22 / 25
2章 市街戦
7話「災厄の魔女」
しおりを挟む
時はまた、少し遡る。
傑がミユと合流し、ゲオルとのバトルを始めたあたり。
「………翼はどこかな?」
『拒絶』の能力を応用した高速移動で、葵は重傷もしくは死んでいる翼を回収するために遮絶内を奔走していた。
少し離れた位置で激突している気配は感じるが、それを無視し(戦っている仲間を信頼している)ひた走る。
「……いた!」
葵はすぐに翼の容態を確認。
「翼、聞こえる?」
「……………」
反応はない。
(心臓を刺されてる。これじゃ……)
翼を抱き起こしながら、そのあまりにも深い致命傷に葵は最悪のパターンを想定した。
しかし
トクントクン
「……ん?……これって」
翼の心臓が脈動している。
ありえない、これだけ深々と抉られて心臓が動くはずは…………
「…!…そっか!能力で動かしてる!」
翼の能力は『振動』
その振動で刺された心臓を無理矢理に動かしているのだ!
葵は救命措置を開始。
まずは動くことによって、溢れてくる心臓からの出血を『拒絶』の能力の応用で逆に出血せずに身体を巡るようにする。傷は治癒魔術で塞ぐ。
(これで何とか意識が戻れば……)
「………あ…おい……さん?」
「!!……喋らなくていい。頷きだけで返して。よく頑張ったね……傷は今塞がったばかりだから、ゆっくり呼吸を心がけて、動いちゃ駄目だよ」
コク。
頷きで返してくる。どうやら峠は越えたらしい。
「それにしても君が敗れるなんて、ジュンも言ってたけど、ナンバーズの上位が来てるんだね?」
コク。
頷く翼は指を1本立てる。
「ナンバーズ1…………ソフィーか……よく生きてたね、いや死んでたのか。後は私に任せて……」
君は休んでなさい。と葵は言う。
しかし、翼は心配そうな顔を向ける。
無理もない。
ソフィーは怪物だ。
自分があれほど手も足も出なかったのだ。
「…心配してるの?……大丈夫だよ」
葵はそっと翼を地面に横たわらせて
「私を殺せるのは、1人しかいないの」
ニコッ
と満面の笑みを向けたのだった。
一方こちらは傑とミユ。
槍の達人ゲオルとの壮絶なバトルが繰り広げられていた。
「らぁあああ!!」
烈火の如く吹き荒れる槍の乱舞を、傑が近接戦闘で受けてたっている。
(視える!……こんなの葵さんとの訓練に比べれば…!!)
突きを剣で受け流し、薙ぎ払いをしゃがんで躱し、完璧に捌いていく。
(…このガキ!やりやがる!!)
ゲオルもことここに至って、傑の近接戦の強さに舌を巻いていた。
ある意味、戦闘面では最強に近い葵との毎日の訓練(毎日ボコボコにされていた)が、傑の特殊な眼だけではなく、基礎戦闘力も短期間で飛躍的に上昇させていた。
特に近い間合いでの戦闘になるほど、眼が活きてくるので、傑自身は気づいていないが、いつの間にか守護者の中でも、葵に次ぐ近接戦闘のスペシャリストになっていた。
「流れ星(スター)!!」
そこへ、中距離からのミユの援護!
「ちっ……!!」
後退せざるをえないゲオルの間合いに……
「なに……!?」
傑が滑り込む。
時間軸をズラすこの技は、使うと一時動けなくなるリスクはあるが、使い続けるうちに徐々に体が慣れてきていて、一瞬での使用なら連発出来るようにはなってきている。
「ハァアアア!!」
胸元を狙った袈裟斬り!
ゲオルは慌てて飛び退き躱すが、皮一枚抉られ、血が出る。
「!!……テメェ…!!」
(くそッ!こいつ強い!……しかも中距離からの援護もあると厄介だ!)
一方傑は
(いける!俺1人じゃ厳しいかもだけど、相手はミユさんの能力にも気を配っているから、この態勢なら勝てる!)
一気に決める!
そう、傑とミユが思った時だった。
「何を手こずっているのですかゲオル」
ミユの背後に死神。
ミユは自分の身体を見下ろす。
剣が、深々と突き刺されていた。
「…あっ……」
「ミユさん!!!」
剣が引き抜かれ、ミユはその場にうずくまる。
「致命傷は避けましたか。では……さようなら」
「やめろーーーー!!」
傑は時間軸をズラす能力をフルに発動。
剣を振り下ろそうとするソフィーに肉薄する。
だが……
(なっ!?)
