アルバトロスはどう応えたか

湯月@重陽

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船長室

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頃は夜半過ぎ。場所は幽霊船の船長室。
道中、昔馴染みたちに散々声を掛けられて、ゼオは二度と会うことはないだろうと思っていた相手と相対していた。


半ば詐欺のようなグレーすぎる方法で船を下りた自覚のある身としては、正直なところ身の置き所が悪い。
声変わりの済んでいない少年の頃、幾度も通った船長室である。
飾り細工の吊戸棚、優美な曲線を描くソファーセット。重厚な木の調度で人間らしく整えられた部屋は。灯り一つテーブルの上の皿一つがちぐはぐしている。…この船の中で最も人間染みた、最も人間味のない部屋だった。

「竜の海峡閉鎖ね」
人外の男_この船の船長キャプテンが、くるくると回すグラスに満たされた赤ワインは、ゼオの手土産だ。
付き合えと、テーブルの上にはゼオの分もグラスとナッツを入れた菓子皿がある。
こちらの望みを伝えたところで、返されるのは気の乗らない呟きだ。
人外が人の尺度に沿った報酬を求めるわけもない。
知ってはいたが難解だ。人外の欲しがりそうなものがゼオには分らなかった。

「お前、知ってるだろう」
声が近い。

菓子皿に何時の間にか落ちていた視線を弾かれたように声の方へ流すと、触れられる位置に男の足が見えた。
距離をとるより先に、曲げた指先で引っ掛けるようにして顎を引き上げられる。
眼前に迫る口唇が過去と同じ言葉を紡ぐ。

“対価が必要だ。どうする?”

驚愕に目を見開くこちらの答えを待たず、嚙みつく勢いで唇がふさがれた。



緞帳に囲まれた寝台は男の趣味で、昔も此処で男に抱かれた。
引きずり込まれた寝台で服を引っぺがされ、寝台の男2人はすでに全裸だ。
相手は閨事のイロハをこちらに教え込んだ張本人。性急に高められようが久方ぶりの穴を解されようが問題はない。
無いはずだった。

「おい。待て、待て!」
男のモノが入ってくる。そこまでは良い。良くはないが良い、慣れたことだ。だが待ておかしい。
「何で…前は。もう、ここまで。な…深い、深い!」
記憶にある少年の頃、体に与えられた一番深い場所。その位置に近づいた感覚がするのに、より深く押し入ろうとする気配。
「あー、前は全部は入れてなかったからな」
「は!?」
「前は全部は入れてなかった。だがお前も、もう充分成長しただろ」
背後を陣取る男の口角が吊り上がる。
無理に身を捩って男に噛みついていたゼオの顔から見る間に血の気が引いた。
とっさに身を捩って逃れようとした体を押さえつける。
「この辺か?あの頃お前に突っ込んでた場所は」
耳元に注ぎ込まれる声が怖い。
カタリカタリと震えているのはいったい誰か。
「あ、あ、ひ」
未知の場所まで割り開かれた。かつて侵入を拒んだはずの男に、より深くまで侵される。
根元まで押し込まれ、もっと咥え込めというように、そのまま腰を押し付けられてゆすぶられた。
尻たぶに感じる男の熱が肌に沁みる。男の肌が近づくたびにゼオの中は慄いた。
男もそれに気づいたのか、その日は深い場所ばかり苛められた。男の体温を教え込むように腰を引き寄せ肌に肌を擦り寄せる。
再開された関係の初日はそんな風にして終わった。




数日後、海峡を閉鎖していた竜が姿を見せなくなったと海岸の警備方から連絡が入った。
さらに数日の様子見と、幾つかのダミー船での確認を経て海峡の交通は通常に戻った。




_ズーオとゼオの会話。

船長キャプテンのことだ。船長キャプテンはどの程度、海の生き物に顔が効く?」
「…お前から船長キャプテンの話が出るとはね。俺も詳しくは知らないが、海の大物が船長キャプテンに挨拶に来るっていうのは何度か見たな。クラーケンや魔の海域の人魚たちとかな」




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