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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 崩れる 18
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頭が揺れる。線と線がぼやけている。物の輪郭が捉えられない。
もうすぐ着くからね、気負った声が耳に囁く。
俺は歩いているのか?
俺は、どこを歩いている?
この前連れて行ったところ。そう言って囁き声は歩調を早めた。
意識が曖昧になって、暗闇になり、光に包まれ、また曖昧になる。海の臭いだけが明確だ。
雪崩れるようにして、俺の身体を下ろす。女性の背から床に移されたらしい。
春の匂いが遠かったかと思えば埃まみれの布を被せられた。
「死なないで。お願い」
毛布の中で寒気を覚え、身震いする。俺の頬に触れた指が熱い。珍しい。いつもは指が冷え切っているのに。
「飲めるもの、水持ってくる」
「海の水、はだ、めだ」
恐らく、彼女は真水と海水は同じものだと考えている。海を知らなかった彼女ならばあり得そうだ。
「えっと、それじゃあ」
すでに海水の選択肢が頭にあったのだろう。目を泳がせ、戸惑う。そんな様子が可笑しく、体調の悪さがどうでもよくなった。
「何か、口に入れられるもの、持ってくるから」
焦る彼女が俺に背を向けて立ち上がろうとする。去ろうとする背中に寂しさを覚え、慌てて彼女の手を掴んだ。
身体の動き方さえ忘れてしまったのに咄嗟の判断となれば身体は自然ということを聞いた。
「行く、な」
俺から去っていく背中はもう見たくない。あんな賭け乗るべきではなかった。
「賭け?そうだ。賭けはどうなった?」
停止した思考は覚醒し、一気に加速する。自分の身に起きた出来事が記憶となって、脳内を駆け巡る。
「蝶男は?どこに行った?ここは、塀の外か?どうやって外に出た?俺は、気を失っていたのか?どのぐらいの間?」
処理が追いつかず、矢継ぎ早に疑惑が言葉となって溢れる。
紅柘榴は困ったように笑い、起き上がった上半身を宥める手つきで寝かせようとするも俺はその手をとり、止める。
「どこまで憶えてる?私のことわかる?」
「べに、紅柘榴」
当然だと言わんばかりに即答する。すると、笑っていた紅柘榴は泣きそうな顔になる。
「賭けには勝ったわ。自由よ」
ならば、なぜそんな顔をしている?。
「ここは海辺の荒屋。前に連れてきてくれたでしょ?私が運んだの。蝶男の目を盗んでね」
蝶男が目を離すだろうか?
俺と紅柘榴を再会させた時、蝶男は態とらしくあの場を離れた。
心情が荒れた紅柘榴が躍起になり、俺を連れ出し共に逃げると考えなかったのか。あの態とらしさはまるで。
そこまで考えてると項に痛み、思考が止まる。低く埋めき、痛みに耐える。首の後ろに手を回し、痛みが走った部分を摩る。
そして、項にあるはずの傷がないと気付く。
項に傷をつけられ、そこから幼虫を詰め込まれた。その時の傷がない。接合の痕もない。
「体調が良くないの?首が痛いの?」
「痛いのは項だけだ」
それもおかしい。監禁される前、俺は散々痛めつけられた。多くの怪我もした。それらがなくなっている。
「項を見てくれないか?」
紅柘榴は俺の後ろに回り、痛みの元である項を見てみる。
「何もない。ここが痛いの?」
項を摩ると痛みが和らぐ。
「もう、平気だ」
紅柘榴から身体を離す。頭がぐらつく感覚はするが、思考は澄み渡っている。
「ほんとに?歩ける?」
信用ならないと紅柘榴は眉を垂らして俺の顔を伺う。
「気持ち悪いとか、思い出せないものがあるとか」
「本当に大丈夫だ」
ここまで心配されると嬉しくなり、思わず綻ぶ。対して紅柘榴は不安ばかりが煽られる。
「私のせいで巻き込んでしまった。ごめんなさい。私のせいで、本当にごめんなさい」
煽られた不安は罪悪感となり、彼女を苦しませ涙を流す。
「べには何も悪くないだろ」
涙を拭おうとするも紅柘榴は顔を俯かせ、俺が触れるのを許さなかった。
他に慰める言葉が浮かばない。思考は澄んでいるという元気付けることさえできない。
「口に入れられるもの探してくる。水とか、さ、魚とか」
自分で流した涙を自分で拭うと取り繕ったような明るい口調だった。それでいて顔を隠すのだから、それが無理に繕ったものであるとわかりやすい。
立ち上がろうとする紅柘榴を止める。
「どこに行くつもりだ」
「だから、食糧を」
「人喰い塀か」
真摯に見つめる俺の目を逸らし、紅柘榴は唇を一文字に結ぶ。
もうすぐ着くからね、気負った声が耳に囁く。
俺は歩いているのか?
