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第35話 インキュバス覚醒
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今までオウマ君は、私と手を繋ぐことで生気を吸い取っていた。だけど以前、こうも言っていた。キスやそれ以上のことで、より多くの生気を吸い取ることができると。
もちろん実際にやったことは一度だって無いし、オウマ君が意識は失っている今、そうしたところでちゃんと生気をあげられるかなんてわからない。
だけど他に何も方法が思い浮かばないのなら、そこに躊躇いはなかった。
「なっ……何を!?」
エイダさんが何か叫んだみたいだけど、それを気にする余裕なんて無い。どうかうまくいきますように、オウマ君が助かりますように。そう思いながら、尚も唇を押し当てる。
「ん──っ」
触れ合った唇から、そっと吐息を送り込む
このやり方が正しいのかは分からないけど、前に聞いたことのある応急措置の要領だ。
だけど正直なところ、上手くいってる実感は無い。こうしている間もオウマ君は無反応だし、いつも生気を吸われる時にあるような脱力感もない。感じるのは、触れた箇所から感じる彼の体温だけだ。
やっぱり無理なの? そんな思いがよぎるけど、それを振り払うように、またも唇を重ねる。
諦めたくなかった。私達を守るため、倒れるまで戦い続けたオウマ君のために、できることはなんだってしたかった。もし助かるのなら、私の生気を全部あげたっていい。そう、この時は本気で思った。
この思いが届くのを願って、二度、三度と、何度も口を重ね、息を送る。
それをどれだね繰り返しただろう。ピクリと、少しだけ、ほんの少しだけ、オウマ君の唇が動いたような気がした。
「──っ!」
僅かに体を離し、今のが錯覚でないか、ちゃんと確認しようとする。だけど次の瞬間、オウマ君の手が伸びてきて、気づいた時には、再び彼の元へと引き寄せられていた。
「えっ?」
少しの間があって、オウマ君に抱きしめられていることに気づく。
意識が戻った? 一瞬そう思ったけど、すぐにそれを考えることも出来なくなる。更に近づいてきた彼の口が、私の口塞いできたからだ。
「ん……んんーっ!」
慌てたのは、突然のことに驚いたからだけじゃない。
状況だけ見ると、さっきまでとほとんど同じ。なのに、感じるものが全く違った。
熱いんだ。唇から熱が伝わってきて、それが全身を駆け巡る。そして熱を得た代わりに、急速に力が抜けていく。生気を吸われているんだと、感覚で理解する。
生気を吸われること自体は何度も経験したけど、今回のは桁が違った。絡み合う舌から、まるで貪るように奪い取られていく。
それを行う今のオウマ君ほどこか虚ろで、おそらくまともな意識なんて戻っていないのだろう。ただそこにあるのは、欲しいものをひたすらに求めるという、最も純粋な本能だった。
だけど意識が飛びそうになるほどの疲労感の中、私はそれを少しも嫌だとは思わなかった。だってこの熱も、疲れも、全ては彼に生気を分け与えられた証だから。
むき出しになった本能に応えるように、オウマ君はゆっくりと立ち上がりながら、人間とは違うもう一つの姿へと変わっていく。紫色の肌に、羊のような角、そして蝙蝠に似た羽を備えた、インキュバスの姿に。
そしてインキュバスとなった彼のお腹からは血が止まり、それどころか傷さえも塞がっていた。
期待していた通り、悪魔特有の治癒能力が働いたんだ。
「シアン? なんで……」
そこでようやく、オウマ君は私から唇を離す。そこにはさっきまでの獰猛さはなく、何が起きたか分からないって様子で、丸く見開いた目で私を見る。
もしかすると、今の今まで自分が何をしていたのかも覚えていないのかもしれない。
だけどそんなのは些細なことだ。塞がった傷と、見慣れた彼の表情。それだけで、安堵するには十分だ。
「これでもう、大丈夫だよね……」
オウマ君が助かってよかった。そんな満ち足りた思いに包まれながら、私はそっと目を閉じる────と思ったその時だ。
このまま眠ろうかってところで、急に絹を引き裂くようなうるさい声が聞こえてきた。
「な、な、なんなのよそれは!? いったいどういうこと!?」
エイダさんだ。
どうやら初めて見るオウマ君の姿にパニックになってるみたいだけど、お願いだから静かにしてほしい。
疲れきっていたせいでとっさにそんなことを思ったけとけれど、これってまずいかも?
だけどオウマ君は少しも慌てることなく、私を安心させるように優しく囁いた。
「大丈夫。今の俺なら、何とかできるから」
そんな、よくわからないことを言った後、オウマ君は倒れそうな私を支えたまま、真っ直ぐにエイダさんを見る。そして何を思ったのか、そっと、掛けていたメガネを外した。
「オウマ君?」
オウマ君がメガネをかけているのは、それで僅かながら魅了の力を遮断できるからだ。なのにそんなことをしたら、さらにエイダが魅了されるんじゃないの?
