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王の眼
金の卵を生む鵞鳥
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母は美しいが激しやすい性格で、城はいつもピリついた雰囲気で、とても居心地が悪かった。
母は、随分昔に死んだ母の妹の萎び果てた首に向かって、飽きもせずに、唾を吐きかけては罵り倒すような人だった。
9人の姉妹たち。父親は皆違い、お互いに無関心で。
否。
お互いに関り合う余裕も《《な》くって、皆、顔が蒼白かった。
私達は外見ばかりが美しく中身ときたらボロボロで、そして、私達を持て囃す人の眼も人を見る其れではなかった。
皆、私達を"人"と見ていない。自分達に都合の良い、自分の不足を満たしてくれる玩具。幾つもある。私達は、
魅力的だ 魅力的だと
貪るだけの馬鹿どもが 嗤う。
其れが、同じ城の同じ階の内に居るのだから やっていられない。
私達は贄で星で
身を守る術が必要だった。
考え過ぎと笑う人を横目に、彼女の安寧のために私の安全を差し出す気には、どうあってもなれなかった。
"こんな事になるなんて思わなかったの"と云う言葉には、時間を遡る力も、毀れたものを直す力もない。
男親は娘の膝枕を求めるような人で
早々に頼るべき選択肢から除外した。
四方八方を警戒し続けて四六時中。
城の中で、 私室の中で 、神経は張り詰める。
一時も休まらず、時には限界に崩折れて。
"獣のように奪ってごらん"
あわや紙一重の処で躱した悪意に、震える声で神の名を祝ぎ。悪意の滴る声で聞える、姉妹の身に起こったという禍事の噂話を耳を塞いで遣り過す。
掴み持ち上げるのが難しいような衣装の重み。其れを支えるには全く力不足の華奢な靴。
与えられるのはそんな物ばかりで、拒否権は不在。
回廊を事も無いように歩きながら、倒れるまいと何時も必死。
※
困らぬ衣食住。人の気配が紛れても、わからぬ程に広い部屋。重いばかりの豪奢の衣装に華奢な靴。食は_
円卓。
正面近く視界の端に見える姉妹は常に増して青褪めている。
隣で細かく震える姉妹の顔が見れない。
鼻先を掠める不穏な臭気。
私の眼の前の皿の上には、過剰なほどに飾り立てられた食事。
_隣には?
見れない
母の気配は隣を見ている。
生贄。
多分、母にとっては私達の誰でも良くて。
手に取ったカテラリー。口元には笑顔を貼り付けて。
食事の美味を大仰に褒めそやす。
直ぐに賛同する姉妹の声が続く。
味のしない、砂を噛むような食事。其れでも飲み下す。
死にたくない 死にたくないの と脳裏で何度も繰り返した。
母にとっては、きっと"誰でも良い"のだから。
いつもいつも断崖の縁の縁にいる心地がしていた。
偶に足先を宙に遊ばせて。特に怖ろしいとも思わずに。
其の漂白の名を、"絶望"と呼ぶとも知らずにいた頃の話。
母は、随分昔に死んだ母の妹の萎び果てた首に向かって、飽きもせずに、唾を吐きかけては罵り倒すような人だった。
9人の姉妹たち。父親は皆違い、お互いに無関心で。
否。
お互いに関り合う余裕も《《な》くって、皆、顔が蒼白かった。
私達は外見ばかりが美しく中身ときたらボロボロで、そして、私達を持て囃す人の眼も人を見る其れではなかった。
皆、私達を"人"と見ていない。自分達に都合の良い、自分の不足を満たしてくれる玩具。幾つもある。私達は、
魅力的だ 魅力的だと
貪るだけの馬鹿どもが 嗤う。
其れが、同じ城の同じ階の内に居るのだから やっていられない。
私達は贄で星で
身を守る術が必要だった。
考え過ぎと笑う人を横目に、彼女の安寧のために私の安全を差し出す気には、どうあってもなれなかった。
"こんな事になるなんて思わなかったの"と云う言葉には、時間を遡る力も、毀れたものを直す力もない。
男親は娘の膝枕を求めるような人で
早々に頼るべき選択肢から除外した。
四方八方を警戒し続けて四六時中。
城の中で、 私室の中で 、神経は張り詰める。
一時も休まらず、時には限界に崩折れて。
"獣のように奪ってごらん"
あわや紙一重の処で躱した悪意に、震える声で神の名を祝ぎ。悪意の滴る声で聞える、姉妹の身に起こったという禍事の噂話を耳を塞いで遣り過す。
掴み持ち上げるのが難しいような衣装の重み。其れを支えるには全く力不足の華奢な靴。
与えられるのはそんな物ばかりで、拒否権は不在。
回廊を事も無いように歩きながら、倒れるまいと何時も必死。
※
困らぬ衣食住。人の気配が紛れても、わからぬ程に広い部屋。重いばかりの豪奢の衣装に華奢な靴。食は_
円卓。
正面近く視界の端に見える姉妹は常に増して青褪めている。
隣で細かく震える姉妹の顔が見れない。
鼻先を掠める不穏な臭気。
私の眼の前の皿の上には、過剰なほどに飾り立てられた食事。
_隣には?
見れない
母の気配は隣を見ている。
生贄。
多分、母にとっては私達の誰でも良くて。
手に取ったカテラリー。口元には笑顔を貼り付けて。
食事の美味を大仰に褒めそやす。
直ぐに賛同する姉妹の声が続く。
味のしない、砂を噛むような食事。其れでも飲み下す。
死にたくない 死にたくないの と脳裏で何度も繰り返した。
母にとっては、きっと"誰でも良い"のだから。
いつもいつも断崖の縁の縁にいる心地がしていた。
偶に足先を宙に遊ばせて。特に怖ろしいとも思わずに。
其の漂白の名を、"絶望"と呼ぶとも知らずにいた頃の話。
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