460 / 644
5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
追想の中で 4
しおりを挟む
崩れた錆の臭いに不快になりながら身を屈めて出っ張った鉄骨を避ける。
頭上からパチパチとした音が鳴る。切れた電線の端から熱を帯びた火花が弾け、鉄骨やあたしの足元に密かに衝突して一瞬のうちに消えた。
落ちてくる火花に気を付けながら前に進む。
すると、隣にいるハクが鼻先で腰を突いた。
焦るような鳴き声と急かしてくる仕草に異変を感じて振り返る。
あたしが立ち止まれば後方でついてきたカンダタや光弥も立ち止まる。
トンネルの入り口付近では外からの光が差して、半円の形をして地面を照らしている。
その光のアーチに黒い魚のシルエットが踊るように現れた。鯉の影だとシルエットから判断する。
「監視鯉だ」
光弥が囁くように警告する。
「偵察機みたいなもんだよ。見つかると厄介だ」
なんでそんなものがここに来るのよ。偵察機を先に見つけるのがケイの役割なのにあいつは何をしているの?
「急げ隠れるぞ」
愚痴る暇はないとカンダタが急かしてあたしの背中を押す。
「言われなくてもわかってるわよ」
幸いここはガラクタが寄せ集められた瓦礫のトンネルで身を隠せるスペースもあり、濃い影は息を潜めるのにピッタリだわ。
斜めにかけられたトタン板の裏に素早く身を隠し、背を丸めた。トタン板の切れ端からそっと慎重に顔を覗くと瑪瑙の鱗を纏った奇妙な鯉が優雅に空中を泳ぎ、魚の目は点灯していた。
光線が放たれた鯉の目は暗いトンネルの先を照らしている。その光が左右に大きく振って何かを探している。
探しているのは間違いなく侵入者で、つまりはあたしたちだ。
向こうはまだ疑っている。確信を持っているのなら偵察機を出さずに武装隊をよこしてくるはずだもの。
「これじゃ進めないわね」
顔をトタン板の裏に戻して小声でカンダタに話す。
「去っていくのを待っているか見つからないように移動するか、だな」
カンダタもあたしと同じ声のトーンで話す。
「じっとしていたほうがいいんじゃないか?」
弱腰になった光弥が前者を推す。ハクも同じ意見みたいであたしを見つめて頷く。あたしはハクの意見を尊重した。カンダタは反対で先に進みたいようだった。
2対1ではカンダタの意見は通らない。大人しく従うことにする。
そう決まったものの監視鯉は瓦礫のトンネルから離れずにずっとあたしたちの周囲を迷い泳いでいた。
去る気配のない鯉に苛立ちを募らせてあたしは舌打ちする。
「瑠璃、ケイが戻ってこない」
マイペースな猫よりあたしたちの現状を考えてほしいと苛立ってたけれど、カンダタの懸念は最もだと思い直す。
本来なら監視鯉がこちらに来る前にケイあたしたちに知らせるはずだった。
そのケイが戻ってこず、監視鯉が来た。ケイに問題が起きたのね。
監視鯉がここから離れようとしないのは弥たちが確証を得られずとも強い疑念を持っているからだわ。
「あたしたちがここからでたら見つかる?」
「確実にな」
わかりきった答えをカンダタが言う。
「ならエレベーターまで走りきって第4層まで行けたとしたら、追手は何人?」
次は光弥に質問する。
「追手が来たとしても俺たちを見つけるのは難しいよ。第4 は複雑な構想しているから」
それを聞いて少し安心する。蝶男の隠れ処を探しながら追手から逃げるのは困難だもの。
「あそこまで走ればいいわけだ。行けるか?」
カンダタが尋ねる。
「その質問いらないでしょ」
「マジで言ってる?」
強気で答えるとつかさず光弥が反論する。
「もう少し待てば。親父にバレたら」
反論の途中で沈黙する。不安定な静寂に僅かな喧騒が聞こえてくる。
それは侵入者に対する怒声と武器・防具が忙しく擦れ合う喧騒だった。あたしたちの存在が気付かれてしまった。
戸惑う暇さえないわね。
焦りはあったけれど冷静だった。立ち上がり、丸めていた背を伸ばす。
「大変だ」
薄暗い背景に同化したような黒猫が今更になってやってきた。喧騒の正体を知らせようとしたけれど、そんなもの聞こえてきた時点でわかっている。
「言い訳はいらない。走るわよ」
ケイがこのタイミングで戻ってきた訳は後で聞くとして、あたしたちが塊人から逃げる為トタン板から走り出す。
その際、トンネルの入り口をちらりと視線を向ければ多くの人影が見えた。
もうあそこまで来ている。
内心で舌打ちをして目的のエレベーターへと集中する。
エレベーターを照らしている電球は時折、火花を散らして点滅し、今にも消えてしまいそう。
背後ではあたしたちを追う武装隊が弥の命令を成し遂げようと士気を上げている。その興奮した喧騒が耳に障る。
彼らとあたしたちはまだ距離がある。あたしたちはトンネルの真ん中まで来ていた。全力で走り切ればゴールに辿り着ける。
勝算のつく確信を得て、走る速度をさらに上げようとした時だった。
飛んできた鉛があたしの足首を掠めた。
痛みよりも焼ける熱を感じて身体が傾く。転びそうになったあたしの襟首をカンダタが掴み、立て直させた。バランスを戻したあたしは擦り傷がついた足で次の一方踏み出す。
「撃ってきたぞ!」
カンダタか光弥か、どちらかが叫んだ。足首に残る感触がそれを示している。だからわざわざ叫んで伝えなくてもいい。
焦りからまた舌打ちをしたくなった。
頭上からパチパチとした音が鳴る。切れた電線の端から熱を帯びた火花が弾け、鉄骨やあたしの足元に密かに衝突して一瞬のうちに消えた。
落ちてくる火花に気を付けながら前に進む。
すると、隣にいるハクが鼻先で腰を突いた。
焦るような鳴き声と急かしてくる仕草に異変を感じて振り返る。
あたしが立ち止まれば後方でついてきたカンダタや光弥も立ち止まる。
トンネルの入り口付近では外からの光が差して、半円の形をして地面を照らしている。
その光のアーチに黒い魚のシルエットが踊るように現れた。鯉の影だとシルエットから判断する。
「監視鯉だ」
光弥が囁くように警告する。
「偵察機みたいなもんだよ。見つかると厄介だ」
なんでそんなものがここに来るのよ。偵察機を先に見つけるのがケイの役割なのにあいつは何をしているの?