時間軸が引き延ばされた世界でソフィーは当たり前のように反応し迎撃体勢。
ガキィイイイイイン!!
「ほう、なかなかのスピードだ」
(この人、速い!多分このスピードで動くのが「当たり前」なんだ)
マズイ、それが事実なら俺の力量ではこの人には及ばない!
「隊長!いくらアンタでも邪魔は許さねぇぞ!」
ゲオルは、自身のプライドに触れたのか激昂し詰め寄るが
「…黙りなさい」
ゴウ!!
とソフィーの殺気が膨れ上がる!
「……ッ!」
(なんて圧倒的なオーラと殺気なんだ!この人何者!?さっき、隊長って言ってた……まさか……)
その殺気には流石のゲオルも動きが止まる。
「わからない貴方ではないでしょう?貴方ではこの2人相手では及ばない。だから私が片方を始末したのですよ?」
女は淡々と語る。鍔迫り合いをしている俺のことなど無視しているかのようだ。
もう一度時間軸をズラす!
ぐんと、その会話の隙にミユさんを抱き抱えようとするが、
「させませんよ」
回り込まれ、またもや鍔迫り合いになる!
(速い!)
ダメだ。俺の全開より速いこの人相手に、出し抜くことはほぼ不可能。
ミユさんは何とか出血は塞いでいるみたいだが、もう、戦闘出来るような状態じゃない!
「貴方も奇妙な能力を使うのですね……!この刀は…!!」
ガキィイイイイイン!!
力を込めて相手を吹き飛ばす。
お互いの距離は10メートル。
どうする?まずはミユさんの安全確保。
たが、相手は2人。
こちらは手負いの1人を抱えた2人。実質マイナスといってもいい。
「ゲオル……あの刀は……カミシロさんの…」
「ああ、俺もさっき確認した」
しかし、相手はよっぽど、この刀が気になるようだ。
さっきもそのおかげで距離を取れたし、
「では………生きているのですね。隊長は………」
「元だがな」
何の話だ?隊長?
それってこの女の人じゃないのか?
「少年、1つ聞きます。この刀を貴方に託したのは、カミシロ・ジュンですね?」
ジュンさんのことなのだろうか?カミシロ?
「答える義務は無い」
どちらにしろ、相手に情報を与える必要はない。
「そうですか……なら消えなさい」
フッと姿が消える。
引き延ばされた時間の中で、俺は思考を巡らせる。
ミユさんが何か能力を使ってる。
おそらく俺達2人を覆う血の壁だ。
これなら相手の初手は防げるだろう。
だが、その後はどうする?手負いの味方を連れて逃げれる相手ではない。
相手はナンバーズの隊長。
その戦闘力はおそらく、葵さんに匹敵するだろう。中途半端な攻撃は通じない。俺の眼を使った攻防でもこの人には届かない。
ここまで思考したところで相手の攻撃が血の壁に激突する。
相手は俺の右、首を狙った攻撃だったけど、予想通りにミユさんの壁で止まっている。だが、長くは保たない。
(相手の予想を上回り、なおかつ意外な方法、とにかく時間を稼ぎたい……)
大樹さんも今ごろカナさんと合流し、戦っているはずである。2対1なら勝機はある。時間を稼げば援護に来てくれるかもしれない!
(……待てよ、たしかこの剣……)
「それは相手の魔力を吸い取る魔剣さ」
てことは、さっきのゲオルの雷の攻撃と……
「そうか……!!」
俺は剣を水平に持ち、眼で剣を視る!!
すると、
(やっぱりだ!剣の中に相手の魔力が渦巻いてる!……しかも何だ?この剣の、この感じは……血の壁を食べたがってる?)
俺は血の壁に北斗七星を突き込む!
すると
ズズズズズ!
と北斗七星が血の壁を吸収する。
「なっ…!?」
ミユさんの驚愕。
攻撃をしたソフィーもこれには表情を変える。
その隙を狙い、血の赤いオーラを纏った剣をソフィーに叩きつける!
「……!!」
ガキィイイイイイン!!
