糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

瑠璃、幼少期 6

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   「学校楽しい?」 
   玄関で母が尋ねてきた。あたしの背には真新しいランドセルがあった。これは学校が背負わせている重荷であり、私は嫌々ながら重い鞄を背負っていた。
   「行きたくない。つまらない」
   素直に答えた。
   「なら、行かなくていいわ。家にいればいい」
   「でも」
   行きたくないのは本心だ。けれど、いかなければならない。そうしないと将来がないと皆が脅してくるからだ。
   「苦手なことはしなくていいの」
   そんな大人たちと違って母は真逆のことを言う。
   「ランドセルをおろしてとホットチョコを作りましょ。ビスケットとフリュイコンフィも一緒にして」
   母がそう言ってくれるのなら、許してくれるのなら、学校にだって行かなくてもいい。人生の中で1番馬鹿だった時代のあたしは母の誘いに笑顔で受け入れた。
   重苦しいランドセルを下ろし、ホットチョコで将来の不安を流した。
   「苦手なことはしなくていい。得意なことだけしましょ。瑠璃は何ができる?」
   私は下唇を舐めて口端についたとチョコをとってから答える。
   「裁縫と料理、洗濯、掃除」
   「瑠璃は何でもできるのね。ママ誇らしいわ」
   満足そうに笑って褒めてくれた。あたしは嬉しくなって喜びは手先に表れて、もじもじと指を遊ばせた。
   その日からあたしの不登校暮らしが始まった。
   学校に行かなくてもいい。母とずっと一緒にいられる。そう思い込んでいた。
   あたしが不登校になってから母の外出が増えた。日本には母の親戚もいなければ友人もいない。況してやあたしよりも日本語が喋れない。
   あたしを置いてどこ行くのかと不安になるも、1時間ほどで帰ってくる。決まった時間に行き、決まった時間で帰ってくる。
   どこ行っているのかを尋ねると母は友人と答える。フランス語が話せる友人だろうか?
   その日、久しぶりに外出した。「パパには内緒ね」と茶目っ気含めて母が笑った。2人だけの秘密ができたようで嬉しかった。
   遊びに行ったのは大学の学園祭。意外だった。母とのお出かけはショッピングモールか遊園地で、こうしたイベントには興味を示さない。
   不思議ではあったが、屋台でりんご飴を買ってもらうと甘い満足感を得て、疑問は消えていた。
   構内に入ると体験型の催し物を開催している研究室に向かった。
   母娘が室内に入ると若い男子学生が母に満面の笑みで迎えた。
   「エマ、待ってたよ」
   彼は日本語で母に寄る。
   あたしはさっと母の後ろに隠れた。
   「この子が娘さん?母親似の美人さんだね。エマを小さくしたみたいにそっくりだ」
   娘の賛美を母は笑みで返す。母は先程の日本語を理解して笑っているのか、それともニュアンスで伝わったのか。
   「ママのお友達よ。少しお話ししてくるから瑠璃は待ってて」
   そう言ってあたしを別の学生に預けて、母は若い学生と別室に移動する。
   あたしの相手をする学生は女性で英語が話せた。慣れていないたどたどしい口調ではあったが通じない訳ではない。
   もしかしたら、ここの学生は英語を勉強しているのかもしれない。だから、母とも友達になれたのだろうか。
   自分を納得させても先程感じた矛盾が拭えない。
   トイレを行くふりをして別室に入った母と男子学生を追う。
   別室は荷物置き場になっていた。大きな棚と段ボールが道を作り、小さな迷路みたいになっている。
   「すごいわ。これであの人の目も欺ける」
   日本語が耳に跳び込んだ。間違いなく、母の声だ。
   段ボールの背に隠れて2人を覗く。
   母の手には2台のスマホがあった。一台は母が所有するものでもう一台は型の古いスマホ。母は2台のスマホを鞄に仕舞う。
   「お礼するわ」
   「いらないよ。君のために用意したんだ」
   財布から札を取り出そうした母の手を男子学生の手が包み込む。
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