、彼女の周りは数人の男達が立っていて、その中にはさっき私に道を訪ねてきたあの男の姿もあった。
「ちょっと、これってどういうこと? これほどいてよ! その人達だれ?」
縄で縛られた両手をジタバタと動かし、喚く。いったいどうしてこんな事になったのかは分からない。だけど、どう考えても悪い予感しかしない。
エイダさんはそんな私を見下ろしながら、愉快そうに笑った。
「そうですわね。まずこの方々の紹介をしましょうか。ご存知かしら? 世の中には報酬しだいでなんでもやってくださる人がいるってことを」
彼女のフェリス家は、この国でも有数の名家だ。それが、そんな犯罪者まがいの人達と繋がりがあるなんて、いくらなんでもすぐには信じられない。
だけど実際にこうして拐われているこの状況が、それが真実なのだと何よりも物語っていた。
「さあ、それではこれからが本題。どういうことかって言ってたけど、この期に及んでまだとぼける気? どうしてこんな事になったのか、あなたが一番よく分かっているのではなくて?」
「もしかして、オウマ君と私が付き合ってるって噂のってこと? それは誤解なんだって!」
今のエイダさんは、まるで罪人に罪を問うているようにさえ見える。彼女をそうまでさせることと言ったら、間違いなくオウマ君のことに違いない。
だけど、私達が付き合ってるなんて全くの誤解だ。なんとか分かってもらおうと訴えるけど、それで納得してくれるエイダさんじゃなかった。
「黙りなさい! あなたがどんな手を使ったのかは知らないけど、それが噂になったのは事実。そのせいで、私がどれだけ惨めな思いをしたか、あなたに分かりますか!」
その瞬間、それまで笑っていた彼女の表情が、一気に怒りへと変わる。いや、怒りと言うより、怨みや憎しみと言った方が近いかもしれない。
その迫力に思わず身をすくめるけど、エイダさんの言葉は終わらない。
「オウマ君があなたなんかに本気にならないのは当然です。だけどその噂が流れることで、私がどれだけ揶揄されてきたことか。みんな言っていますのよ。ずっとオウマ君を慕っていたにも関わらず、事もあろうにあなたみたいな格下に取られたって」
「そんな……」
それこそ、私にとっては全く知らない出来事だ。怨みを向けるなら、そんなことを言った人にぶつけてほしい。
だけどエイダさんは、本気でそれが私のせいだと思っている。
オウマ君が言うには、彼女のには魅了の力が特別強くかかっているそうだけど、好きって気持ちが暴走すると、こんなことまでしてしまうものなのか。
「私をどうするつもりなの? 前に言ってたみたいに、二度とオウマ君に近寄らなければいいの?」
震える声で訪ねると、エイダさんはそれを私が観念したと受け取ったのか、勝ち誇ったように言う。
「そうですね。今まで釘を刺してきた子達なら、この方々に少々脅かしてもらって終わりでしたけど、あなたはこの私に恥をかかせたんですもの。そんなもので済ませられませんわね。さあ、どんな罰を与えましょうか」
まるで楽しんでいるようなその様子に、ますます恐怖を感じる。だけどその中に一つだけ、気になる言葉があった。
「今までって、もしかして、私以外にもこんなことしてたって言うの?」
「ええ、そうよ。だって、みんなどうしようもない、身の程知らずのバカばっかりだったんですもの」
私の言葉をあっさり肯定したエイダさん。そうして口汚い言葉を使うその姿は、普段のお嬢様然とした態度からは、おおよそ想像のつかないものだった。
だけどそんな悪意の言葉は、次から次へと彼女の口から飛び出てくる。
「そもそも、地位も教養もろくに無い輩が、オウマ君に近づくこと自体が間違っているのよ。彼と釣り合うのなんて、私以外にいるはずないのに。今思うと、あの子達ももっと徹底的にやっておいた方がよかったかしらね」
言っている事は恐ろしいのに、それを語るエイダさんは実に楽しそう。その異質さに、ある意味自分がこれから何をされるか以上の恐怖を感じる。
だけどそんな彼女を見て、言っていることを聞いて、同時に恐怖とは違う感情が込み上げてくるのを感じた。
それは、怒りだ。
「それ、本気で言ってるの? いくらなんでも無茶苦茶じゃない!」
「あなたこそ何を言ってるの? 人にはそれぞれ、分相応な地位や相手がいる。私は、それを忘れて勝手なことをする人に罰を与えているだけですわ」
まるで、自分にはその権利があるとでも言っているようだった。彼女にとって地位や立場と言うのは絶対で、自分こそがその最上位にいると信じて疑わない。それを無視してでしゃばってくる人達の方が悪だと、本気で思っている。
そして今も、そんな悪者である私を断罪しようとしている。だけど──
