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SOS
フライング
しおりを挟む「僕、昴陽のことが好きなんだ。友達としての好きじゃなくて、恋愛的な好きって意味で」
徐々に項垂れていた頭を、力なくそろそろと上げる。
そうかなとは思い始めていたから、ショックを受けるよりも、やはりそうだったかと納得する気持ちのほうが大きかった。でも、迷いのない目できっぱりと言われて、自分との格の違いを見せつけられた気がした。俺には、こんなにも堂々と、真っすぐに、川嶋のことが好きだと言う勇気はない。
「文化祭にも昴陽の彼女が来なかったら、彼女がいる話は嘘だと思う。僕が彼女なら、他の女子に見せつけるために、絶対に文化祭に行く。だから、文化祭、一緒に回ろうって誘ってみて、OKしてもらえたら、昴陽に告白するつもり」
朝倉の言葉が、少しも刺さらず、右の耳から左の耳へと素通りしていく。
川嶋と朝倉は両思いだった。
修学旅行で朝倉にキスをする川嶋を見たときほどの驚きも動揺もないことを、他人事みたいに不思議に思った。
自分の感情が、自分のものでないみたいにぼんやりしている。
川嶋との、出来の悪い主人と優秀な下僕という謎の関係もこれで終わるのだと思うと、ただぽっかりと胸に大きな穴が開いたような感覚だけが、自分の中に静かに膨らんでいく。
「渡辺君が昴陽のこと、そういう意味で好きじゃないなら、もし昴陽から文化祭一緒に回ろうと誘われても断ってほしいんだ。それに、勉強のことも……。バイトが忙しいのはわかるけど、あまり昴陽に負担をかけないようにしてほしい。旅行のときも、昴陽、疲れがたまってたみたいで、新幹線の中でずっと寝てたから」
焦点の定まらない、ぼんやりとした視界に映るのは、自身の正しさを疑わない、毅然とした眼差しだった。
何を言ってよいかわからず。でも、何か言わなければいけないことがあったことを思い出した。確か、朝倉に、言うと決めていたことがあったはずだ。
靄がかかったような頭の中で、記憶の断片に手が届く。
「えっと……、川嶋、ちょっと口が悪くて何考えてるかよくわかんないところあるけど、すげーいい奴だから……」
……あれ? でもこれって、二人がつきあうことになってから、言うんじゃなかったっけ。
喋りながらそう思ったけど。止まることなく、壊れたスピーカーみたいに口が勝手に動き続ける。
「……嫌がらせをした貧乏人の俺にも、優しくしてくれて勉強を教えてくれた……」
学校にもバイトにも行けなくなって、しばらくはあのぼろアパートで一人、布団に生えたカビ菌みたいにじめじめ泣いて。涙が止まって目の腫れが引いたら、言おうと思っていた。
でも、結果的にフライングでよかったかもしれない。バイトを休んだら、食べる物がなくなってしまう。大学にも行けなくなる。
「……大好きで、大切な友達だから。だから、川嶋のこと、これからずっとずっとよろしく」
言い終えると同時に、直角に頭を下げた。
カアッと熱くなった目元が潤んで、ぽたぽたと床に雫が落ちる。
「俺、ちょっとトイレ行きたくなったから、先にトイレ行ってくる」
顔を俯かせてその場から離れたから、前髪で隠れて、涙は見られていないと思う。
川嶋は、俺の見たいものを、見たいように見たらいいと言ってくれた。けれど、やっぱり前髪は長いままがいいと思った。
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