糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
120 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

鬼ごっこ 2

しおりを挟む
  私は自分の鞄を持つと歩き出して、ケイは机から跳ねると軽やかに床に着地し、私の前を歩く。
   「変わったことはないか?」
   私の周りで変化が起きているとケイは考えていた。その変化は探し物の手掛かりになるからだ。
   「それがね、昨日から変なものが見えるの」
   変化は昨日からあった。誰かに相談しても信じてもらえないような出来事をケイに話す。
   初めて見たのは月曜の朝の教室だった。退院したばかりの瑠璃が入ってくると黒い靄が彼女の背後にいた。
   瑠璃につきまとっているわけでもないようで、授業中の時も教室を歩き回ったり、出たりして、瑠璃から離れたかと思えば一緒に下校していくところを見た。
   私には黒いもやが不吉な影のように見えて、視界に入れないように目線を逸らしていた。
   「退院したばかりだから、良くないものを憑けてきたのかも」
   「死霊だ。害はない」
   「だって、おかしいよ。いきなり、死霊が現れるなんて。臭いが強くなったのも昨日なんでしょ?」」
   「死霊の臭いじゃない。奴らはどこにでもいる。キヨネが見えるようになったんだ」
   それは霊感という類、だよね。
   「現世ではあちら側が認識できない。だが、キヨネが変化した」
   「私に霊感が?ケイと会ったから?」
   「違う。考えられる要因はあちら側のものを飲食したかだ」
   「そんな、私変なもの食べてない」
   「1つの可能性だ」
   死霊か。嫌だな。髪の長い女性とか血塗れの人とか、そういうの見たくない。
   「見えなくするには方法とかある?」
   「ない。靄も明確に見えるようになる」
   見たくないなぁ。
   言われた通りに部活棟に着く。閉まっているはずのドアは開いていた。ケイが中に入れないと困っていたのはドアが引き戸ではなく、ドアノブを回して開ける観音扉だったからだ。
   部活棟の中に入るとケイは足早になって臭いを探る。
   廊下の奥からは複数人の声がこちらまで聞こてくる。一階奥の部室は確か演劇部のはず。
   こんな時に部活動をしているなんて。
   「ここだ」 
   そうして立ち止まったのは文芸部と表示された教室。
   「ここにあるの?」
   「入ればわかる」
   私はケイの為に部室のドアを開ける。部室のドアも鍵はかけていなかった。恐るおそる中を覗く。
   誰もいない。鍵を閉め忘れただけかな。
   もしかしたら、人がいるかもしれないと考えて慎重な足取りでドアをくぐる。
   文芸部の部室はそれほど広くない。狭い室内の片隅で黒い靄を見つけてしまう。
   それも、昨日より、はっきりと人の形を作っている。ケイが言っていた「明確」が近くなっている。
   「ね、ねぇ、ケイあれ」
   動揺し怯えた私はケイに縋ろうとすると、小さな黒猫は部室に入ろうとしないで向かいの棟を見つめる。
   「鬼と糸だ」
   ケイはポツリと呟いた。
   「鬼ってあの怪物よね」
   「糸の臭いもする。一緒だ」
   ケイの黒い毛が逆立っている。いつもは淡白なのに、今は張りつめた緊張がある。
   「もしかして、危ない感じ?」
   「キヨネは早く帰れ」
   優先順位は嫌な臭いより鬼と糸らしい。ケイはすぐそこにある嫌なニオイの元を無視して走り出す。
   「待ってケイ!」
   あの怪物が近くにいる。考えるだけでも足が震える。帰れと言われても怪物がいる校内を1人で歩ける勇気は無い。
   ケイを追いかけようとしても黒猫はすでになくなっていて、私は誰もいない構内の静寂に押しつぶされそうになっていた。
   そんな時だった。黒いシルエットでしかなかった靄がはっきりと人の形が変わっていった。
   私は黒い着物姿の彼を見た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...