「なによ、それ……」
彼女の話を聞いて、私は気持ち悪さを感じずにはいられなかった。込み上げてくる怒りを、抑えることができなかった。
「ふさわしいとか、分相応だとか、そんなのあなたに決める権利なんて無いじゃない!」
「なっ──」
気がつくと、震えるのも忘れて叫んでいた。
もちろん、怖さがなくなった訳じゃない。こんなことを言って、余計に怒らせたらどうしようって気持ちもある。それでも、言わずにはいられなかった。
「今自分がやってること、オウマ君に言える? こんなことをしたんだって誇れる? もし出来ないって言うなら、そんなのただの独りよがりの、勝手な理屈じゃない!」
彼女がこんなにも苛烈な行動に走るのは、元はと言えばオウマ君の魅了の力を強く受けたせい。少なくとも、オウマ君本人はそう思っていて、だからこそ悩んでいた。
だけど彼女がこうなったのは、きっと魅了の力のせいだけじゃない。
好きって気持ちが強ければ、当然嫉妬だって出てくるだろう。だけど、それで実際に人を傷つけられるかは別の話だ。例えばパティは、私達の仲を誤解して、それでも笑って祝福してくれた。
エイダさんのように人を見下し、傷つける場面を想像しては楽しむ。いくら好きって気持ちが強くたって、誰もがこんな風になるとは思えない。思いたくない。
「あなた──」
それまで余裕の笑みを浮かべていたエイダさんに、再び怒りと、そして苦痛の表情が浮かんだ。
「もう止めようよ。オウマ君が好きなら、彼に顔向けできないことなんて、していいはずがないじゃない」
なんとか思い直してほしくて、エイダさんの良心に訴える。
恐い思いはしたけど、実際に危害を加えられた訳じゃない。もしここで解放してくれるなら、何があったかなんて誰にも言わない。この時は本気でそう思った。
だけど……………
「その物言い、本当に不愉快ですわね。まだ分かってないようなら、教えてさしあげますわ。私には、それができるだけの力があるってことを」
次の瞬間、そんな一縷の望みを断ち切るように、エイダさんはそう言い放った。
「中途半端なことをして、後でオウマ君に泣きつかれると面倒ですからね。二度と彼の前に顔を出せなくなるくらいの、きつーい罰を与えてやりましょう」
そして、周りの男達に向かって何かを囁く。するとそのとたん、男達が一斉に、私に向かって近づいてきた。
「ちょっ……やめてっ!」
再び恐怖にかられ悲鳴をげるけど、こっちは手を縛られ自由のきかない身だ。結局、まともな抵抗もできないまま、いとも簡単に床に押さえつけられてしまう。
「心配しなくても、ちゃんとなかった事にはしますわよ。あなたが何を喚こうと全部揉み消しますわ。この方達、そういうことにも慣れていますのよ。そもそも何があったかなんて誰にも、もちろんオウマ君にも言えなくさせてやりますわ」
エイダさんが勝ち誇ったように言うけど、既に私は、それをまともに聞く余裕もなかった。
床に転がったままの私の上に一人が馬乗りになり、 ニタリと下卑た笑み浮かべる。
「やっ──!」
これから何がおこるか、何をされるか、こうなったらさすがに予想がつく。服のボタンが弾け飛び、恐怖と嫌悪感に支配される中、頭の中を一つの言葉が過った。
『何かあったら、絶対助けに行くから』
それは、かつてオウマ君から告げられたものだった。
こんな時に、どうしてその言葉を思い出したのかはわからない。それでも、本当にそうなってくれたらと思わずにはいられなかった。彼の名前を、叫ばずにはいられなかった。
「お……オウマ君っ!」
そう、涙混じりで声をあげたその時だった。
「シアン、無事か!」
そんな声が聞こえてきて、私の上に乗っていた男が、急に誰かに突き飛ばされ、床へと倒れ込む。そして倒れた男に代わり、それを突き飛した相手の姿が視界に入ってくる。
「うそ…………………………?」
一瞬、幻じゃないかと思った。そこには、たった今私が名を叫んだ人が、助けに来てと願った人が、エルヴィン=オウマ君が立っていた。
気がついたのは、それからどれくらいたってからだろう。意識が戻った時、私は自分に何が起きていたのか一瞬忘れていた。
開いた目に映ったのは、見知らぬ室内。と言うより、どうやら倉庫のような場所らしい。ろくに使われていないのか、周りはガランとしていて、置いてあるものといえば、隅っこにいくつかのガラクタが転がっているだけだ。
そして私は、手を後ろで縛られた状態で、床に寝かされていた。
「なんで? そうだ、私変な奴らに囲まれて、それから……それから、どうなったんだっけ?」