俺は、どこを歩いている?
この前連れて行ったところ。そう言って囁き声は歩調を早めた。
意識が曖昧になって、暗闇になり、光に包まれ、また曖昧になる。海の臭いだけが明確だ。
雪崩れるようにして、俺の身体を下ろす。女性の背から床に移されたらしい。
春の匂いが遠かったかと思えば埃まみれの布を被せられた。
「死なないで。お願い」
毛布の中で寒気を覚え、身震いする。俺の頬に触れた指が熱い。珍しい。いつもは指が冷え切っているのに。
「飲めるもの、水持ってくる」
「海の水、はだ、めだ」
恐らく、彼女は真水と海水は同じものだと考えている。海を知らなかった彼女ならばあり得そうだ。
「えっと、それじゃあ」
すでに海水の選択肢が頭にあったのだろう。目を泳がせ、戸惑う。そんな様子が可笑しく、体調の悪さがどうでもよくなった。
「何か、口に入れられるもの、持ってくるから」
焦る彼女が俺に背を向けて立ち上がろうとする。去ろうとする背中に寂しさを覚え、慌てて彼女の手を掴んだ。
身体の動き方さえ忘れてしまったのに咄嗟の判断となれば身体は自然ということを聞いた。
「行く、な」
俺から去っていく背中はもう見たくない。あんな賭け乗るべきではなかった。
「賭け?そうだ。賭けはどうなった?」
停止した思考は覚醒し、一気に加速する。自分の身に起きた出来事が記憶となって、脳内を駆け巡る。
「蝶男は?どこに行った?ここは、塀の外か?どうやって外に出た?俺は、気を失っていたのか?どのぐらいの間?」
処理が追いつかず、矢継ぎ早に疑惑が言葉となって溢れる。
紅柘榴は困ったように笑い、起き上がった上半身を宥める手つきで寝かせようとするも俺はその手をとり、止める。
「どこまで憶えてる?私のことわかる?」
「べに、紅柘榴」
当然だと言わんばかりに即答する。すると、笑っていた紅柘榴は泣きそうな顔になる。
「賭けには勝ったわ。自由よ」
ならば、なぜそんな顔をしている?。
「ここは海辺の荒屋。前に連れてきてくれたでしょ?私が運んだの。蝶男の目を盗んでね」
蝶男が目を離すだろうか?
俺と紅柘榴を再会させた時、蝶男は態とらしくあの場を離れた。
心情が荒れた紅柘榴が躍起になり、俺を連れ出し共に逃げると考えなかったのか。あの態とらしさはまるで。
そこまで考えてると項に痛み、思考が止まる。低く埋めき、痛みに耐える。首の後ろに手を回し、痛みが走った部分を摩る。
そして、項にあるはずの傷がないと気付く。
項に傷をつけられ、そこから幼虫を詰め込まれた。その時の傷がない。接合の痕もない。
「体調が良くないの?首が痛いの?」
「痛いのは項だけだ」
それもおかしい。監禁される前、俺は散々痛めつけられた。多くの怪我もした。それらがなくなっている。
「項を見てくれないか?」
紅柘榴は俺の後ろに回り、痛みの元である項を見てみる。
「何もない。ここが痛いの?」
項を摩ると痛みが和らぐ。
「もう、平気だ」
紅柘榴から身体を離す。頭がぐらつく感覚はするが、思考は澄み渡っている。
「ほんとに?歩ける?」
信用ならないと紅柘榴は眉を垂らして俺の顔を伺う。
「気持ち悪いとか、思い出せないものがあるとか」
「本当に大丈夫だ」
ここまで心配されると嬉しくなり、思わず綻ぶ。対して紅柘榴は不安ばかりが煽られる。
「私のせいで巻き込んでしまった。ごめんなさい。私のせいで、本当にごめんなさい」
煽られた不安は罪悪感となり、彼女を苦しませ涙を流す。
「べには何も悪くないだろ」
涙を拭おうとするも紅柘榴は顔を俯かせ、俺が触れるのを許さなかった。
他に慰める言葉が浮かばない。思考は澄んでいるという元気付けることさえできない。
「口に入れられるもの探してくる。水とか、さ、魚とか」
自分で流した涙を自分で拭うと取り繕ったような明るい口調だった。それでいて顔を隠すのだから、それが無理に繕ったものであるとわかりやすい。
立ち上がろうとする紅柘榴を止める。
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「だから、食糧を」
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