魚憑き

湯月@重陽

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一章 淀む池に潜む魚

異変

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 "神嫁"は、栄誉。そう聞かされて育った。
 _では、これは?

 日の落ちた室内の光源は、時代遅れの行燈の光だけ。白色灯に慣れた身には余りにも薄暗かった。
 夜。
 嫁入りとの名目での床入りは、白無垢姿で布団の上待機の徹夜だ。とは言え、流石に此の部屋に缶詰という訳では無かった。

 厠を出て、部屋に戻ろうとした。
 寝室に当てられた部屋からは、昼には庭がよく見えた。部屋に向かう此の廊下も。しかし夜となっては其れも闇に沈んで、所々焚かれた松明周りだけが明るかった。

 ガタンッと音がした。


※※※


 唐突に。

 彼の世界から、世界が消えた。
 急速にクリアになる知覚に硬直する。
 水槽から水が抜けるように、彼の世界から淡色の世界が消えていく。
 _淡色の世界に、温度があったと初めて知った。
 なんと寒い。
 肉体が重く、空間との間を分断する檻のようだ。
 なんて、囚われている。
 こんな孤独な独房に、独りきりは耐えられない。
 でも。
 交わす言葉も、エコーしか届きはしないだろう。此の身体。

 絶望に転落する瞬間。

 瞬きの間に、世界は戻り。淡色の世界に彼は沈んだ。嫌な感じに跳ねる心臓を、そっと宥めて。彼は震える息を吐いた。


※※※


 ひらり何かが視界の隅を横切った様な気がした。

 吊り布。御簾でも几帳でも無いが、役目は同じ様なものだろう。目隠し。  …何を?

 そおっと、手を伸ばした。
 薄布は絹の手触り。
 布地を辿り、端から手を入れる。
 指先。指の甲。科垂しなだれる布の重み。
 掛かる布を押し拓く。
 
 灯りが見えた。
 畳の上の、寝床には影。

 目を凝らし、

 _地獄への細道は、存外、其処らに転がっていた。



※※※


「---、ッ、ッぉヴぇッ」

 レンジから取り出したレバニラ丼。
 蓋を開けた途端に慄いて、トイレに駆け込んだ。便器に顔を突っ込むようにして、喉奥から上がって来るものを吐き出す。

 プルルプルルと、スマホが鳴っている。
 震える手で、通話を押した。

「_はい。野辺です。…直ぐに向かいます」


 
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