そんな心配が浮かんだけど、それを口にする間も無く、すぐにエイダさんに異変が起きる。
「────っ!」
ビクリと体を震わせたかと思うと、次の瞬間、もはや正気を失ったかのように、トロンとした虚ろな表情へと変わる。
そんな彼女に向かって、オウマ君は言う。
「忘れろ。今見たもの全て」
「はい──」
短い返事と共に、エイダさんの目が閉じられ、ドサリとその場に倒れ込む。
いったい何が起きたのか。さっぱり分からないけど、それ以上考えるには、私も限界だった。既に力の抜けた体から、今度は意識さえも遠退いていく。
オウマ君の手に包まれたまま、今度こそ私は目を閉じた。
もちろん実際にやったことは一度だって無いし、オウマ君が意識は失っている今、そうしたところでちゃんと生気をあげられるかなんてわからない。
だけど他に何も方法が思い浮かばないのなら、そこに躊躇いはなかった。
「なっ……何を!?」
エイダさんが何か叫んだみたいだけど、それを気にする余裕なんて無い。どうかうまくいきますように、オウマ君が助かりますように。そう思いながら、尚も唇を押し当てる。
「ん──っ」
触れ合った唇から、そっと吐息を送り込む
このやり方が正しいのかは分からないけど、前に聞いたことのある応急措置の要領だ。
だけど正直なところ、上手くいってる実感は無い。こうしている間もオウマ君は無反応だし、いつも生気を吸われる時にあるような脱力感もない。感じるのは、触れた箇所から感じる彼の体温だけだ。
やっぱり無理なの? そんな思いがよぎるけど、それを振り払うように、またも唇を重ねる。
諦めたくなかった。私達を守るため、倒れるまで戦い続けたオウマ君のために、できることはなんだってしたかった。もし助かるのなら、私の生気を全部あげたっていい。そう、この時は本気で思った。
この思いが届くのを願って、二度、三度と、何度も口を重ね、息を送る。
それをどれだね繰り返しただろう。ピクリと、少しだけ、ほんの少しだけ、オウマ君の唇が動いたような気がした。
「──っ!」
僅かに体を離し、今のが錯覚でないか、ちゃんと確認しようとする。だけど次の瞬間、オウマ君の手が伸びてきて、気づいた時には、再び彼の元へと引き寄せられていた。
「えっ?」
少しの間があって、オウマ君に抱きしめられていることに気づく。
意識が戻った? 一瞬そう思ったけど、すぐにそれを考えることも出来なくなる。更に近づいてきた彼の口が、私の口塞いできたからだ。
「ん……んんーっ!」
慌てたのは、突然のことに驚いたからだけじゃない。
状況だけ見ると、さっきまでとほとんど同じ。なのに、感じるものが全く違った。
熱いんだ。唇から熱が伝わってきて、それが全身を駆け巡る。そして熱を得た代わりに、急速に力が抜けていく。生気を吸われているんだと、感覚で理解する。
生気を吸われること自体は何度も経験したけど、今回のは桁が違った。絡み合う舌から、まるで貪るように奪い取られていく。
それを行う今のオウマ君ほどこか虚ろで、おそらくまともな意識なんて戻っていないのだろう。ただそこにあるのは、欲しいものをひたすらに求めるという、最も純粋な本能だった。
だけど意識が飛びそうになるほどの疲労感の中、私はそれを少しも嫌だとは思わなかった。だってこの熱も、疲れも、全ては彼に生気を分け与えられた証だから。
むき出しになった本能に応えるように、オウマ君はゆっくりと立ち上がりながら、人間とは違うもう一つの姿へと変わっていく。紫色の肌に、羊のような角、そして蝙蝠に似た羽を備えた、インキュバスの姿に。
そしてインキュバスとなった彼のお腹からは血が止まり、それどころか傷さえも塞がっていた。
期待していた通り、悪魔特有の治癒能力が働いたんだ。
「シアン? なんで……」
そこでようやく、オウマ君は私から唇を離す。そこにはさっきまでの獰猛さはなく、何が起きたか分からないって様子で、丸く見開いた目で私を見る。
もしかすると、今の今まで自分が何をしていたのかも覚えていないのかもしれない。
だけどそんなのは些細なことだ。塞がった傷と、見慣れた彼の表情。それだけで、安堵するには十分だ。
「これでもう、大丈夫だよね……」
オウマ君が助かってよかった。そんな満ち足りた思いに包まれながら、私はそっと目を閉じる────と思ったその時だ。
このまま眠ろうかってところで、急に絹を引き裂くようなうるさい声が聞こえてきた。
「な、な、なんなのよそれは!? いったいどういうこと!?」
エイダさんだ。
どうやら初めて見るオウマ君の姿にパニックになってるみたいだけど、お願いだから静かにしてほしい。
疲れきっていたせいでとっさにそんなことを思ったけとけれど、これってまずいかも?
だけどオウマ君は少しも慌てることなく、私を安心させるように優しく囁いた。
「大丈夫。今の俺なら、何とかできるから」
そんな、よくわからないことを言った後、オウマ君は倒れそうな私を支えたまま、真っ直ぐにエイダさんを見る。そして何を思ったのか、そっと、掛けていたメガネを外した。
「オウマ君?」
オウマ君がメガネをかけているのは、それで僅かながら魅了の力を遮断できるからだ。なのにそんなことをしたら、さらにエイダが魅了されるんじゃないの?
そんな心配が浮かんだけど、それを口にする間も無く、すぐにエイダさんに異変が起きる。
「────っ!」
ビクリと体を震わせたかと思うと、次の瞬間、もはや正気を失ったかのように、トロンとした虚ろな表情へと変わる。
そんな彼女に向かって、オウマ君は言う。
「忘れろ。今見たもの全て」
「はい──」
短い返事と共に、エイダさんの目が閉じられ、ドサリとその場に倒れ込む。
いったい何が起きたのか。さっぱり分からないけど、それ以上考えるには、私も限界だった。既に力の抜けた体から、今度は意識さえも遠退いていく。
オウマ君の手に包まれたまま、今度こそ私は目を閉じた。
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