受けるソフィーだが、
「なに!?」
剣から伸びた血のオーラが、左右からソフィーを襲う!
「くっ…!!」
ソフィーは持ち前の超速スピードで後退する。
俺は北斗七星を掲げて投擲のポーズ
「テメー!まさか!!」
ゲオルが気づくが、投げる!野球をやっていた俺には得意の分野だ。
そして投げられた北斗七星は今度は帯電しながら速度を上げてソフィーに迫る。
そう、これは先程のゲオルの技を模倣したものだ!
帯電だけではなく、ミユさんの血のオーラも纏っているので、おそらくオリジナルよりも強く速い!!
「…ッ!!!!」
逃げないソフィー。この技が回避不可能なのを彼女は咄嗟に気づき、剣で受けきろうとする。
(無駄だ!この威力なら!)
貫ける!そう思ったのだが、
相手も怪物。
ソフィーは剣に北斗七星が当たった瞬間
まさに紙一重のタイミングで剣を引く!
自身の身体を左に剣を右に持っていく!
そして、北斗七星の威力を使い自身は独楽のようにその場で5回転!あまりの速さと威力に地面が掘れるが、エネルギーを回転で受け流したソフィーはノーダメージ!
北斗七星も威力を吸収されたのか力無く地面に落ちた。
「『守の舞い・花びら』この技を使うのは久方ぶり………!」
俺はその隙に血の短剣を手に時間軸をズラして肉薄!
ミユさんが今の攻防の間に最後の力を振り絞って作ってくれたものだ。
「おおおおお!!」
キィイイイン!!
だが、
「……まったく、貴方達は奇襲が好きですね?」
防がれた!マズイ!これ以上打つ手が……
「ですがまずは………」
フッと近距離にいたソフィーが消える!
(どこに?………!!!)
「ミユさん逃げろ!!」
咄嗟に後ろに走り出す。
座り込むミユさんの後ろに死神。
「あっ…」
「貴女からです」
剣が振り下ろされる。
「やめろーーーー!!」
ダメだ届かない!斬られる!!
俺が諦めた時だった。
「人のオモ……仲間に、何してくれとんじゃーーーー!!」
ドゴオオオオオン!!とものすごいスピードで、ソフィーの横から誰かが突撃し、ソフィーがその攻撃で吹き飛ぶ!!
ミユさんはその人を見上げ、
「葵…さん」
「ごめん、2人共。遅くなった」
葵さんが来てくれた!!
よし!助かった!これなら……
「邪魔すんじゃねぇよ!女ぁー!!」
と、瞬時に葵さんの背後を取ったゲオルが槍で攻撃する。
「待ちなさい!!ゲオル!!その女は!!」
ソフィーが制止するが攻撃は止まらない!
バチイイイイ!!
(槍が止まっ…!!)
「私、今怒ってるんだよね」
ゴッ!!
と葵の掌底がゲオルの鳩尾に炸裂!
「ゴハ……!!」
血を吐くゲオル。
しかし、葵さんは追撃を止めない。
「『Firework』(花火)」
ドドドドド!!
瞬時にゲオルの正中線を含めた、人体の急所9箇所に拳のめり込んだ痕が発生。
ガハっ!!
と吐血しながら10m以上飛ばされ
グシャアアア!!
と壁に激突する。
ゲオルの意識は飛んでいる。
いや、このオーラは……おそらく、もう助からない。
「『災厄の魔女』!!」
ソフィーが背後から連続突きを繰り出すが当たらない。
お互い距離を取り
「ソフィー、久しぶり。私のオモ……仲間がお世話になったね」
「それはこちらのセリフです!」
少し冷静さを取り戻したのか、いつもの無表情の葵さんに戻っている。
ただ会話を聞く感じ、知り合い?なのか?
……あとさっきも突っ込みたかったけど、葵さん、俺の事オモチャと言おうとしてませんかい?
「あとその名前やめてよね。もう、ずいぶん昔の話だしさ」
「私にとっては、いつまでも貴女は魔女です。この…汚らわしい悪魔め…!」
感情的になっていたソフィーだが、仲間の亡骸を見て息を吐き
「貴女は私が手を下したいのは山々ですが、今日は貴女を標的としてこの遮絶を張りました。わかっていますよね?」
すると彼女は何か巻物のような物を地面に投げ、
「ネロ。出番ですよ」
『おお、標的が現れましたか。それでは早速』
巻物からネロが4人出てくる!?
