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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
追想の中で 5
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銃撃は1発だけではなく、3発4発と繰り返し続く。反射で身を屈め、必然的にも走る速度も落ちてしまう。
銃弾が鉄柱に当たり、予想もつかない方向に弾かれる。命を持たない塊人たちはいつ崩れるかもわからない不安定なトンネルに潰されても構わないみたい。
流れた弾丸がむき出しになった鉄パイプを弾く。たった1本の鉄パイプが向きを変えただけで何とか保てていたトンネルの均衡が崩れる。
ガラクタを寄せて集めて積められたような瓦礫のトンネルは塊人たちの喧騒よりも騒がしい騒音を響かせて粉塵があたしたちを包む。
埃っぽい霧に隠れ、覆われた視界の中でぼんやりと光る電球を目指した。
「逃げれると思うな!」
はっきりと聞こえるの弥の怒声。気に留めることなく壊れかけのエレベーターに転がるようにして入った。
あたしの背後では光弥が「閉じる」と下三角のボタンを交互に連打していた。
興奮して力強く連打するからエレベーターのカゴが大きく揺れる。
カタコトと歪な音を立てて引っかかりながらもドアがスライドして閉じられる。緩やかな重力を感じて、それでエレベーターが降り始めたのだと知る。
けれど、途中でブツリと何かが切れた。途端に緩やかだった重力が全身を縛りつける重みに変わる。
エレベーターを繋いでいたワイヤーが切れてたんだわ。
あたしたちは小さな四角い箱に閉じ込められ、脱出する術がない。
密閉された箱が高い位置から落とされて、粉々になるイメージが脳内に浮かぶ。落ちていく感覚を身体に刻まれながらその瞬間を待たされる。
「最悪だ!死にたくない!」
箱の中で1番に喚いていたのは光弥だった。
「ムカデ人間3見てないのに!それに!あの人と!」
「ほんと!最悪な趣味ね!」
死に際の関係のない一言に堪えきれなくなったあたしは苛立ちの全てを声に乗せて叫んだ。
「どうでもいいだろ!」
その返しにカンダタが怒鳴り返す。
「ギャァァッ!」
ハクが甲高い金切り声で鳴く。何か、危険を知らせるような鳴き声だった。鳴き声の真意について考えるよりも先に身体を縛っていた重力が一瞬にして解けた。エレベーターの箱と地面が衝突して、バウンドしている。
さっきまであたしもパニックになっていたのに、不思議と身体が浮かんだその一瞬だけ興奮した熱が冷めた。
空中に身を任せるしかないその一瞬はスローモーションのように流れて、視界の端では恐怖で顔を引き攣った光弥とカンダタ、無表情のケイ。そしてあたしの表面にはハクがいる。
浮上したあたしのその上でハクは覆い被さるような格好になっていた。
こんな状況だと言うのに平然としていて、感情を映さない黒い瞳であたしを見ている。
あたしの青い瞳はハクを映す。ハクの黒い瞳にはあたしが映るはずなのに、そこにいるのはあたしじゃない別の女性がいた。
花柄で赤い着物、黒い長髪。ハクの目に映るあたしじゃない彼女。あたしはその人を昔から知っているような、懐かしい感覚がした。
赤い着物の彼女を呆然と眺めていたら、スローモーションで流れていた時間が通常に戻る。
一瞬だけ浮かんだ身体に鉛みたいな重力が戻ってきて、あたしの身体を再び床に叩きつけた。
背中に強い衝撃があったかと思えば、ハクがのしかかるように落ちてくる。
白い体が上から迫り、目を瞑る。視界が黒く塗りつぶされ、ハクの体重に備えて身を固める。
身体を硬直させて待ってみても、怯えていた衝撃はやってこない。
しかもパニックに陥っていた空間が一変して、嵐の後の静寂が流れていた。
恐るおそる目蓋を上げてみるとあたしは1人だけエレベーターの中で横たわっていた。
銃弾が鉄柱に当たり、予想もつかない方向に弾かれる。命を持たない塊人たちはいつ崩れるかもわからない不安定なトンネルに潰されても構わないみたい。
流れた弾丸がむき出しになった鉄パイプを弾く。たった1本の鉄パイプが向きを変えただけで何とか保てていたトンネルの均衡が崩れる。
ガラクタを寄せて集めて積められたような瓦礫のトンネルは塊人たちの喧騒よりも騒がしい騒音を響かせて粉塵があたしたちを包む。
埃っぽい霧に隠れ、覆われた視界の中でぼんやりと光る電球を目指した。
「逃げれると思うな!」
はっきりと聞こえるの弥の怒声。気に留めることなく壊れかけのエレベーターに転がるようにして入った。
あたしの背後では光弥が「閉じる」と下三角のボタンを交互に連打していた。
興奮して力強く連打するからエレベーターのカゴが大きく揺れる。
カタコトと歪な音を立てて引っかかりながらもドアがスライドして閉じられる。緩やかな重力を感じて、それでエレベーターが降り始めたのだと知る。
けれど、途中でブツリと何かが切れた。途端に緩やかだった重力が全身を縛りつける重みに変わる。
エレベーターを繋いでいたワイヤーが切れてたんだわ。
あたしたちは小さな四角い箱に閉じ込められ、脱出する術がない。
密閉された箱が高い位置から落とされて、粉々になるイメージが脳内に浮かぶ。落ちていく感覚を身体に刻まれながらその瞬間を待たされる。
「最悪だ!死にたくない!」
箱の中で1番に喚いていたのは光弥だった。
「ムカデ人間3見てないのに!それに!あの人と!」
「ほんと!最悪な趣味ね!」
死に際の関係のない一言に堪えきれなくなったあたしは苛立ちの全てを声に乗せて叫んだ。
「どうでもいいだろ!」
その返しにカンダタが怒鳴り返す。
「ギャァァッ!」
ハクが甲高い金切り声で鳴く。何か、危険を知らせるような鳴き声だった。鳴き声の真意について考えるよりも先に身体を縛っていた重力が一瞬にして解けた。エレベーターの箱と地面が衝突して、バウンドしている。
さっきまであたしもパニックになっていたのに、不思議と身体が浮かんだその一瞬だけ興奮した熱が冷めた。
空中に身を任せるしかないその一瞬はスローモーションのように流れて、視界の端では恐怖で顔を引き攣った光弥とカンダタ、無表情のケイ。そしてあたしの表面にはハクがいる。
浮上したあたしのその上でハクは覆い被さるような格好になっていた。
こんな状況だと言うのに平然としていて、感情を映さない黒い瞳であたしを見ている。
あたしの青い瞳はハクを映す。ハクの黒い瞳にはあたしが映るはずなのに、そこにいるのはあたしじゃない別の女性がいた。
花柄で赤い着物、黒い長髪。ハクの目に映るあたしじゃない彼女。あたしはその人を昔から知っているような、懐かしい感覚がした。
赤い着物の彼女を呆然と眺めていたら、スローモーションで流れていた時間が通常に戻る。
一瞬だけ浮かんだ身体に鉛みたいな重力が戻ってきて、あたしの身体を再び床に叩きつけた。
背中に強い衝撃があったかと思えば、ハクがのしかかるように落ちてくる。
白い体が上から迫り、目を瞑る。視界が黒く塗りつぶされ、ハクの体重に備えて身を固める。
身体を硬直させて待ってみても、怯えていた衝撃はやってこない。
しかもパニックに陥っていた空間が一変して、嵐の後の静寂が流れていた。
恐るおそる目蓋を上げてみるとあたしは1人だけエレベーターの中で横たわっていた。
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