6 / 11
リンside
しおりを挟む
ルナ様がフラシー奥様に連れていかれてしまった後、私は旦那様の所へ走っていた。
多分旦那様は執事長と婚約破棄のことについて話し合っているはずだから、まだ屋敷にいるだろう。
奥様とルナ様の関係は、旦那様は知っているのだろうか。
いや、多分分かっていない。
旦那様は仕事の事しか興味が無い。
ルナ様が小さな頃も、お世話は乳母に一任していた。
元々聡明だったルナ様は、自立なさるのも早かった。優しくて可愛くて、だけれど、いつもはツンツンしている。知らない人には警戒するけれど、気を許した人にはとことん甘える。
まるで猫のような人だった。
私たちはそんなルナ様が、可愛くて仕方なくて、このまま健やかに育つようにと決意したものだ。
……ルナ様はレン様のために、随分と変わられた。
ある日のパーティでレン様とお会いになってからだった。いわゆる一目惚れだったらしい。
それからのルナ様は、いつでも微笑みを浮かべて、物腰柔らかく、だれに対しても平等に優しく接するようになった。
それまでの、少しつんつんとしていて、猫のような可愛らしさがあるルナ様とはあまりにも違って、とても困惑した。
でも好きな人の為にと頑張っている健気なルナ様を見ていると、本当に可愛らしくて、この恋が上手くいきますようにと応援した。
そしてルナ様が変わり始めてから程なくして、ルナ様は「月の妖精」から「月の女神」と呼ばれるようになった。
月の女神――たしかにその名の通り、ルナ様は女神のような洗練された美しさで周りを魅力している。
けれども、ルナ様は無理をしすぎているような気がした。
もう十分綺麗ですよ、レン様も自慢に思っていらっしゃいます、と言ったって、私はまだまだ未熟だからと、笑って誤魔化していた。
レン様に釣り合う令嬢になろうと沢山の努力をなさり、そのあまりにストイックすぎる生活に、私達使用人は心配で仕方がなかった。
病的とも言える完璧主義は、いつか彼女自身を壊してしまうのに。
完璧でなければ死んだ方がマシだと、奥様から嫌われ始めるようになってから、そう考えるようになっていってしまった。
「どうしてお母様に嫌われるのか分からないの。
街の子も貴族の子も、いつ見ても両親から愛されているのに。
どうして私は愛されていないの。
私が、私が何か劣っているところがあるのかしら。」
一度だけ、小さな声でそう呟いていたルナ様。
窓の外の湖を見ながら、涙を静かに流して、苦しそうに顔を歪めていた。
見ていられなくて、ルナ様の元に駆け寄って、その小さな手を握った。
「ルナ様が劣っているはずありません。使用人みんな、ルナ様の事が大好きで大切なんですよ。」
ゆらゆらゆらゆら。瞳が揺れて、また涙をこぼした。
きっと私の言葉は届いていない。ルナ様が求めている返答じゃないのは分かっていた。
それでも、
「そうね。ありがとう、リン。私にはあなた達がいれば、十分よ。」
そう言って微笑むルナ様は、女神と呼ぶにはあまりに悲痛な顔で、消えてしまいそうだった。
美しくなければ嫌われる、優秀でなければ嫌われる、礼儀作法が出来なければ嫌われる、優しくなければ嫌われる、、そうやってだんだんと縛りが増えていって、、
ルナ様が「完璧」というものに近づくにつれて、奥様はルナ様を煙たがり、レン様も劣等感から離れていってしまった。
ルナ様は元々お体が丈夫ではない上に、人に頼れなくなってしまったから、一人でどこまでも突っ走ってしまう。
たとえ想い人の心が離れていることに気づいていたとしても、今更昔のように戻ることができないのだ。
「ルナ様……どうかご無事で……。」
あの時咄嗟に逃がしてくれたルナ様。きっと独りで奥様といるのは辛いだろうに。
いつからか私達使用人にでさえ、何も頼らなくなっていたルナ様。
「これくらい一人で大丈夫よ。」
そう言って、奥様がサボって丸投げしている書類の仕事も、全て全て一人でなさって、その癖、私たちには早く休みなさいなどと言う。
頼って欲しいのに、辛い時は辛いって言って欲しいのに。彼女は自分でそれを言うことが許せないのだろう。
なんて、美しくて儚くて、可哀想な人なんだろうと、そう思った。
