32 / 46
吉と出るか凶と出るか
急襲
しおりを挟む木々の陰から、黒い影が一斉に飛び出してきた。
道の前方も、剣を構えた者たちによってすでに塞がれている。
ざっと見ても、敵の数はこちらの倍以上。
シュヴァルツの森――。小説の中でエドワードたちが賊に襲われ、カインが命を落とした場所も確かそんな名前だった。同じ状況に陥って初めて、思い出した。
このような事態を想定していたからこそ、カインを追いかけてきた。
だが、実際に剣を構えた者たちに周りをぐるりと取り囲まれたら、手足の震えが止まらなくなった。
「エド、お前はここから動くな。セルペンス、頼んだ」
言うが早いか、カインは馬車から軽やかに飛び降りた。
「全員、馬を降りて応戦しろ!」
カインの号令に、騎士達は一斉に馬から飛び降りて剣を抜く。
賊の頭らしきひときわ体格のよい男が片手を上げ、それをカインに向かってゆっくりと振り下ろした。
「かかれ!」
それを合図に賊たちが奇声を発して騎士に襲い掛かる。剣がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、怒声や呻き声が入り混じって森を震わせた。
カインは隊の中央で、次々と襲い掛かる賊を迎え撃っていた。
敵の振り下ろした剣を素早くかわし、脇腹に鋭く一閃を浴びせる。鈍い悲鳴をあげて男が崩れ落ちる間もなく、次の敵が踏み込んでくる。振り下ろされた剣を受け止め、火花を散らしながら力任せに弾き返すと、肩口に逆手で剣を滑らせた。血飛沫が上がり、紺色の騎士服に黒い染みを散らす。
ほとんどの騎士たちが二人以上を相手にしていたが、その中でも敵の狙いがカインにあるのは明らかだった。
一方で、俺の周りは四人の〈影〉が馬車の四方に立ち、セルペンスも御者席から動かないが、「馬車は狙うな」という命でも出ているのか、敵は不自然なほどこちらには攻撃してこない。
「おい、お前たち! 俺のことはいいから、あっちの加勢に行ってくれ!」
声を張り上げるが、〈影〉は動こうとはしなかった。
「我々は、いかなるときも殿下をお守りするよう、仰せつかっております。アルベール公も重々ご承知のはずです」
抑揚のない冷ややかな声でセルペンスが返事をする間にも、騎士の一人が背後から剣を突き立てられ、前のめりに崩れた。
手足の震えは止まらない。まともに剣を握れる自信もなかったが、これ以上、傍観することはできなかった。
馬車から飛び降りると同時に、背後で声がする。
「殿下! 無謀なことはおやめください! 殿下が行ったところで、何の役にも立ちません!」
「それはわかっている! だが、ここにいれば、何かの役に立てるのか?
俺はたまたま王族に生まれただけだ。お前たちや、あの者たちに守ってもらうに足ることは、まだ何一つ成していない!」
それだけ言い残して剣を抜き走り出すと、〈影〉の者たちも無言でついてきた。
「殿下! いいかげん、騎士の真似事はおやめください!」
カインに向かってありったけの声を放ち、彼に背後から襲い掛かろうとしていた男の足を剣で払う。狙ったのは、いわゆるアキレス腱だ。
騎士と違って、丈のない簡素な靴を履いていた男のそこは、生身の肌が剥き出しになっていた。以前、カインに、ブーツでなければ、非力で背の低い俺にも狙いやすい急所だと教えてもらったことを、体が覚えていた。
確かに肉を切るような手ごたえがあり、男が「うぎゃっ」と悲鳴を上げて足元から崩れ落ちる。
アキレス腱ならば、歩くのに不自由することになっても、死ぬことはない。
「甘い」とカインには叱られるだろうが、やはり賊であっても、同じ国に暮らす民の命を奪うことには迷いがあった。
戦いは続いていたが、先ほどの俺のひとことのせいで、賊たちの間になにやら動揺が広がっていくのがわかる。
「王子が騎士に扮しているということか?」
「王子は長い銀髪ではなかったのか?」
「王子は馬車の中にいるんだよな?」
「馬車の中には誰もいません!」
「どういうことだ? 王子には傷一つ付けるなと命じられているのだぞ!」
そんな会話が賊たちの間で飛び交いはじめた。
一方、こちらはこちらで。
「殿下、馬車にお戻りください!」
「殿下の御身に何かあれば、私が首を跳ねられます!」
などと、手当たり次第、カイン以外の騎士にも声をかけ、また、同じ文言をセルペンスも俺に向かって言うので、賊たちの混乱は一層深まり、明らかに剣の勢いが衰えはじめる。
それに、俺が動き回るせいで、〈影〉の者たちも戦闘に加わざるをえないことも大きかった。彼らは騎士たちより遥かに戦い慣れていて、三人同時に剣を向けられても物ともせず、しなやかな動きで一人、また一人と打ち伏せていく。
まだ防御の型くらいしかまともに習得できていない俺は、乱闘の中を逃げ惑うのに必死で、周りを見る余裕はなかった。
そうして、賊の数が十人ほどに減り、頭らしき男がカインに敗れて斃れたところで、残りはちりぢりになって逃げて行った。
ホッと息を吐いたのも束の間――。
視線の先で、一人の騎士が膝をついて崩れ落ちた。
「カイン!」
足をもつれさせながら駆け寄る。
剣を取り落とした彼の右腕はパックリと騎士服が大きく裂け、そこから滴る真っ赤な血が、紺色の布地を黒く染めていた。
469
あなたにおすすめの小説
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる