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約束
住む世界
しおりを挟む駅から徒歩10分ほどのところにあるバイト先のコンビニは、駅から自宅までの帰り道という立地のよさで選んだ。店長もバイト仲間もいい人たちで働きやすいが、飲み屋街が近いため、たまに酔っ払いに絡まれることがある。
お釣りの渡し方が気に入らないとか目つきが悪いといった、いわゆる「いちゃもん」というやつで、高校に入ってから髪を染めてピアスをつけるようになった理由の一つだった。人は相手がおとなしそうに見えると、高圧的な態度に出やすいらしい。
目尻が少し上がっていて、真顔でいるだけで「目つきが悪い」と言われる顔なので、長めの前髪で目元も隠したら、それ以降はほとんど絡まれることはなくなった。
その見た目のせいか、高校では中学以上にクラスメイトから遠巻きにされるようになったが、中学の頃みたいに、普通を装って、性格通りの地味なガリ勉キャラに戻ろうとは思わなかった。
うちは公立だが都内でも有数の進学校で、子供の頃から家庭教師をつけたり、塾に通ったりしていた生徒がほとんどだ。教育に恵まれていることは裕福さの証でもある。会話の内容や持ち物の端々から、自分とはもって生まれたものが違いすぎることを肌身に感じていた。
普通を装ってその中に混じり、いちいち自分の不遇を嘆くよりは、もともと住む世界が違うのだと自分から壁を作るほうが、心穏やかでいられる気がしたのだ。
いつもより1時間早くシフトに入り、普段はパートのおばさんたちが担当しているその時間を一人で回していると、5時になって中学の同級生である堀杏樹がレジ裏から現れた。ここから先は混み始めるため、二人体制になる。今日の相方は彼女だ。
「あれ? なべっち、なんでもういるの? 斎藤さんは?」
「お子さんが熱を出したみたいで、早めに来てもらえないかって連絡があったんだ。俺、今日はテストで早く終わってたから。4時に交代した」
「パートさんたち、そういうときいつも、なべっちに先に連絡するよね。やっぱりなべっちのほうが頼みやすいんかな」
「女子は急に連絡しても、身支度とか時間かかるでしょ。それに俺のほうが、お金に困ってそうに見えるんじゃない?」
苦笑いを返すと、堀は納得したようなしていないような、曖昧な笑みを浮かべて見せた。
堀とは中学の頃は同じクラスになったことがなく、バイトで一緒になって話をするようになった。
俺と違って相手が遥かに年上だろうと物おじせず、歯に衣着せぬ物言いをする。自分から積極的にてきぱき動くので、一緒のシフトになると俺は楽だ。しかし、少し抜けたところのあるパートのおばさんたちは、孫ほどにも年下の彼女にミスを注意されることに、あまりいい気はしないようだ。
高校を卒業したら美容師の専門学校に行くつもりらしく、おしゃれが好きで、バイト前には入念にメイクをしている。そういうところも主婦たちからのウケが悪かった。
彼女の曖昧な笑みは、そんなふうに思われていることに、薄々気づいているからかもしれない。
飲み屋街が近いため、金曜日の今日は普段よりも客が多い。6時を過ぎた頃から急に混み始め、二人ともほとんどレジに張りついていた。
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