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3章 死神が誘う遊園地
夢楽土会 3
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項の痛みはなくなっていたが、首は摩る。先程、言っていた夏休みという単語について考える。
何度か話には聞いていたが、しっくりとこない。どういうものかと聞いてみれば学業がない期間のことをいう。学業がなければ他に何をするのか。カンダタはそれが想像できなかった。
瑠璃曰く、旅行や家族と過ごす期間だという。しかし、自分には縁のないもので、生活リズムとやら狂うから好きになれないと瑠璃は言っていた。
すでにその期間に入っている学校もあるらしい。カンダタが外出してみれば、足を弾ませて歩く子供と大きな鞄を持った両親の楽しい喧騒を見かける回数が多かった。
そんな様子を見ていると紅柘榴が隣にいない理由を考え、自分が死んだ理由を考える。そうした自問自答の結論は決まっている。失ったものは取り返せない。これが答えだ。
カンダタが願うものは叶わない。死人は何かを手に入れることすらできないのだ。
居間からベランダに移るとマンションの玄関口から4人の家族が出かけるところだった。
「あの荷物はキャンプかな?」
不意に光弥が隣に立つ。起きたようだ。
「きゃんぷ」
初めて聞く言葉だ。
「山や海に行って肉焼いたり、寝泊まりしたり」
光弥の説明を聞きながら、わざわざ野宿して何が楽しいのだろうかと考える。キャンプに出向くあの家族には雨風から身を守る屋根があると言うのに。
車に乗る家族4人は笑顔で、それもまた幸福な形なのだろうと達観する。
「それよりも、あなたたちはいつまでうちにいるの?」
振り返ってみると制服に着替えた瑠璃が文句ありげに聞いてくる。
「人をニート扱いだなぁ」
「実際にそうじゃない」
「何もしていないわけじゃないさ」
そう言いながら欠伸をする。徹夜続きで映画を観たせいだろう。光弥は気怠げだった。
「手ぶらで帰るわけにはいかないからさ。もう一つの案件を解決させていかないと」
つまり、瑠璃の魂抽出が失敗に終わったので別の手柄が必要になったのだ。
「なぁ、学校とかでさ夢楽土会で行ったことないか?」
「あたしと噂話をする友人なんていないわよ」
瑠璃は堂々とした態度で言い放つ。彼女はこの話に興味がなく、それ以上聞こうとしないのでカンダタが代わり聞く。
「その夢楽土会がお前の手柄になるのか?」
「前にも話したろう。自殺者の数とハザマに流れた魂の数が合わないって」
「あれ、あたしに近づくための建前かと思った」
「まぁ、確かにそうなんだけど。こっちも深刻なんだよ。それで、自殺者の多くがある薬を服用していたんだ。それが夢楽土会が配布している薬みたいでさ」
「信憑性のない噂話ね」
光弥が得意げに調査の進展を話していると瑠璃が溜息を吐く。
「薬品を売るには国家資格がいるのよ。薬品を売る場所だって決められる。小さな怪しい新教団にできるわけないじゃない」
薬を飲んで自殺する副作用があるならなおさらだ。
薬品を売るには販売許可が必要なようで、それには県知事やら大臣やらの承認が必要だと瑠璃が言う。
「お上が黙っていないわけだな。すぐに気付かれて縄につく」
カンダタが納得して頷く。
「そういうことよ。あたしは学校に行くけど調査ごっこはほどほどにしてよね。面倒事はごめんよ」
言いたいことを言い切って瑠璃は学校に向かうべく鞄を持つ。
カンダタは再び外を見下ろす。あの4人家族はいなくなっていたが、不審に見渡す怪しい男がいた。
あの男は3日間連続でマンション前に訪れては何もせずに去っていく。その上、瑠璃の部屋の方を見上げては手帳取り出して手早く書き付けている。
昨日、瑠璃に警告してみるも「ほっとけばいい」と言われた。その日は不審者から瑠璃を避けてどこかへと行った。
彼の挙動は明らかに瑠璃を狙っている。
「強姦でもするつもりなのかな?」
光弥が軽々しく言う。感情の重みを知らない彼はその言葉の重みも容易く発言出来る。
カンダタは不快そうに眉を顰めながら否定する。
「違う。あれは別の目的で動いてる」
あの男の目つきは変質者の類のものじゃない。どちらかというと信念と求知心で動き、観察を行う目つきだ。
「そんなの見分けがつくのかよ」
どれも一緒だと光弥は言いたげな表情だ。
「少なくとも、凌虐するやつの目付きはわかりやすい」
「どちらにしても迷惑ね」
瑠璃と光弥は今一、理解できていないようだ。カンダタも説明はできない。感覚的なものなのだ。説明して伝わるものではない。
「俺も行く」
部屋を出ようとする瑠璃に告げる。
「ついて来なくてもいいのよ」
「それは俺の勝手だろう」
