糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
607 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来

赤い珠玉について 2

しおりを挟む
 紅玉の家族を殺したのは明弥だ。紅玉の対の双子を奪ったのも明弥だ。影弥の対して創られ、今は蝶男と名乗っているようだ。
 蝶男が双子の片割れを連れ去ったのは、その子が鋏の魂を持っていたからだろう。そして、鬼の魂も持っている。
 糸の魂を持つ紅玉は腹の中で取り残され、死産した。その魂はハザマに流れず留まり、失った片割れを探している。
 影弥は蝶男を追い、紅玉は双子の片割れを探す。そうして二人の旅は二十年ほど続いていた。
 「進展ないの?」
 地道な人探しは今日も収穫なしだ。
 紅玉は赤々と燃える焚き火の前で不満を漏らした。土の上で寝転ぶのは行儀が悪いが、影弥は許していた。幽体の利点は衣服が汚れないことだ。
 「悪いね。これでも追跡の技術は成長してるんだよ」
 焚き火の燃え木をつつき、紅玉に目線を向けて優しく笑ってみせた。
 「こうのお陰でね」
 紅玉は褒められたと嬉しくなって、漏らした不満など忘れてしまった。
 影弥が言ったのはお世辞ではなく、本心だ。というよりも本心しか言えない。嘘が言えないのだ。
 すごく長い年月の間、影弥が蝶男に追いつけない原因がそこにあった。
 影弥には想像力がない。
 一つ一つの情報を得たとしても点と点を線として結為の推理力がない。
 嘘というのは0を1にする行為だ。想像なしで嘘は創れない。
 そうした欠陥はハザマでは致命的であり、欠品扱いとなった影弥は弥から追放するような形で現世に流れた。
 嘘が吐けないのは紅玉も知っている。なので影弥の褒め言葉は信用にあたる。
 「想像ができないってどういうこと?」
 影弥からは何度も聞かされていたが、紅玉はあまり、理解していなかった。
 「昔話でもしようか」
 創る話を聞かせられないが、影弥が聞き、経験したものなら話せる。
 紅玉は影弥の話が大好きだった。
 永遠との言える男の経験談は豊富であり、どの話も紅玉を楽しませた。
 「翠玉が生きていたときの話だ」
 翠玉とは紅玉の前世だ。ハザマから現世に移った時の影弥の役割は翠玉と翡翠の世話係だった。それをみくびと言う塊人と共にやっていた。
 景弥より先に作られた首は現世の知識を豊富に持っており、対して当時の影弥は赤子当然であった。
 どの時代もそうであるが、その時代も人が荒れていた。
 荒れた人間によって人生を奪われた女が乳飲み子を抱えて翠玉たちの住処に迷い込んだ。
 翠玉たちの守り人であった影弥その女追い払おうと対峙した。
 その女は影弥に食べ物を乞うた。このままでは子も飢えると女は嘆いていた。
 影弥は食べ物を持っていた。
 住処にあるものは全て翠玉と翡翠の物であり、渡せない。
 しかし女は乞い、ここから動こうとしないので影弥も困っていた。ならば代わりの案をと考えた。その頃は人間や世間などの知識は中途半端であり、その中途半端な頭は極限状態にある人間は人間を食えることを知っていた。そして、その女は極限状態であり、腕には無抵抗な肉があった。
 それを伝えると女は絶望し、化け物を見るような目で影弥を見ていた。
 「知らなかったんだ。赤子に必要なのは母乳で乳を作るには母親の腹を満たすことだとは」
 想像できないとはそういうことだ。人が誰を思い願って行動するのか、多くの人が想像できることを影弥はできない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...