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フラシーside
しおりを挟む「お姉ちゃん、私、今日とても素敵な人に会ったの。」
そう言って頬を染め、はにかむように笑った妹。
小さな頃から病弱で使用人の助けなしではまともに出歩くことすら出来ない、か弱い妹。
でも誰にでも愛想が良くて、気立ても良くて、頭も良かったから、みんなに好かれていた。
「あ、姉の方だ。」
数え切れない程言われ続けた言葉。
貴族のパーティーに出席すると、双子のこの顔のせいか、私を妹だと勘違いして寄ってくる馬鹿が大勢いた。でもそれも最初だけ。
姉の私だと気づくと、みんな残念そうな顔を隠しもしないで去っていく。
両親でさえ、あの子がもっと健康だったら、あの子がもっと元気に生まれていればなんてタラレバ、しょっちゅう話していた。
私だって頑張った。勉強も作法もダンスも、誰よりも完璧に、誰よりも美しく、みんなに認めてもらうために頑張ってきた。
それなのに、結局最後に選ばれるのは私じゃない。
今日だってそう。
妹が20歳になったお祝いにと、両親に連れられて行った街でプロポーズされてきたのだ。
妹が周りを魅了するのは分かっていたけれど、突然街中でプロポーズされたなんて言われたから、流石に驚いた。
「とってもかっこいい人だったの。銀の髪に紫の瞳で、確か名前は、、ウィルフレッドって言っていたわ。」
ウィルフレッド?まさか、ウィルフレッド・アーデン??
どんなに求婚されても靡かないと言われていたあの人が?
国の中でも一二を争う程の権力と財を持っているアーデン家。
その長男のウィルフレッド・アーデン。
容姿端麗、頭脳明晰、おまけにアーデン家の跡取りと聞いたら、結婚を申し込まない令嬢はいなかった。
それなのに、どうして、よりによって、妹なの。
「私、いきなり一目惚れされたって言われて、それで私もその人のこと好きになっちゃって、、」
顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに目を伏せる妹は、恋する乙女そのものだった。
初恋だったのだろう。初恋は実らないと言うけれど、例外もいるのね。
もじもじと目の前で何か言いたそうに視線を送ってくる妹。そして、なにか意を決したように切り出してきた。
「あのねっ!!!お姉ちゃんは恋愛経験豊富って聞いたの。
その、お姉ちゃん凄い綺麗だし、当たり前だよね……。
だから、ね、、あの、あ、アドバイスが欲しいの!わ、私、あの時勢いで婚約しちゃって……。でも、何か今更不安になってきちゃって、、。」
そう言って、また俯く妹。
何を今更と思ったけど、口には出さず、その代わり私は、諭すように優しく言った。
「不安がることないわ。そのウィルフレッド様は、そのままのあなたを好きになったんでしょう?
だからあなたは、何も心配しないで、そのままでいればいいのよ。」
我ながら反吐が出そうな優しい言葉。
そんなこと思っているわけないじゃない。
私にはそんなこと、誰も言ってくれなかったのに。
でもあなたには、幾らでもいるでしょう?
優しくしてくれる人が、愛してくれる人がいるんでしょう?
恋愛経験なんて一つもない。きっと使用人達が私への皮肉を込めて妹に言ったのだろう。そして純粋無垢な妹は何も疑わずに、私にアドバイスを求めてきた。
ほんと、笑えない。
けれども、純粋な妹は、私の言葉に目をうるうると潤ませ、今にも泣き出しそうな顔で笑った。
「お姉ちゃんっ!!!そうね、きっとお姉ちゃんがそう言うんだから間違いないわ!
私、自信を持たなきゃよね!やっぱりお姉ちゃんに聞いて正解だったわ!私の事1番分かってくれているのはお姉ちゃんよ!」
お姉ちゃん大好き!
そう叫んで、ぎゅっと私を抱きしめた。
ひくり、と口の端が引き攣る。
込み上げる不快感と嫌悪感。
ああ、私もみんなのように貴方をただ愛すことができたなら、幸せだったのにね。
口から出かかった、タブーの言葉達を呑み込んで私は妹の背中に腕を回す。
「私も、貴方が大好きよ。」
そう言って笑った。
それから何週間か後に、妹は結婚式を挙げた。
それはそれは盛大な式で、たくさんの人が祝福して、二人の結婚を喜んだ。
私は隅の方でワインをちびちび飲んでいた。
白いウェディングドレスを身にまとい、幸せそうな表情で笑う妹。
私とは正反対。
いつからか、私は派手な服を好んで着るようになった。派手なメイクに際どいドレス。
寄ってくるのは体目当ての男だけ。
妹のように、本気で愛してくれて私の所へ来る人はいない。
でもそれで良かった。それで気が紛れたから。
両親は激怒して、今すぐその売女のような格好を止めなさいと言ったけれど、止めるつもりなんてさらさらなかった。
誰も認めてくれないなら、もう今までのような努力も関係ない。
やったって意味が無いことをする虚しさは、もう十分知った。
だから、もうどうでもよかった。
涙を流して喜んでいる父と母。それを見て、貰い泣きをしている妹。泣いている妹の肩を抱いて、支えているウィルフレッド様。
下らないわね。馬鹿みたい。
まだ盛りあがっている会場に背を向けて、1人屋敷へと帰った。
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