いや、これは映像だ。ただ何をする気だ?
『あらゆる厄災、穢れを燃やし奉る……』
何か魔術が発動しようとしているのがわかるが、結界全体がネロの魔術であるため、どこからくるかが、わからない!
『封印結界・四方陣紫炎(しほうじんしえん)!!』
ネロが呪文を唱えた瞬間、距離感がボヤける!葵さんだけが4人のネロに囲まれた状態?になっている。そして紫色の壁が葵さんの四方を囲む!
次の瞬間、距離が広がり、結界の広さが30m四方くらいに広がった!
「葵さん…!!」
助けに動こうとする俺を葵さんが止める!
『来ちゃダメだよ。これは封印結界。しかもこの結界は1対1を強制するやつなんだ。解除方法は1つ、相手を倒すこと。………でも誰がやるつもり?ソフィーが相手でも私は構わないけど?』
しかし、ソフィーは首を振り
「いえ、貴女の相手はすでに「結界の中にいます」よ?」
ハッと葵も今気づいたのか。自身の正面を見据える。
気づかなかった?あの葵さんが?
そこには……
「紹介します。彼はナンバーズの10『正体不明(アンノウン)』私達の世界でミニュール地方を恐怖に陥れた怪物です」
真っ黒な輪郭もわからない二足歩行の化物がいた。
傑がミユと合流し、ゲオルとのバトルを始めたあたり。
「………翼はどこかな?」
『拒絶』の能力を応用した高速移動で、葵は重傷もしくは死んでいる翼を回収するために遮絶内を奔走していた。
少し離れた位置で激突している気配は感じるが、それを無視し(戦っている仲間を信頼している)ひた走る。
「……いた!」
葵はすぐに翼の容態を確認。
「翼、聞こえる?」
「……………」
反応はない。
(心臓を刺されてる。これじゃ……)
翼を抱き起こしながら、そのあまりにも深い致命傷に葵は最悪のパターンを想定した。
しかし
トクントクン
「……ん?……これって」
翼の心臓が脈動している。
ありえない、これだけ深々と抉られて心臓が動くはずは…………
「…!…そっか!能力で動かしてる!」
翼の能力は『振動』
その振動で刺された心臓を無理矢理に動かしているのだ!
葵は救命措置を開始。
まずは動くことによって、溢れてくる心臓からの出血を『拒絶』の能力の応用で逆に出血せずに身体を巡るようにする。傷は治癒魔術で塞ぐ。
(これで何とか意識が戻れば……)
「………あ…おい……さん?」
「!!……喋らなくていい。頷きだけで返して。よく頑張ったね……傷は今塞がったばかりだから、ゆっくり呼吸を心がけて、動いちゃ駄目だよ」
コク。
頷きで返してくる。どうやら峠は越えたらしい。
「それにしても君が敗れるなんて、ジュンも言ってたけど、ナンバーズの上位が来てるんだね?」
コク。
頷く翼は指を1本立てる。
「ナンバーズ1…………ソフィーか……よく生きてたね、いや死んでたのか。後は私に任せて……」
君は休んでなさい。と葵は言う。
しかし、翼は心配そうな顔を向ける。
無理もない。
ソフィーは怪物だ。
自分があれほど手も足も出なかったのだ。
「…心配してるの?……大丈夫だよ」
葵はそっと翼を地面に横たわらせて
「私を殺せるのは、1人しかいないの」
ニコッ
と満面の笑みを向けたのだった。
一方こちらは傑とミユ。
槍の達人ゲオルとの壮絶なバトルが繰り広げられていた。
「らぁあああ!!」
烈火の如く吹き荒れる槍の乱舞を、傑が近接戦闘で受けてたっている。
(視える!……こんなの葵さんとの訓練に比べれば…!!)
突きを剣で受け流し、薙ぎ払いをしゃがんで躱し、完璧に捌いていく。
(…このガキ!やりやがる!!)
