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推しから下僕へ
俺だけの一枚
しおりを挟む朝倉に対しては、こんな無邪気な笑顔を向けるのだと、羨ましく思う。
これを見れば、彼が俺に声をかけるときに見せる、少し困ったような微笑が、意図的に口角を上げたものだとわかる。
そのことに気づけば、リアルでは見ることのできない表情を見られて嬉しい反面、悔しさやどこか満たされない気持ちも湧き上がってくる。
誰にでも優しく、クラスの全員から慕われ、性別関係なく憧れられる委員長。
話しかけてもらえるのは、たまたまクラスが同じだったからだ。三年生になってクラスが変われば、俺みたいな影の薄い人間のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。高校を卒業すれば、もしかしたらもう一生会うこともないかもしれない。たとえ学年全体の同窓会があったとしても、俺には遠くから眺めるのが関の山だ。
何か一つでも、俺だけの思い出がほしい。 俺だけの思い出、俺だけの一枚が――。
そんな欲望を自覚したら、あたかもそれが、今回の旅の最終目標に思えてきた。
教師からも絶大な信頼を寄せられる彼は、授業中に居眠りなんてしない。秘かに期待していたが、移動中のバスや新幹線でも船を漕ぐようなことはなかった。
クラスで彼と一番仲のいい、朝倉さえ撮ることのできなかった写真。おそらく、クラスの誰もが見たことがないであろう川嶋の寝顔を、写真に収めたい……。
さらに10分ほど悩んだ末に、頭からかぶっていた布団をそろりと目元まで下ろした。
シャッター音は消せないが、フラッシュはオフにし、スマホのカメラを起動してある。
もし、少しでも川嶋に目を覚ましそうな気配があれば、寝顔を自身の瞼に焼き付けて、写真は諦めるつもりだった。
俺と川嶋は、一番遠い場所――二列に三つずつ並んだ布団の対角に位置していた。全員頭を中央に向けているが、距離が離れているため、顔を見るには体を起こすか布団を回り込まないといけない。
そう思っていたのだが……。
常夜灯に照らし出され、横向きに寝た俺の目線の先に見えるのは、四人分の頭のみ。顔を動かさずそろそろと視線だけを上げると、一番遠く――対角の布団の人物は、なぜか上半身を起こしていた。
何やら緊迫した雰囲気に、思わず息を呑んだ。
濃い陰影を落とした顔が、隣の布団で眠る男の顔を見下ろしている。思い詰めたような表情が、暖色系のほのかな明かりの中でも見て取れた。
俺が見ていることにも気づかない様子で、男は、自分の顔を隣のクラスメイト――朝倉に近づけていく。
自分でも、なぜそうしてしまったのかはわからない。
ただ、気づけば、スマホを彼らに向けていて……。
パシャリと鳴った音で、自分がシャッターボタンを押したことを知った。
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