Lost Fiction

湯月@重陽

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女王殺し

楽園の王

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 灯火も篝火も夜の闇の中で必要なもので、昼の光のうちでは無用のもの。
 わざわざ夜にした空間の中、緑吐き出す人の顔や多頭の生き物が不気味に笑う。

 日々の習い、新しい木を焚べる。
 手早く火をかき回せば、大きく炎が踊った。

 不意に、一筋の煙が 床を這う

 地を這う煙を避ければ、アンクレットがチリリと鳴った。
 一歩後退れば伸び、もう一歩後退れば更に伸びる。
 一歩。一歩。
 長く伸びた灰色の煙は、遂に王の足首を掴み損ねて縮んで消えた。

「"凶"」

 王は、目元険しく呟いた。





 其の国は永の繁栄の中にあった。
 周辺国が次々と宗主を男へ変える中で、変わらず女の宗主を掲げ続ける国だ。
 女の王は国を富ませ、守るが上手い。今代の王はこと、国を富ませるが上手い。
 国を拡げようと陣取りの戦に血熱を上げる男の王が増えるに従って、其の様は綺羅星のように篝火のように輝いた。
 何せ争事あらそいごとはどんどん物が減っていく。雪崩れるほどの物資は全く魅力的に過ぎて、アプローチも次第に激しくなっていった。

「欲しい欲しいと云われてもな」

 開かれたふみに踊る文字を追って、王はごちた。
 言葉並びばかりが流麗で。しかして内容は殆ど略奪者の其れ。提携、同盟、結婚の申し入れ。共栄の願いは見えず、如何に使ってやろうと云う思惑だけが酷く臭う。

 書状をひらり翻し近侍に預け、王は窓辺に寄った。

 風が運ぶ民草の笑い声。鮮やかに翻る七色の錦。大市は盛況で賑やかに。まったき豊かさは、さざめく幸いの色をしていた。
 彼女の守るべきもの。彼女の成果。


「無頼の輩にやるには、些か惜しい」





 眼の前、石造りの床に額を擦り付ける男は先程から微動だにしない。
 此の部屋に入ってきた時、福福とした顔に浮かんでいた笑みは、今では大粒の脂汗となって流れ落ちていく。
 先代先々代と続いた約定を打ち切ると伝えられた男のあり方としてはよくある話か。
 しかし、謁見人は此の男ばかりではない。いつまでも跪かれたままではいられない。
 手を振って、近侍に客人の退出を促す。

 殆どは恙無く、偶に少しばかりの遣り取りを。

 …突然に求婚されたは驚いた。

 何故、俺を愛さないのだと、初対面の男に云われた場合、「何故だろうな?」以外に返す言葉はあるのだろうか?
 人違いです?_逆上されるは面倒だ。
 初対面なので?_逆上されるは面倒だ。

 尚も言い募る男に、

 寄越せとのたまう男に、「ならば跪け」と笑った。

 私の愛が欲しいのならば。
「まずは私に跪けよ。お前。
 お前が私を愛するならば、_同じだけを返してやろう」

 直ぐに男の弟らしき人影が慌てて駆け寄り、男を引っ張っていったので、日の終わりには其の事は忘れてしまった。
 たまさかはある騒動を、一々覚えていられるほど暇でもない。


 「愛しき我が民よ。愛しき我が子達よ。今日と云う日を共に祝える事、心から嬉しく思う」

 歓声を上げる民。飾り付けられた道道に。
 青い空に飛ぶ白い鳥。

 世界は平穏だった。


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