240 / 644
3章 死神が誘う遊園地
夢楽土会 2
しおりを挟む
瑠璃は橙色の煮付けをスプーンで掬うとパンに乗せるとそれを頬張る。
「あんな理想妄想詰め込んだもの何がいいのかしらね」
食事の時だけ幸せそうである。今も皮肉を言うわりには頬張った口の端が上がっている。
「いい映画だ」
兎も角、自分が良いと思ったものを批判されては朝食で舌鼓を打つ瑠璃に批判したくなる。
「リアルじゃない」
瑠璃は一掃する。
「記憶障害がある人がとんとん拍子で幸せになれるはずがないもの」
「捻くれた性格直したほうがいいぞ」
彼女は恋愛で幸せになった2人が気に入らないのだろう。カンダタが窘めるも捻くれた発言は止まなかった。
「そもそも、記憶障害の女が毎回同じ男の夢を見て、惹かれるっていうのが有り得ないのよ。ファンタジーだわ」
瑠璃の言い分を聞いているとにやけた笑みがこぼれそうになる。
つまらない映画だというなら忘れてしまうのが得というものだ。つまらない映画の一部を覚えているのは心象的に残っているのだろう。それを認めないあたり、瑠璃の捻くれた部分がよくわかる。
夢といえば、カンダタも夢を見た。夢というよりは記憶と言えるだろう。あれは自身が死んだ時の記憶が蘇ったのだ。蝶男の姿が浮かぶ。
項の小さな痛みが鈍痛に変わった。針くらいの痛みなら耐えられるが、唐突な激痛に顔を顰める。
「なぁ、死人は生きた夢を見ると思うか?」
痛みを堪え、尋ねて見る。
あの夢は目を瞑ったら見たものであり、見たくて見たものではなかった。
食欲や睡眠欲は生者の特権ならば、夢は生と死のどちらにあるのか。カンダタが見た夢は死者の追想そうなのか、生前のカンダタが命に執着していた習慣なのか。
「SF小説のタイトルみたいな質問ね」
用途がつかめない問いだったので瑠璃には答えようがない。
「光弥はまだ寝ているの?」
呆れた顔で鑑賞室を見る。
瑠璃の学生生活は忙しいものになっていた。体育祭と期末試験と目紛しく行事が続いた。体育祭では愚痴を吐き続け、試験期間では勉強漬けの毎日だった。
その間、カンダタと光弥は何をしていたかというと映画を見ていた。瑠璃が机にかぶりついていた時、浪人と変わらない2人は液晶テレビにかぶりついていた。
現代と日常を学ぶには映画が効率良かったので光弥と共に鑑賞してみるとその魅力に心を奪われてしまった。そして、カンダタよりも映画に取り憑かれたのは光弥だった。
カンダタと光弥では趣向が違い、光弥は「ミスト」「ムカデ人間」を好んだ。瑠璃からは映画の趣味が悪いと言われ、カンダタも同意する。
「あいつ、何しにきてるのかしら」
そもそも、光弥はハザマから送り込まれた使者であり、その目的は瑠璃の魂抽出である。自分の役割を忘れて映画三昧なのだ。遊んでいるようにしか見えない。
「そのほうがいいんじゃないか。殺される心配がないんだ」
「家に居座らなければ最高なんだけど」
台詞の棘はカンダタにも向けられていた。何もせず、映画三昧の暮らしをしているのはカンダタも同じだ。
「学校は?今日も試験とかか?」
どことなく心地が悪くなったので話題を変える。
「今日は一学期最終日よ。明日から夏休み」
蜜柑の煮付けを塗った食パンを食べ終えるとテレビを消して立ち上がる。
「映画もいいけれど、騒がないでよね。近所トラブルは嫌よ」
「騒いでも気付きようがないさ」
映画は黙って見るものだが、大声で笑ったとしても泣いても騒いでも亡霊の声は誰にも聞こえない。
それもそうねと呟いて瑠璃は自室に戻る。
