それでも貴方を愛してる

文字の大きさ
8 / 11

冷えたアップルティー

しおりを挟む


「どぉ?思い出したぁ?あなたと違って、とっても可愛かったでしょう?私の娘、サラは。」

そう言って、あはははははと心底嬉しそうな声で笑いだす義母。

体が冷えていく。指先が冷たい。
今にも倒れてしまいそうだ。

ああ、もしまた倒れたら、またリンに、ちゃんと体を休ませないからですよって叱られちゃうわね。




「あなたの母親と私が似てるんでしょう?それもそのはずよ。だって、、私とあなたの母親は姉妹だもの。」



、、、、、、しまい、、姉妹??

理解するまで数秒かかった。



「姉妹……私の、本当のお母様と?」

「ええ、そうよ。知らなかったでしょう?あなたが勘違いするほど顔が似てるのは双子だからよ。
ああ全く、、本当、忌々しいわ。」

さっきまでの楽しそうな表情をなくして、憎々しげにそう吐き捨てる義母。

私の母とこの人が姉妹、、??簡単には信じられない。
だって、そうでしょう?まるで良くできた物語みたい。

でも、そっか、、。私を、あんなに恨みのこもったどろどろとした瞳で見ていたのは、私を通して自分の妹を見ていたからだったのね。
忌々しいなんて言うほど、嫌っていたんだわ。


義母……いや、フラシー様は、反応のない私を一瞥してから、とっくに冷えているはずのアップルティーを一口飲んだ。

あ、そういえば、私この部屋に来て何も食べてない。紅茶くらいは、温かいうちに飲みたかったな。
もちろん、安全を確かめた上でだけど。


この部屋も、あんなに林檎の香りで溢れていたのに、かなり薄れてしまって、今では香水の匂いに負けてしまっている。少し残念。

カチャリ、とカップを置く音が聞こえたので、顔を上げると、ひとまず落ち着いたらしいフラシー様が、静かにこちらを見ていた。

「何か……?」

じっと見つめられると居心地が悪い。
私の顔が嫌いなはずなのに、そんなに見つめて大丈夫なんですかと言いたくなる。

「いえ、ただ、ほんとにあなた、見れば見るほどウィルとあの子にそっくりね。」

「はあ、、、。そうなんですか、、。」

悪口なのか、何なのか、よく分からない言葉を言われて反応に困っていると、そんな私を見つめながら、彼女は抑揚のない声で話し始めた。




「あなたの母親はね、20歳の時、街中でウィル――あなたの父親に見初められて、たった1ヶ月で結婚したのよ。
でもね、実家であなたを産んだ後、そのまま体を壊して、実際に生きられたのは、それからほんの数年。結局最期までこの屋敷には来れなかったのよ。せっかく結婚できたのに、ほんと、哀れよねえ。」

私を産んで死んでいった、そんな母のことを、彼女は全く哀れだなんて思っていないような口調で、面倒くさそうに話した。

まるで他人の事みたいに話すのね。

でも、ああ、そっか。この人にとっては私も他人だった。

娘でもない、ただの妹の子供、そんな私を愛すことに何のメリットもないし義務もない。

二人の間で何があったのかは知らないけれど、彼女は私の母のことを憎んでいるみたいだし、その子供の私のことを愛するなんて到底無理な話よね。


でもそれでも、やっぱりどこかで、母だったこの人に認めてもらいたいって思っていた。
その為に努力してきた。もちろんレン様の為にも。
全部全部、愛されるためだけに。
血反吐を吐きたくなるような日もあった。
でも、止めずにやり続けた。きっと、いつか、報われるって信じていたからできた。

でも、傲慢すぎたのかしら。妄信的に、報われることだけを願ってきたから。

今になって母はいないなんて、しかも、母の姉が、私が母だと思っていた人だったなんて、神様が与えた罰かしら。

目の前にいるこの人は、私の母でもないし、私を愛している訳でもない。むしろ憎んでさえいる。それこそ、自分の実の娘に婚約者を奪わせるほどに。
そして恋焦がれてきたレン様にも愛想を尽かされて、婚約破棄された。

それで、今の私に残っているのは何?
私は一体何の為に、私を変えてきたの?

ふふ、と乾いた笑いが出る。


「馬鹿みたい。」

零れた一言は、初めてこの人の目の前で出した私の本音だった。

その言葉に一瞬、彼女は驚いたように目を見開いて私を見つめたのが分かった。

「……申し訳ありません。今のは聞かなかったことに……。リンを待たせているので、これで失礼します。」
そう言うと、フラシー様は何か言いたげに口を開いたけれど、気づいていない振りをしてドアを閉めた。



ヒューヒューと喉から音が鳴っている。

あの後、気づいたら駆け出していた。呼吸が乱れている。酸素が上手く吸えなくて苦しい。どうやっていつも呼吸してたのか、それさえも分からなくなっていた。

最後のあの人の顔……きっと、あの人は私の顔に驚いたんだろう。何とも情けない、酷い顔をしていたはずだ。


「あ、あれ、、おかしいわね、、。」
切っていたはずの涙腺が緩んできた。目の前がゆらゆら揺れて、雫が一粒、零れた。
一粒零れてしまえば、あとはもう止める術なんて知らなくて、ぼろぼろと溢れていく。


「あなた、自分が本当に愛して貰えるだなんて思っていたの?」
頭の中でもう1人の自分が、私にそう問いかける。
思っていたわよ。ずっとずっとそう信じてきた。

だって、確かに愛して貰えた思い出があったから。
レン様と二人でクッキーを食べて、湖を眺めていた時もあったから。
私は私のままでいいと、そう言ってくれたから。
幸せな時間が確かにあったから、愛してくれるって思ってしまった。
最後に無くしてしまうなんて、思いもしなかった。



すれ違う顔見知りのメイド達が、ぎょっとした顔で見て、必死に呼び止めてくれていたけれど、でも、気にかけている余裕なんて少しもなかった。

とにかく今は、あの部屋から離れたかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

前世の記憶を思い出したら、なんだか冷静になってあれだけ愛していた婚約者がどうでもよくなりました

下菊みこと
恋愛
シュゼットは自分なりの幸せを見つける。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...