仮面王子は下僕志願

灰鷹

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抱きしめたい

時を戻そう!

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 広々とした浴室には、男二人でも足を伸ばして一緒に浸かれるサイズの大理石の浴槽がある。一般的なアパートの浴室とは比べ物にならない広さだということは、アパートの風呂を知らなくても想像できる。
 これを見たら渡辺はまた目を丸くするんだろうと思うと、楽しみなような、心苦しいような気分になった。
 
 髪と体を洗って湯船に浸かり、ふぅ、と深いため息を漏らす。
 体が温まり、頭に血が巡っていく感覚で、連日の試験勉強と二日間の試験でそれなりに脳が疲弊していたことに気づかされる。気の抜けていた頭が思考力を取り戻していくにつれ、自分がしたことへの現実感がじわじわと込み上げてきた。

 俺……、渡辺を家に連れてきちゃったんだよな……。

 本当に今更だが。
 その強引さに自分でも引いてしまい、体が温まる以上に顔が熱を持ち始めた。誰が見ているわけでもないのに、パシャパシャとお湯を顔にかけ、赤面を紛らわせる。

 どうしてこんなことになったんだっけ……。

 気恥ずかしさを持て余し、気持ちを整理するために、試験が終わってからのことを改めて思い返してみた。

 期末試験の打ち上げと称したカラオケは6時過ぎで一旦お開きとなり、新たに部屋を取って残って歌うという女子のグループとはそこで別れた。
 俺は帰るつもりでいたが、朝倉から「場所を変えて夏休みの旅行の相談をしたい」と言われ、自分から別荘のことを言い出した手前、断れなかった。比較的単価が高いと言われる焼き肉店に入ったのは、「どうせ食べるなら、美味しいほうがいい」という味にうるさい野村の希望だった。

 修学旅行中に夏休みに旅行に行く計画を振られたときは、数日だけでもこの家から離れられるのなら悪くないと思って、俺も乗り気だった。
 朝倉たちは行く気満々で話を進めているし、別荘のことがあるから今更断りづらい。俺が行かないのに別荘だけ貸すというのもおかしな話だ。
 でも、正直なところ、渡辺が来ないのなら俺も断りたかった。

 旅行の話が出たときと違って、今は俺の関心の大部分が渡辺に向けられている。
 毎日顔を合わせていても、学校を出ると、あいつのことが気にかかる。
 旅行に行ったところで、俺たちが遊んでいる間もあいつがお盆休みも取らずにバイトをしていることを考えたら、心から楽しめそうにない。それに東京にいれば、ついでを装って渡辺のバイト先に行き、顔を見ることもできる。

 そんなことを悶々と考えながらも、結局は朝倉たちの楽しそうな雰囲気に水を差すことができずに、具体的な旅行の日程まで決まってしまった。


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