「急げ隠れるぞ」
愚痴る暇はないとカンダタが急かしてあたしの背中を押す。
「言われなくてもわかってるわよ」
幸いここはガラクタが寄せ集められた瓦礫のトンネルで身を隠せるスペースもあり、濃い影は息を潜めるのにピッタリだわ。
斜めにかけられたトタン板の裏に素早く身を隠し、背を丸めた。トタン板の切れ端からそっと慎重に顔を覗くと瑪瑙の鱗を纏った奇妙な鯉が優雅に空中を泳ぎ、魚の目は点灯していた。
光線が放たれた鯉の目は暗いトンネルの先を照らしている。その光が左右に大きく振って何かを探している。
探しているのは間違いなく侵入者で、つまりはあたしたちだ。
向こうはまだ疑っている。確信を持っているのなら偵察機を出さずに武装隊をよこしてくるはずだもの。
「これじゃ進めないわね」
顔をトタン板の裏に戻して小声でカンダタに話す。
「去っていくのを待っているか見つからないように移動するか、だな」
カンダタもあたしと同じ声のトーンで話す。
「じっとしていたほうがいいんじゃないか?」
弱腰になった光弥が前者を推す。ハクも同じ意見みたいであたしを見つめて頷く。あたしはハクの意見を尊重した。カンダタは反対で先に進みたいようだった。
2対1ではカンダタの意見は通らない。大人しく従うことにする。
そう決まったものの監視鯉は瓦礫のトンネルから離れずにずっとあたしたちの周囲を迷い泳いでいた。
去る気配のない鯉に苛立ちを募らせてあたしは舌打ちする。
「瑠璃、ケイが戻ってこない」
マイペースな猫よりあたしたちの現状を考えてほしいと苛立ってたけれど、カンダタの懸念は最もだと思い直す。
本来なら監視鯉がこちらに来る前にケイあたしたちに知らせるはずだった。
そのケイが戻ってこず、監視鯉が来た。ケイに問題が起きたのね。
監視鯉がここから離れようとしないのは弥たちが確証を得られずとも強い疑念を持っているからだわ。
「あたしたちがここからでたら見つかる?」
「確実にな」
わかりきった答えをカンダタが言う。
「ならエレベーターまで走りきって第4層まで行けたとしたら、追手は何人?」
次は光弥に質問する。
「追手が来たとしても俺たちを見つけるのは難しいよ。第4 は複雑な構想しているから」
それを聞いて少し安心する。蝶男の隠れ処を探しながら追手から逃げるのは困難だもの。
「あそこまで走ればいいわけだ。行けるか?」
カンダタが尋ねる。
「その質問いらないでしょ」
「マジで言ってる?」
強気で答えるとつかさず光弥が反論する。
「もう少し待てば。親父にバレたら」
反論の途中で沈黙する。不安定な静寂に僅かな喧騒が聞こえてくる。
それは侵入者に対する怒声と武器・防具が忙しく擦れ合う喧騒だった。あたしたちの存在が気付かれてしまった。
戸惑う暇さえないわね。
焦りはあったけれど冷静だった。立ち上がり、丸めていた背を伸ばす。
「大変だ」
薄暗い背景に同化したような黒猫が今更になってやってきた。喧騒の正体を知らせようとしたけれど、そんなもの聞こえてきた時点でわかっている。
「言い訳はいらない。走るわよ」
ケイがこのタイミングで戻ってきた訳は後で聞くとして、あたしたちが塊人から逃げる為トタン板から走り出す。
その際、トンネルの入り口をちらりと視線を向ければ多くの人影が見えた。
もうあそこまで来ている。
内心で舌打ちをして目的のエレベーターへと集中する。
エレベーターを照らしている電球は時折、火花を散らして点滅し、今にも消えてしまいそう。
背後ではあたしたちを追う武装隊が弥の命令を成し遂げようと士気を上げている。その興奮した喧騒が耳に障る。
彼らとあたしたちはまだ距離がある。あたしたちはトンネルの真ん中まで来ていた。全力で走り切ればゴールに辿り着ける。
勝算のつく確信を得て、走る速度をさらに上げようとした時だった。
飛んできた鉛があたしの足首を掠めた。
痛みよりも焼ける熱を感じて身体が傾く。転びそうになったあたしの襟首をカンダタが掴み、立て直させた。バランスを戻したあたしは擦り傷がついた足で次の一方踏み出す。
「撃ってきたぞ!」
カンダタか光弥か、どちらかが叫んだ。足首に残る感触がそれを示している。だからわざわざ叫んで伝えなくてもいい。
焦りからまた舌打ちをしたくなった。
0
あなたにおすすめの小説
合成師
盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる