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約束
パンツはコンビニで。
しおりを挟む「バイト中に話しかけて、ごめん。仕事しながらでもいいから、話だけでもできる? 無理なら、終わるまで待つ」
「あ、えっと……、品出ししてる間、なら……」
川嶋は学校にいるときと同様に淡々としていて、俺ばかりが動揺し、しどろもどろに答えた。
とりあえずお弁当の品出しを再開する。
「駅から10分くらいって言ってたから、地図を見てここかなって検討つけて来たけど、合っててよかった」
俺と川嶋は、最寄り駅が一緒だ。
と言っても、向こうは駅から近い高級住宅街に住んでいて、俺は自転車で20分の下町の安アパートだ。
川嶋が予備校に行かない日は図書室でしばらく勉強したあと、駅まで一緒に帰っている。どのあたりに住んでいるかとか、帰り道にあるコンビニでバイトをしている話をしたことがあるから、そのことを覚えていたのだろう。
わざわざ俺に会うために来たような口ぶりに、頭の中にクエスチョンマークが飛び交う。思い当たることは一つだった。
「別荘の件なら、気にしなくてよかったのに」
カラオケに行く途中、朝倉が夏休みに別荘に行く話を持ち出したことで、修学旅行の班の中で俺だけが誘われていないことを知ることになった。そのことをわざわざ面と向かって謝りに来てくれたのだろう。
「そのこともちゃんと話したいし、もともと今日は試験の反省会する予定だっただろ。だからこのあと、うちに泊まりに来ないか?」
危うく、持っていた弁当を落としそうになった。
ぐらりと傾いた手首に力を入れ直し、事なきを得る。
「な、なんで?」
なぜ、俺が川嶋の家に誘われているのか。全くもって理由がわからない。
「試験でわからなかったところを復習するなら、早いほうがいいだろ?」
それはそうだけど……。
「あ、もしかして、朝倉たちも一緒?」
打ち上げのあと、泊りで勉強会をしようという流れになって、別荘に誘わなかったお詫びで俺にも声をかけてくれたのかと思った。それなら納得がいく。
「何で一緒だと思うんだ?」
川嶋は少しだけムッとした顔をした。
「このあと何か予定があるのなら無理強いはしないが……。もし来てくれるなら、俺としても助かる」
助かるってどういう意味だろう。
少し引っかかったが、川嶋に家に誘ってもらって、断る理由はなかった。どうせ俺は、母親が家に帰ってこないのだから、友達の家に泊りに行っていいかどうか訊ねる必要もない。
「わかった。じゃあ、家の人がご迷惑じゃないなら、お邪魔しようかな……」
「いいのか?」
不安げだった川嶋の顔が、ぱあっと綻ぶ。
ヤバッ――胸の内で、そんな呟きが洩れる。その顔は反則だろ。
急に落ち着かなくなった鼓動を誤魔化すように、俺は弁当棚へと顔を向けた。
「あ、でも、着替えがないから、家に着替えを取りに戻らないといけない。遅い時間だけど、本当に家の人は大丈夫なんだよね?」
「寝巻きは俺のを貸すから、パンツだけここで買ったら、家に帰る必要ないよな? パンツってコンビニにも売ってあるんだろ? サイズはMでいい?」
「え? いや、いいよ。自分で買う」
「俺が誘ったんだから、俺が買う。あと、好きなお菓子とかある? 飯は夕食まだなら、うちで食べてくれると助かる」
川嶋は遠足前日の子どものように、急にはしゃぎだした。買い物かごを取りに行く彼の背中を、呆然と見送る。
カラオケで何か嫌なことでもあったのだろうか……。もしかして、朝倉と小松原が、ついにつき合い始めたとか? それで、失恋を忘れようとして無理にハイになって、俺に泊りに来いなんて誘いに来たとか?
そんなことを考えて、その推測の裏にある期待にも似た感情を自覚しそうになり、慌てて思考を振り払った。
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