それでも貴方を愛してる

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リンside

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ルナ様がフラシー奥様に連れていかれてしまった後、私は旦那様の所へ走っていた。

多分旦那様は執事長と婚約破棄のことについて話し合っているはずだから、まだ屋敷にいるだろう。
奥様とルナ様の関係は、旦那様は知っているのだろうか。
いや、多分分かっていない。
旦那様は仕事の事しか興味が無い。
ルナ様が小さな頃も、お世話は乳母に一任していた。
元々聡明だったルナ様は、自立なさるのも早かった。優しくて可愛くて、だけれど、いつもはツンツンしている。知らない人には警戒するけれど、気を許した人にはとことん甘える。
まるで猫のような人だった。
私たちはそんなルナ様が、可愛くて仕方なくて、このまま健やかに育つようにと決意したものだ。



……ルナ様はレン様のために、随分と変わられた。
ある日のパーティでレン様とお会いになってからだった。いわゆる一目惚れだったらしい。

それからのルナ様は、いつでも微笑みを浮かべて、物腰柔らかく、だれに対しても平等に優しく接するようになった。
それまでの、少しつんつんとしていて、猫のような可愛らしさがあるルナ様とはあまりにも違って、とても困惑した。

でも好きな人の為にと頑張っている健気なルナ様を見ていると、本当に可愛らしくて、この恋が上手くいきますようにと応援した。




そしてルナ様が変わり始めてから程なくして、ルナ様は「月の妖精」から「月の女神」と呼ばれるようになった。

月の女神――たしかにその名の通り、ルナ様は女神のような洗練された美しさで周りを魅力している。

けれども、ルナ様は無理をしすぎているような気がした。
もう十分綺麗ですよ、レン様も自慢に思っていらっしゃいます、と言ったって、私はまだまだ未熟だからと、笑って誤魔化していた。
レン様に釣り合う令嬢になろうと沢山の努力をなさり、そのあまりにストイックすぎる生活に、私達使用人は心配で仕方がなかった。

病的とも言える完璧主義は、いつか彼女自身を壊してしまうのに。
完璧でなければ死んだ方がマシだと、奥様から嫌われ始めるようになってから、そう考えるようになっていってしまった。

「どうしてお母様に嫌われるのか分からないの。
街の子も貴族の子も、いつ見ても両親から愛されているのに。
どうして私は愛されていないの。
私が、私が何か劣っているところがあるのかしら。」


一度だけ、小さな声でそう呟いていたルナ様。
窓の外の湖を見ながら、涙を静かに流して、苦しそうに顔を歪めていた。

見ていられなくて、ルナ様の元に駆け寄って、その小さな手を握った。

「ルナ様が劣っているはずありません。使用人みんな、ルナ様の事が大好きで大切なんですよ。」

ゆらゆらゆらゆら。瞳が揺れて、また涙をこぼした。
きっと私の言葉は届いていない。ルナ様が求めている返答じゃないのは分かっていた。

それでも、

「そうね。ありがとう、リン。私にはあなた達がいれば、十分よ。」

そう言って微笑むルナ様は、女神と呼ぶにはあまりに悲痛な顔で、消えてしまいそうだった。



美しくなければ嫌われる、優秀でなければ嫌われる、礼儀作法が出来なければ嫌われる、優しくなければ嫌われる、、そうやってだんだんと縛りが増えていって、、

ルナ様が「完璧」というものに近づくにつれて、奥様はルナ様を煙たがり、レン様も劣等感から離れていってしまった。

ルナ様は元々お体が丈夫ではない上に、人に頼れなくなってしまったから、一人でどこまでも突っ走ってしまう。
たとえ想い人の心が離れていることに気づいていたとしても、今更昔のように戻ることができないのだ。



「ルナ様……どうかご無事で……。」

あの時咄嗟に逃がしてくれたルナ様。きっと独りで奥様といるのは辛いだろうに。

いつからか私達使用人にでさえ、何も頼らなくなっていたルナ様。
「これくらい一人で大丈夫よ。」
そう言って、奥様がサボって丸投げしている書類の仕事も、全て全て一人でなさって、その癖、私たちには早く休みなさいなどと言う。

頼って欲しいのに、辛い時は辛いって言って欲しいのに。彼女は自分でそれを言うことが許せないのだろう。

なんて、美しくて儚くて、可哀想な人なんだろうと、そう思った。


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