運命の乗船

綿天モグ

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第77話 ケンの出発進行ー!

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「しゅっぱーつ!」
「ケン、乗り出したら落ちますっ!」

 僕の願いが叶ってアサは僕たちと船旅を続けてくれることになった。生まれて初めて「弟」であり「親友」と思える人に出会えたから、ここでバイバイは悲しすぎると思っていたんだ。
 
 僕たちを乗せた船は数日間寄港していた土地から出港した。天気は晴天、ちょっと風があるけど、このくらいならそれほど揺れはひどくない。船で育った僕にとってはこのくらいなんてことないんだ。

 陸なんてあと何か月も見れないんだから、最後まで見ていたくて甲板のてすりから身を乗り出していたのに、ショーンに背中を掴まれ引き戻されてしまった。バランスを崩して後ろのめりに倒れると自分の腕より何倍も頑丈そうな腕と胸に身体が支えられる。


「あれだけ気を付けてとお願いしているのに」
「このくらい平気だって!」
「風が強いので吹き飛ばされてしまったら!」
「こんなの強いほうに入らないでしょ。そ、れ、よ、り!アサたちは?」
「ニールは当直中で忙しいと思いますよ。アサはお部屋でお休みかと」
「え!?休んでんの?!なんで?!」
「お疲れなんじゃないですか?」
「今出発したばかりだよ!しかも起きたばっかりだよ!昨日だって夕飯食べてすぐ寝たのに?!」
「えー…どう説明していいのか分からないのですが…」
「なに!?はっきり言ってよ!」
「…アサはニールと食後の運動をされて疲れているようで…」

 ショーンは何とも言えない表情を浮かべた。
 ふわふわと流れてくるそよ風に海水独特のにおいが混じっている。

「運動?!そっか、アサは運動が好きなのか…あああ!僕とも運動してくれるかな?どんな運動なのか聞いた?縄跳びなら部屋にあったはず!」
「ケン、お願いですから落ち着いてください」
「やだ!僕だってアサと運動したい!」
「ニールとじゃないとできない運動です!」

 少し声を上げたショーンの頬は赤みを帯びている。大声で言われたって何の話をしているのか分からない。運動って言うから、僕だって混ぜてもらおうと思ったのに。船の生活を続けてると体がなまっちゃうからね。

「そんなに運動したいなら私と、にしてください」
「えー。でも絶対アサとやったほうが楽しいしー」
「アサとはできません」
「何それ!どんな運動?」
「今は説明できません!いずれ教えますので、今はとにかく船内に戻ってきてください」
「えーーーつまんないの」

 手首を軽くつかまれずんずんと船内へと進んでいくショーンを追った。背の高い彼の短く整えられた髪は仕事用に後ろにまとめられていて動きを見せない。制服を纏った背中を見つめながら歩いていくと僕たちは食堂に着いた。

 休憩中の船員が所々にいるが、出発したばかりの船内は働いている人間が多く、夕食時に比べればこの食堂も静かなほうだった。

「アサのことなのですが」

 目の前に腰を掛けたショーンが心配そうに僕を見下ろした。

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