ようやく我が身に起こった出来事を思い出し声をあげる。するとそれに応えるように、冷たい声が投げ掛けられた。
「あら、ようやく目が覚めたの。ちょっと薬が強すぎたかしら?」
その声にハッとするけど、手を縛られているせいで、上手く体を起こすことができない。それでもなんとか顔だけを上げ、声の主が誰なのか確認すると、見覚えのある顔がそこにはあった。
「エイダさん……」
そこにいたのは、エイダ=フェリスさん。そのそばに、いつも彼女について回っている女子二人の姿はない。
そのかわり、彼女の周りは数人の男達が立っていて、その中にはさっき私に道を訪ねてきたあの男の姿もあった。
「ちょっと、これってどういうこと? これほどいてよ! その人達だれ?」
縄で縛られた両手をジタバタと動かし、喚く。いったいどうしてこんな事になったのかは分からない。だけど、どう考えても悪い予感しかしない。
エイダさんはそんな私を見下ろしながら、愉快そうに笑った。
「そうですわね。まずこの方々の紹介をしましょうか。ご存知かしら? 世の中には報酬しだいでなんでもやってくださる人がいるってことを」
彼女のフェリス家は、この国でも有数の名家だ。それが、そんな犯罪者まがいの人達と繋がりがあるなんて、いくらなんでもすぐには信じられない。
だけど実際にこうして拐われているこの状況が、それが真実なのだと何よりも物語っていた。
「さあ、それではこれからが本題。どういうことかって言ってたけど、この期に及んでまだとぼける気? どうしてこんな事になったのか、あなたが一番よく分かっているのではなくて?」
「もしかして、オウマ君と私が付き合ってるって噂のってこと? それは誤解なんだって!」
今のエイダさんは、まるで罪人に罪を問うているようにさえ見える。彼女をそうまでさせることと言ったら、間違いなくオウマ君のことに違いない。
だけど、私達が付き合ってるなんて全くの誤解だ。なんとか分かってもらおうと訴えるけど、それで納得してくれるエイダさんじゃなかった。
「黙りなさい! あなたがどんな手を使ったのかは知らないけど、それが噂になったのは事実。そのせいで、私がどれだけ惨めな思いをしたか、あなたに分かりますか!」
その瞬間、それまで笑っていた彼女の表情が、一気に怒りへと変わる。いや、怒りと言うより、怨みや憎しみと言った方が近いかもしれない。
その迫力に思わず身をすくめるけど、エイダさんの言葉は終わらない。
「オウマ君があなたなんかに本気にならないのは当然です。だけどその噂が流れることで、私がどれだけ揶揄されてきたことか。みんな言っていますのよ。ずっとオウマ君を慕っていたにも関わらず、事もあろうにあなたみたいな格下に取られたって」
「そんな……」
それこそ、私にとっては全く知らない出来事だ。怨みを向けるなら、そんなことを言った人にぶつけてほしい。
だけどエイダさんは、本気でそれが私のせいだと思っている。
オウマ君が言うには、彼女のには魅了の力が特別強くかかっているそうだけど、好きって気持ちが暴走すると、こんなことまでしてしまうものなのか。
「私をどうするつもりなの? 前に言ってたみたいに、二度とオウマ君に近寄らなければいいの?」
震える声で訪ねると、エイダさんはそれを私が観念したと受け取ったのか、勝ち誇ったように言う。
「そうですね。今まで釘を刺してきた子達なら、この方々に少々脅かしてもらって終わりでしたけど、あなたはこの私に恥をかかせたんですもの。そんなもので済ませられませんわね。さあ、どんな罰を与えましょうか」
まるで楽しんでいるようなその様子に、ますます恐怖を感じる。だけどその中に一つだけ、気になる言葉があった。
「今までって、もしかして、私以外にもこんなことしてたって言うの?」
「ええ、そうよ。だって、みんなどうしようもない、身の程知らずのバカばっかりだったんですもの」
私の言葉をあっさり肯定したエイダさん。そうして口汚い言葉を使うその姿は、普段のお嬢様然とした態度からは、おおよそ想像のつかないものだった。
だけどそんな悪意の言葉は、次から次へと彼女の口から飛び出てくる。
「そもそも、地位も教養もろくに無い輩が、オウマ君に近づくこと自体が間違っているのよ。彼と釣り合うのなんて、私以外にいるはずないのに。今思うと、あの子達ももっと徹底的にやっておいた方がよかったかしらね」
言っている事は恐ろしいのに、それを語るエイダさんは実に楽しそう。その異質さに、ある意味自分がこれから何をされるか以上の恐怖を感じる。
だけどそんな彼女を見て、言っていることを聞いて、同時に恐怖とは違う感情が込み上げてくるのを感じた。
それは、怒りだ。