多分旦那様は執事長と婚約破棄のことについて話し合っているはずだから、まだ屋敷にいるだろう。
奥様とルナ様の関係は、旦那様は知っているのだろうか。
いや、多分分かっていない。
旦那様は仕事の事しか興味が無い。
ルナ様が小さな頃も、お世話は乳母に一任していた。
元々聡明だったルナ様は、自立なさるのも早かった。優しくて可愛くて、だけれど、いつもはツンツンしている。知らない人には警戒するけれど、気を許した人にはとことん甘える。
まるで猫のような人だった。
私たちはそんなルナ様が、可愛くて仕方なくて、このまま健やかに育つようにと決意したものだ。
……ルナ様はレン様のために、随分と変わられた。
ある日のパーティでレン様とお会いになってからだった。いわゆる一目惚れだったらしい。
それからのルナ様は、いつでも微笑みを浮かべて、物腰柔らかく、だれに対しても平等に優しく接するようになった。
それまでの、少しつんつんとしていて、猫のような可愛らしさがあるルナ様とはあまりにも違って、とても困惑した。
でも好きな人の為にと頑張っている健気なルナ様を見ていると、本当に可愛らしくて、この恋が上手くいきますようにと応援した。
そしてルナ様が変わり始めてから程なくして、ルナ様は「月の妖精」から「月の女神」と呼ばれるようになった。
月の女神――たしかにその名の通り、ルナ様は女神のような洗練された美しさで周りを魅力している。
けれども、ルナ様は無理をしすぎているような気がした。
もう十分綺麗ですよ、レン様も自慢に思っていらっしゃいます、と言ったって、私はまだまだ未熟だからと、笑って誤魔化していた。
レン様に釣り合う令嬢になろうと沢山の努力をなさり、そのあまりにストイックすぎる生活に、私達使用人は心配で仕方がなかった。
病的とも言える完璧主義は、いつか彼女自身を壊してしまうのに。
完璧でなければ死んだ方がマシだと、奥様から嫌われ始めるようになってから、そう考えるようになっていってしまった。
「どうしてお母様に嫌われるのか分からないの。
街の子も貴族の子も、いつ見ても両親から愛されているのに。
どうして私は愛されていないの。
私が、私が何か劣っているところがあるのかしら。」
一度だけ、小さな声でそう呟いていたルナ様。
窓の外の湖を見ながら、涙を静かに流して、苦しそうに顔を歪めていた。
見ていられなくて、ルナ様の元に駆け寄って、その小さな手を握った。
「ルナ様が劣っているはずありません。使用人みんな、ルナ様の事が大好きで大切なんですよ。」
ゆらゆらゆらゆら。瞳が揺れて、また涙をこぼした。
きっと私の言葉は届いていない。ルナ様が求めている返答じゃないのは分かっていた。
それでも、
「そうね。ありがとう、リン。私にはあなた達がいれば、十分よ。」
そう言って微笑むルナ様は、女神と呼ぶにはあまりに悲痛な顔で、消えてしまいそうだった。
美しくなければ嫌われる、優秀でなければ嫌われる、礼儀作法が出来なければ嫌われる、優しくなければ嫌われる、、そうやってだんだんと縛りが増えていって、、
ルナ様が「完璧」というものに近づくにつれて、奥様はルナ様を煙たがり、レン様も劣等感から離れていってしまった。
ルナ様は元々お体が丈夫ではない上に、人に頼れなくなってしまったから、一人でどこまでも突っ走ってしまう。
たとえ想い人の心が離れていることに気づいていたとしても、今更昔のように戻ることができないのだ。
「ルナ様……どうかご無事で……。」
あの時咄嗟に逃がしてくれたルナ様。きっと独りで奥様といるのは辛いだろうに。
いつからか私達使用人にでさえ、何も頼らなくなっていたルナ様。
「これくらい一人で大丈夫よ。」
そう言って、奥様がサボって丸投げしている書類の仕事も、全て全て一人でなさって、その癖、私たちには早く休みなさいなどと言う。
頼って欲しいのに、辛い時は辛いって言って欲しいのに。彼女は自分でそれを言うことが許せないのだろう。
なんて、美しくて儚くて、可哀想な人なんだろうと、そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる