糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

時計草 4

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   大人しく従順な清音が反発したくなるのもわかる。しかし、瑠璃に憤りがあったとしてもその言葉を受け取るしかできない。
   「嫌味なほどに正論を言うんだな」
   「正論を嫌味たっぷりに言うのが好きなの」
   「嫌われるとわかっていながらなんで言うんだ?」
   「人に嫌われたいからよ。あたしの日常はそうやって守られてるの」
   瑠璃は「独り」というものに固執している。その理由が気にならないと言えば嘘になるが、彼女にとってそれは立ち入り禁止の区域であり、他人のカンダタが容易に足を踏み入れてはいけない。そこまで親しい仲でもない。
   「それで、蝶男をずっと待っているのか」
   「放送室に行きたいわ。手掛かりがあるかもしれない」
   それはプラネタリウムのことだろう。昨晩の舞台を投映した装置は放送室にあると確信していた。
   既に装置は移動しているだろうが、何かしらの手がかりが残っているかもしれないとわずかな可能性に賭けて2人は放送室へと向かう。



   誰もいない学校に影が落ち始めた。 鐘はもうすぐ鳴る。 昨日もこの時と同じような暗さだった。
   「佐矢  蛍のことだか、引っかかることがあるんだ」
   「何よ、あたしの推理に文句でもあるの?」
   「そういうわけじゃない」
   2人は放送室前に来ていた。そこでカンダタは1つの話を思い出していたのだ。
   そのことを口にしようとして止まった。瑠璃が戸を開けた瞬間、赤一面に染まった室内に目が奪われた。
   四肢が千切られた胴体は机の上に置かれ、胸のあたりから腹まで裂かれていた。その傷口からは役目を終えた心臓、胃腸、肺が垂れている。どんなの意図があるのか理解できないが、桜尾  すみれの頭が糸で括られ、天井に吊るされていた。
   「これはまた派手に死んだわね」 
   鉄の生臭さが充満する中、瑠璃が無関心な台詞を吐く。
   「これは所謂、魂がなくなった状態か」
   「大方、扱いやすいように魂を抜き取ったのね。弱き者の味方桜尾  すみれは綺麗に嵌められて傀儡人形になりました。めでたしめでたし」
   瑠璃がわざとらしい語り口調で締めるもカンダタが納得できるはずもない。
   「これが人の行いなのか?」
   「あら、こんな無駄で無意味な戯れを犬猫ができると?」
   「それは」
   何を言えばいいのか。言葉はあった。「人として許さない」「可哀想だ」偽善者ばかりの言葉だ。しかし、それは本心ではない。カンダタの憂いは別にある。
   桜尾  すみれは蝶男に乗せられ、あの惨劇を演じた。その結果がこれだ。身体から魂を奪われ、意思を奪われ、彼女が彼女という証は消えてしまった。
   これはカンダタも同じだ。自分の意思は今も尚、蝶男に握られている。
   何も知らないまま、奪われた桜尾  すみれと結果を垣間見たカンダタ。どちらが哀れなのか。考えても不毛だ。
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