「それ、本気で言ってるの? いくらなんでも無茶苦茶じゃない!」
「あなたこそ何を言ってるの? 人にはそれぞれ、分相応な地位や相手がいる。私は、それを忘れて勝手なことをする人に罰を与えているだけですわ」
まるで、自分にはその権利があるとでも言っているようだった。彼女にとって地位や立場と言うのは絶対で、自分こそがその最上位にいると信じて疑わない。それを無視してでしゃばってくる人達の方が悪だと、本気で思っている。
そして今も、そんな悪者である私を断罪しようとしている。だけど──
「なによ、それ……」
彼女の話を聞いて、私は気持ち悪さを感じずにはいられなかった。込み上げてくる怒りを、抑えることができなかった。
「ふさわしいとか、分相応だとか、そんなのあなたに決める権利なんて無いじゃない!」
「なっ──」
気がつくと、震えるのも忘れて叫んでいた。
もちろん、怖さがなくなった訳じゃない。こんなことを言って、余計に怒らせたらどうしようって気持ちもある。それでも、言わずにはいられなかった。
「今自分がやってること、オウマ君に言える? こんなことをしたんだって誇れる? もし出来ないって言うなら、そんなのただの独りよがりの、勝手な理屈じゃない!」
彼女がこんなにも苛烈な行動に走るのは、元はと言えばオウマ君の魅了の力を強く受けたせい。少なくとも、オウマ君本人はそう思っていて、だからこそ悩んでいた。
だけど彼女がこうなったのは、きっと魅了の力のせいだけじゃない。
好きって気持ちが強ければ、当然嫉妬だって出てくるだろう。だけど、それで実際に人を傷つけられるかは別の話だ。例えばパティは、私達の仲を誤解して、それでも笑って祝福してくれた。
エイダさんのように人を見下し、傷つける場面を想像しては楽しむ。いくら好きって気持ちが強くたって、誰もがこんな風になるとは思えない。思いたくない。
「あなた──」
それまで余裕の笑みを浮かべていたエイダさんに、再び怒りと、そして苦痛の表情が浮かんだ。
「もう止めようよ。オウマ君が好きなら、彼に顔向けできないことなんて、していいはずがないじゃない」
なんとか思い直してほしくて、エイダさんの良心に訴える。
恐い思いはしたけど、実際に危害を加えられた訳じゃない。もしここで解放してくれるなら、何があったかなんて誰にも言わない。この時は本気でそう思った。
だけど……………
「その物言い、本当に不愉快ですわね。まだ分かってないようなら、教えてさしあげますわ。私には、それができるだけの力があるってことを」
次の瞬間、そんな一縷の望みを断ち切るように、エイダさんはそう言い放った。
「中途半端なことをして、後でオウマ君に泣きつかれると面倒ですからね。二度と彼の前に顔を出せなくなるくらいの、きつーい罰を与えてやりましょう」
そして、周りの男達に向かって何かを囁く。するとそのとたん、男達が一斉に、私に向かって近づいてきた。
「ちょっ……やめてっ!」
再び恐怖にかられ悲鳴をげるけど、こっちは手を縛られ自由のきかない身だ。結局、まともな抵抗もできないまま、いとも簡単に床に押さえつけられてしまう。
「心配しなくても、ちゃんとなかった事にはしますわよ。あなたが何を喚こうと全部揉み消しますわ。この方達、そういうことにも慣れていますのよ。そもそも何があったかなんて誰にも、もちろんオウマ君にも言えなくさせてやりますわ」
エイダさんが勝ち誇ったように言うけど、既に私は、それをまともに聞く余裕もなかった。
床に転がったままの私の上に一人が馬乗りになり、 ニタリと下卑た笑み浮かべる。
「やっ──!」
これから何がおこるか、何をされるか、こうなったらさすがに予想がつく。服のボタンが弾け飛び、恐怖と嫌悪感に支配される中、頭の中を一つの言葉が過った。
『何かあったら、絶対助けに行くから』
それは、かつてオウマ君から告げられたものだった。
こんな時に、どうしてその言葉を思い出したのかはわからない。それでも、本当にそうなってくれたらと思わずにはいられなかった。彼の名前を、叫ばずにはいられなかった。
「お……オウマ君っ!」
そう、涙混じりで声をあげたその時だった。
「シアン、無事か!」
そんな声が聞こえてきて、私の上に乗っていた男が、急に誰かに突き飛ばされ、床へと倒れ込む。そして倒れた男に代わり、それを突き飛した相手の姿が視界に入ってくる。
「うそ…………………………?」
一瞬、幻じゃないかと思った。そこには、たった今私が名を叫んだ人が、助けに来てと願った人が、エルヴィン=オウマ君が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる