売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
47 / 83
王弟騎士の思い人

王弟騎士の思い人(1)

しおりを挟む



  昼食の時間はとうに過ぎていたので、行儀が悪いと思いながらも、軍営に戻るまでの間に、もらったお菓子を味わう暇もなく無理やり口に押し込んで食べ終えた。使用人たちは皆、午後の仕事を始めていたが、「ユリウスはお腹の調子が悪い」とアルミンが言い訳してくれていたため、監視役から小言を言われることもなかった。

 その日のうちに従僕長から呼び出され、薬草のことについて尋ねられた。
 軍の運営費がぎりぎりであることを説明され、「そのようなものに割ける予算はない」と言外に言われていることは察せられたが、元々、薬草を買ってもらうつもりはなかった。近くの山に自生しているものを取りに行くことを希望すると、あっさり許可してくれた。

 そこまではよかったのだが。ウェルナー辺境伯令嬢からの昼食のお誘いについて従僕長も知っていて、「必ず行くように」と釘を刺されたことには閉口した。人手不足を理由に従僕長から断ってもらえないものかと秘かに期待していたが、一縷の望みをあっさりと断たれてしまった。

 翌日の朝食時に薬草が生えていそうな山についてフリッツに尋ねたところ、彼が案内役として同行してくれることになり、近くの山に薬草を取りに行った。
 探していたのは皮膚病に効果があるとされているヨモギとニワトコ。それに、血の草ブルートクラウトと呼ばれる薬草も見つけたので、それも持ち帰ることにした。
 ブルートクラウトは、茎を折ると赤い汁が滲み出ることから、そう呼ばれているらしい。傷の治療や止血に役立つと言われているが、心の重苦しさを和らげ、沈んだ気持ちを軽くする効能もあり、「憂鬱を追い払う草」と呼ぶ人もいる。
 星の形に似たその黄色い花が目に入ったとき、昨日の夫人のことを思い出し、自然と手が伸びていた。使ってもらえるかわからないけど、薬草茶にして飲んでもらえたら、食欲の改善に繋がるかもしれない。

 フリッツの話によると、ウェルナー辺境伯夫人は20歳で娘を産んだので、今はまだ30代だという。白髪と弾力を失った皺の目立つ皮膚は、とてもその年には見えなかった。
 昨日の令嬢がその娘で、カレン・ウェルナーという。
 カレンの名前と彼女がユリウスと同じ十八才であることは、城に来る前に宿のおかみから聞いて知っていた。ウェルナー辺境伯には正妻以外に妾もいるが、子供はカレンだけらしい。

 夫人も元々は、カレンのように美しいオメガで、髪も金色に光り輝いていたそうだ。産後の肥立ちが悪く、徐々に弱っていって、今は自分の意志で寝台から出ることはないという。朝夕、部屋に運ばれてくる食事にも、ほとんど手を付けないそうだ。
 心配したカレンが一日一度、ああして庭園を散歩させ、庭園を眺めることのできるあの場所でお茶会をしているそうだが、用意されたお菓子や食事に口をつけることはないらしい。

「奥様は、オメガの男に興味をお持ちなのですか?」

 ユリウスの問いに、薬草を採るのを手伝ってくれていたフリッツは、作業の手を止め、顔を振り向かせた。

「オメガの男? どうしてそんなことを訊くんだ?」
「僕に対して、オメガの男の子ね、と仰って、僕がベータだと答えたらとてもがっかりされていたようだったので。それに、男の子の人形も抱いておられました」

 フリッツは記憶を遡るように、宙に視線を向ける。

「奥様が、本当は男児が生まれてくることを望んでいた、という噂は聞いたことがある。そのせいで、お嬢様がお生まれになってすぐは現実を受け入れることができずに、お嬢様が近づくことをお許しになったのも、お嬢様が歩けるようになった頃からだとか」
「……そう……だったんですか…………」

 その話と昨日の「オメガの男の子ね」という言葉を合わせると、夫人はオメガの男児を望んでいたように考えられる。普通、貴族の跡取りとして望まれるのはアルファだ。不思議に思ったが、辺境伯となると、普通の貴族とは違った事情があるのかもしれない。
 それ以上に気になったのは、カレンのことだった。
 兵士に対する心無い発言から、昨日は人の痛みのわからない冷血な人だという印象を抱いたが、母親との複雑な関係を知り印象を改めた。
 自分を拒絶した母親をあのように労われるのなら、きっと芯が強く優しい心を持った人なのだと思う。
 城に戻ってからも、その話がずっと頭から離れなかった。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

処理中です...