「あんな理想妄想詰め込んだもの何がいいのかしらね」
食事の時だけ幸せそうである。今も皮肉を言うわりには頬張った口の端が上がっている。
「いい映画だ」
兎も角、自分が良いと思ったものを批判されては朝食で舌鼓を打つ瑠璃に批判したくなる。
「リアルじゃない」
瑠璃は一掃する。
「記憶障害がある人がとんとん拍子で幸せになれるはずがないもの」
「捻くれた性格直したほうがいいぞ」
彼女は恋愛で幸せになった2人が気に入らないのだろう。カンダタが窘めるも捻くれた発言は止まなかった。
「そもそも、記憶障害の女が毎回同じ男の夢を見て、惹かれるっていうのが有り得ないのよ。ファンタジーだわ」
瑠璃の言い分を聞いているとにやけた笑みがこぼれそうになる。
つまらない映画だというなら忘れてしまうのが得というものだ。つまらない映画の一部を覚えているのは心象的に残っているのだろう。それを認めないあたり、瑠璃の捻くれた部分がよくわかる。
夢といえば、カンダタも夢を見た。夢というよりは記憶と言えるだろう。あれは自身が死んだ時の記憶が蘇ったのだ。蝶男の姿が浮かぶ。
項の小さな痛みが鈍痛に変わった。針くらいの痛みなら耐えられるが、唐突な激痛に顔を顰める。
「なぁ、死人は生きた夢を見ると思うか?」
痛みを堪え、尋ねて見る。
あの夢は目を瞑ったら見たものであり、見たくて見たものではなかった。
食欲や睡眠欲は生者の特権ならば、夢は生と死のどちらにあるのか。カンダタが見た夢は死者の追想そうなのか、生前のカンダタが命に執着していた習慣なのか。
「SF小説のタイトルみたいな質問ね」
用途がつかめない問いだったので瑠璃には答えようがない。
「光弥はまだ寝ているの?」
呆れた顔で鑑賞室を見る。
瑠璃の学生生活は忙しいものになっていた。体育祭と期末試験と目紛しく行事が続いた。体育祭では愚痴を吐き続け、試験期間では勉強漬けの毎日だった。
その間、カンダタと光弥は何をしていたかというと映画を見ていた。瑠璃が机にかぶりついていた時、浪人と変わらない2人は液晶テレビにかぶりついていた。
現代と日常を学ぶには映画が効率良かったので光弥と共に鑑賞してみるとその魅力に心を奪われてしまった。そして、カンダタよりも映画に取り憑かれたのは光弥だった。
カンダタと光弥では趣向が違い、光弥は「ミスト」「ムカデ人間」を好んだ。瑠璃からは映画の趣味が悪いと言われ、カンダタも同意する。
「あいつ、何しにきてるのかしら」
そもそも、光弥はハザマから送り込まれた使者であり、その目的は瑠璃の魂抽出である。自分の役割を忘れて映画三昧なのだ。遊んでいるようにしか見えない。
「そのほうがいいんじゃないか。殺される心配がないんだ」
「家に居座らなければ最高なんだけど」
台詞の棘はカンダタにも向けられていた。何もせず、映画三昧の暮らしをしているのはカンダタも同じだ。
「学校は?今日も試験とかか?」
どことなく心地が悪くなったので話題を変える。
「今日は一学期最終日よ。明日から夏休み」
蜜柑の煮付けを塗った食パンを食べ終えるとテレビを消して立ち上がる。
「映画もいいけれど、騒がないでよね。近所トラブルは嫌よ」
「騒いでも気付きようがないさ」
映画は黙って見るものだが、大声で笑ったとしても泣いても騒いでも亡霊の声は誰にも聞こえない。
それもそうねと呟いて瑠璃は自室に戻る。
0
あなたにおすすめの小説
合成師
盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる