それでも貴方を愛してる

文字の大きさ
7 / 11

しおりを挟む
「ルナ、私にはね、娘がいるのよ。」

何を言われるのかと身構えていた中、唐突にそう言った母。

「……はあ。」
思わずとぼけた声が漏れた。

―――娘がいる??そんなの当たり前じゃない。
お母様の娘は私一人しかいない。だから私のことでしょう?

そう分かりきっているのに、それなのに、その続きの言葉が何となく分かってしまって、だけどそんなはずないと心の中で否定した。


嫌だ、嫌だ、聞きたくない、言わないで。
もし聞いてしまったら、今までの日々が、努力が、全て消えてしまう、そんな気がする。

お母様は、そんな私をじっと見つめて、その紅い唇を愉快そうに歪めた。
そして、ねっとりとした声色でゆっくりと、私に言い聞かせるように話し始めた。

「娘っていうのわねぇ、ルナとは別の、もう一人の娘のことよぉ。あなたは私とは血が繋がっていないわ。あなたの母親はねぇ、とっくの昔に死んでいるのよ。あなたが小さな子供の頃にねぇ。」



…………カチャリ。
お母様がティーカップを置く音だけが、部屋の中に響き渡る。
私はその間、何も答えられずにいた。

……母親?本当の?……私とお母様は他人?


思い出せ思い出せ。そんなはずないって、証明しなくちゃ。



ゆっくりと記憶を引っ張り出していく。
小さな頃の、幸せだった時の記憶。
シフォンケーキを焼いてくれたお母様。誕生日プレゼントにと、ブローチをくれたお母様。
どのお母様の表情も穏やかで、優しく微笑んでいる。

やっぱり何度思い返しても、あの時のお母様は、目の前にいるこの人だ。今はあんなに優しく微笑んではくれないけれど、私が実の母親の顔を間違うはずがない。

「何かの間違いではないでしょうか。私にはお母様以外、母と呼べる人は思い出せません。」

そう自信を持って言ったのに、返ってきたのは、哀れみとも嘲りとも言える言葉だった。

「ああぁ、なんて可哀想なルナ。実の母親を亡くしたショックで、本当の母親が私だと思い込んでいるのねぇ。
分かっているのかしら。
私はね、あなたを撫でたり、あなたに優しく微笑みかけたりしたことは、1度たりともないわ。」

嘘だとは思えないほどのハッキリとした口調に、思わずたじろぐ。


でも信じることはできない。
だってメイドのリンだって、他の使用人たちだって、私とお母様は実の母娘って言っていたから。

そんな私の心を読んだように、母はまた笑って言った。

「あのメイドの子達が知らないのも当たり前よ。このことは私とウィルしか知らないわ。……あぁそれと、私の実の娘しかね。」


もし嘘だとしても、この人はこんな嘘をつくだろうか。
この人にとって大切なのはお金と権利と美しさ。
この屋敷にいれば、そのどれもが手に入る。
だから、この人が自分からそれを手放すような真似、するはずがない。

私の母じゃないなんて嘘、つくはずがない。


「……本当なんですか。あなたと血の繋がった娘がいるということ。」

動揺を出さないつもりだったのに、喉から絞り出した声は、あまりにも弱々しく、震えていた。
この人の言葉を信じたくないという思いと、もしかしたら、もしかしたら本当なのかもしれないという気持ちがせめぎ合って、ぐるぐると頭の中を回っている。


「フフ、本当も何も、あなた、もう私の娘に会っているじゃない。」

「……は?」

一体どこで?いつ?

「あら、、思い出せない?まあ、あなたにとっては思い出したくもないことかもしれないわねぇ。

でもね、やっと、やっと、今日私の娘が貴族の仲間入りを果たしたのよ。だからね、私にとっては、今日はとっても嬉しい日なの。だって、ずっと私の願いだったもの。大好きな娘をお金持ちと結婚させて、幸せにさせなくちゃってね。

その私の願い、ついさっき、あなたが叶えてくれたわねぇ。 」

本当にありがとうねぇ。



そう言って笑った顔が、あの時の「草花」と重なった。




………………ああ、そう。そういうことだったのね。
私はこの人の掌で、ずっとずっと気づかないまま、踊らされていただけだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

前世の記憶を思い出したら、なんだか冷静になってあれだけ愛していた婚約者がどうでもよくなりました

下菊みこと
恋愛
シュゼットは自分なりの幸せを見つける。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...