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冷えたアップルティー
しおりを挟む「どぉ?思い出したぁ?あなたと違って、とっても可愛かったでしょう?私の娘、サラは。」
そう言って、あはははははと心底嬉しそうな声で笑いだす義母。
体が冷えていく。指先が冷たい。
今にも倒れてしまいそうだ。
ああ、もしまた倒れたら、またリンに、ちゃんと体を休ませないからですよって叱られちゃうわね。
「あなたの母親と私が似てるんでしょう?それもそのはずよ。だって、、私とあなたの母親は姉妹だもの。」
、、、、、、しまい、、姉妹??
理解するまで数秒かかった。
「姉妹……私の、本当のお母様と?」
「ええ、そうよ。知らなかったでしょう?あなたが勘違いするほど顔が似てるのは双子だからよ。
ああ全く、、本当、忌々しいわ。」
さっきまでの楽しそうな表情をなくして、憎々しげにそう吐き捨てる義母。
私の母とこの人が姉妹、、??簡単には信じられない。
だって、そうでしょう?まるで良くできた物語みたい。
でも、そっか、、。私を、あんなに恨みのこもったどろどろとした瞳で見ていたのは、私を通して自分の妹を見ていたからだったのね。
忌々しいなんて言うほど、嫌っていたんだわ。
義母……いや、フラシー様は、反応のない私を一瞥してから、とっくに冷えているはずのアップルティーを一口飲んだ。
あ、そういえば、私この部屋に来て何も食べてない。紅茶くらいは、温かいうちに飲みたかったな。
もちろん、安全を確かめた上でだけど。
この部屋も、あんなに林檎の香りで溢れていたのに、かなり薄れてしまって、今では香水の匂いに負けてしまっている。少し残念。
カチャリ、とカップを置く音が聞こえたので、顔を上げると、ひとまず落ち着いたらしいフラシー様が、静かにこちらを見ていた。
「何か……?」
じっと見つめられると居心地が悪い。
私の顔が嫌いなはずなのに、そんなに見つめて大丈夫なんですかと言いたくなる。
「いえ、ただ、ほんとにあなた、見れば見るほどウィルとあの子にそっくりね。」
「はあ、、、。そうなんですか、、。」
悪口なのか、何なのか、よく分からない言葉を言われて反応に困っていると、そんな私を見つめながら、彼女は抑揚のない声で話し始めた。
「あなたの母親はね、20歳の時、街中でウィル――あなたの父親に見初められて、たった1ヶ月で結婚したのよ。
でもね、実家であなたを産んだ後、そのまま体を壊して、実際に生きられたのは、それからほんの数年。結局最期までこの屋敷には来れなかったのよ。せっかく結婚できたのに、ほんと、哀れよねえ。」
私を産んで死んでいった、そんな母のことを、彼女は全く哀れだなんて思っていないような口調で、面倒くさそうに話した。
まるで他人の事みたいに話すのね。
でも、ああ、そっか。この人にとっては私も他人だった。
娘でもない、ただの妹の子供、そんな私を愛すことに何のメリットもないし義務もない。
二人の間で何があったのかは知らないけれど、彼女は私の母のことを憎んでいるみたいだし、その子供の私のことを愛するなんて到底無理な話よね。
でもそれでも、やっぱりどこかで、母だったこの人に認めてもらいたいって思っていた。
その為に努力してきた。もちろんレン様の為にも。
全部全部、愛されるためだけに。
血反吐を吐きたくなるような日もあった。
でも、止めずにやり続けた。きっと、いつか、報われるって信じていたからできた。
でも、傲慢すぎたのかしら。妄信的に、報われることだけを願ってきたから。
今になって母はいないなんて、しかも、母の姉が、私が母だと思っていた人だったなんて、神様が与えた罰かしら。
目の前にいるこの人は、私の母でもないし、私を愛している訳でもない。むしろ憎んでさえいる。それこそ、自分の実の娘に婚約者を奪わせるほどに。
そして恋焦がれてきたレン様にも愛想を尽かされて、婚約破棄された。
それで、今の私に残っているのは何?
私は一体何の為に、私を変えてきたの?
ふふ、と乾いた笑いが出る。
「馬鹿みたい。」
零れた一言は、初めてこの人の目の前で出した私の本音だった。
その言葉に一瞬、彼女は驚いたように目を見開いて私を見つめたのが分かった。
「……申し訳ありません。今のは聞かなかったことに……。リンを待たせているので、これで失礼します。」
そう言うと、フラシー様は何か言いたげに口を開いたけれど、気づいていない振りをしてドアを閉めた。
ヒューヒューと喉から音が鳴っている。
あの後、気づいたら駆け出していた。呼吸が乱れている。酸素が上手く吸えなくて苦しい。どうやっていつも呼吸してたのか、それさえも分からなくなっていた。
最後のあの人の顔……きっと、あの人は私の顔に驚いたんだろう。何とも情けない、酷い顔をしていたはずだ。
「あ、あれ、、おかしいわね、、。」
切っていたはずの涙腺が緩んできた。目の前がゆらゆら揺れて、雫が一粒、零れた。
一粒零れてしまえば、あとはもう止める術なんて知らなくて、ぼろぼろと溢れていく。
「あなた、自分が本当に愛して貰えるだなんて思っていたの?」
頭の中でもう1人の自分が、私にそう問いかける。
思っていたわよ。ずっとずっとそう信じてきた。
だって、確かに愛して貰えた思い出があったから。
レン様と二人でクッキーを食べて、湖を眺めていた時もあったから。
私は私のままでいいと、そう言ってくれたから。
幸せな時間が確かにあったから、愛してくれるって思ってしまった。
最後に無くしてしまうなんて、思いもしなかった。
すれ違う顔見知りのメイド達が、ぎょっとした顔で見て、必死に呼び止めてくれていたけれど、でも、気にかけている余裕なんて少しもなかった。
とにかく今は、あの部屋から離れたかった。
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