瑠璃は不服そうに溜息を吐くもそれ以上は止めなかった。
面倒事はごめんだと言っていた。
自殺を促す薬、謎の男。瑠璃の言う面倒事が足音を立てずに近づいているような気がした。
何度か話には聞いていたが、しっくりとこない。どういうものかと聞いてみれば学業がない期間のことをいう。学業がなければ他に何をするのか。カンダタはそれが想像できなかった。
瑠璃曰く、旅行や家族と過ごす期間だという。しかし、自分には縁のないもので、生活リズムとやら狂うから好きになれないと瑠璃は言っていた。
すでにその期間に入っている学校もあるらしい。カンダタが外出してみれば、足を弾ませて歩く子供と大きな鞄を持った両親の楽しい喧騒を見かける回数が多かった。
そんな様子を見ていると紅柘榴が隣にいない理由を考え、自分が死んだ理由を考える。そうした自問自答の結論は決まっている。失ったものは取り返せない。これが答えだ。
カンダタが願うものは叶わない。死人は何かを手に入れることすらできないのだ。
居間からベランダに移るとマンションの玄関口から4人の家族が出かけるところだった。
「あの荷物はキャンプかな?」
不意に光弥が隣に立つ。起きたようだ。
「きゃんぷ」
初めて聞く言葉だ。
「山や海に行って肉焼いたり、寝泊まりしたり」
光弥の説明を聞きながら、わざわざ野宿して何が楽しいのだろうかと考える。キャンプに出向くあの家族には雨風から身を守る屋根があると言うのに。
車に乗る家族4人は笑顔で、それもまた幸福な形なのだろうと達観する。
「それよりも、あなたたちはいつまでうちにいるの?」
振り返ってみると制服に着替えた瑠璃が文句ありげに聞いてくる。
「人をニート扱いだなぁ」
「実際にそうじゃない」
「何もしていないわけじゃないさ」
そう言いながら欠伸をする。徹夜続きで映画を観たせいだろう。光弥は気怠げだった。
「手ぶらで帰るわけにはいかないからさ。もう一つの案件を解決させていかないと」
つまり、瑠璃の魂抽出が失敗に終わったので別の手柄が必要になったのだ。
「なぁ、学校とかでさ夢楽土会で行ったことないか?」
「あたしと噂話をする友人なんていないわよ」
瑠璃は堂々とした態度で言い放つ。彼女はこの話に興味がなく、それ以上聞こうとしないのでカンダタが代わり聞く。
「その夢楽土会がお前の手柄になるのか?」
「前にも話したろう。自殺者の数とハザマに流れた魂の数が合わないって」
「あれ、あたしに近づくための建前かと思った」
「まぁ、確かにそうなんだけど。こっちも深刻なんだよ。それで、自殺者の多くがある薬を服用していたんだ。それが夢楽土会が配布している薬みたいでさ」
「信憑性のない噂話ね」
光弥が得意げに調査の進展を話していると瑠璃が溜息を吐く。
「薬品を売るには国家資格がいるのよ。薬品を売る場所だって決められる。小さな怪しい新教団にできるわけないじゃない」
薬を飲んで自殺する副作用があるならなおさらだ。
薬品を売るには販売許可が必要なようで、それには県知事やら大臣やらの承認が必要だと瑠璃が言う。
「お上が黙っていないわけだな。すぐに気付かれて縄につく」
カンダタが納得して頷く。
「そういうことよ。あたしは学校に行くけど調査ごっこはほどほどにしてよね。面倒事はごめんよ」
言いたいことを言い切って瑠璃は学校に向かうべく鞄を持つ。
カンダタは再び外を見下ろす。あの4人家族はいなくなっていたが、不審に見渡す怪しい男がいた。
あの男は3日間連続でマンション前に訪れては何もせずに去っていく。その上、瑠璃の部屋の方を見上げては手帳取り出して手早く書き付けている。
昨日、瑠璃に警告してみるも「ほっとけばいい」と言われた。その日は不審者から瑠璃を避けてどこかへと行った。
彼の挙動は明らかに瑠璃を狙っている。
「強姦でもするつもりなのかな?」
光弥が軽々しく言う。感情の重みを知らない彼はその言葉の重みも容易く発言出来る。
カンダタは不快そうに眉を顰めながら否定する。
「違う。あれは別の目的で動いてる」
あの男の目つきは変質者の類のものじゃない。どちらかというと信念と求知心で動き、観察を行う目つきだ。
「そんなの見分けがつくのかよ」
どれも一緒だと光弥は言いたげな表情だ。
「少なくとも、凌虐するやつの目付きはわかりやすい」
「どちらにしても迷惑ね」
瑠璃と光弥は今一、理解できていないようだ。カンダタも説明はできない。感覚的なものなのだ。説明して伝わるものではない。
「俺も行く」
部屋を出ようとする瑠璃に告げる。
「ついて来なくてもいいのよ」
「それは俺の勝手だろう」
瑠璃は不服そうに溜息を吐くもそれ以上は止めなかった。
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