ゲオルもことここに至って、傑の近接戦の強さに舌を巻いていた。
ある意味、戦闘面では最強に近い葵との毎日の訓練(毎日ボコボコにされていた)が、傑の特殊な眼だけではなく、基礎戦闘力も短期間で飛躍的に上昇させていた。
特に近い間合いでの戦闘になるほど、眼が活きてくるので、傑自身は気づいていないが、いつの間にか守護者の中でも、葵に次ぐ近接戦闘のスペシャリストになっていた。
「流れ星(スター)!!」
そこへ、中距離からのミユの援護!
「ちっ……!!」
後退せざるをえないゲオルの間合いに……
「なに……!?」
傑が滑り込む。
時間軸をズラすこの技は、使うと一時動けなくなるリスクはあるが、使い続けるうちに徐々に体が慣れてきていて、一瞬での使用なら連発出来るようにはなってきている。
「ハァアアア!!」
胸元を狙った袈裟斬り!
ゲオルは慌てて飛び退き躱すが、皮一枚抉られ、血が出る。
「!!……テメェ…!!」
(くそッ!こいつ強い!……しかも中距離からの援護もあると厄介だ!)
一方傑は
(いける!俺1人じゃ厳しいかもだけど、相手はミユさんの能力にも気を配っているから、この態勢なら勝てる!)
一気に決める!
そう、傑とミユが思った時だった。
「何を手こずっているのですかゲオル」
ミユの背後に死神。
ミユは自分の身体を見下ろす。
剣が、深々と突き刺されていた。
「…あっ……」
「ミユさん!!!」
剣が引き抜かれ、ミユはその場にうずくまる。
「致命傷は避けましたか。では……さようなら」
「やめろーーーー!!」
傑は時間軸をズラす能力をフルに発動。
剣を振り下ろそうとするソフィーに肉薄する。
だが……
(なっ!?)
時間軸が引き延ばされた世界でソフィーは当たり前のように反応し迎撃体勢。
ガキィイイイイイン!!
「ほう、なかなかのスピードだ」
(この人、速い!多分このスピードで動くのが「当たり前」なんだ)
マズイ、それが事実なら俺の力量ではこの人には及ばない!
「隊長!いくらアンタでも邪魔は許さねぇぞ!」
ゲオルは、自身のプライドに触れたのか激昂し詰め寄るが
「…黙りなさい」
ゴウ!!
とソフィーの殺気が膨れ上がる!
「……ッ!」
(なんて圧倒的なオーラと殺気なんだ!この人何者!?さっき、隊長って言ってた……まさか……)
その殺気には流石のゲオルも動きが止まる。
「わからない貴方ではないでしょう?貴方ではこの2人相手では及ばない。だから私が片方を始末したのですよ?」
女は淡々と語る。鍔迫り合いをしている俺のことなど無視しているかのようだ。
もう一度時間軸をズラす!
ぐんと、その会話の隙にミユさんを抱き抱えようとするが、
「させませんよ」
回り込まれ、またもや鍔迫り合いになる!
(速い!)
ダメだ。俺の全開より速いこの人相手に、出し抜くことはほぼ不可能。
ミユさんは何とか出血は塞いでいるみたいだが、もう、戦闘出来るような状態じゃない!
「貴方も奇妙な能力を使うのですね……!この刀は…!!」
ガキィイイイイイン!!
力を込めて相手を吹き飛ばす。
お互いの距離は10メートル。
どうする?まずはミユさんの安全確保。
たが、相手は2人。
こちらは手負いの1人を抱えた2人。実質マイナスといってもいい。
「ゲオル……あの刀は……カミシロさんの…」
「ああ、俺もさっき確認した」
しかし、相手はよっぽど、この刀が気になるようだ。
さっきもそのおかげで距離を取れたし、
「では………生きているのですね。隊長は………」
「元だがな」
何の話だ?隊長?
それってこの女の人じゃないのか?
「少年、1つ聞きます。この刀を貴方に託したのは、カミシロ・ジュンですね?」
ジュンさんのことなのだろうか?カミシロ?
「答える義務は無い」
どちらにしろ、相手に情報を与える必要はない。
「そうですか……なら消えなさい」
フッと姿が消える。
引き延ばされた時間の中で、俺は思考を巡らせる。
ミユさんが何か能力を使ってる。
おそらく俺達2人を覆う血の壁だ。
これなら相手の初手は防げるだろう。
だが、その後はどうする?手負いの味方を連れて逃げれる相手ではない。
相手はナンバーズの隊長。
その戦闘力はおそらく、葵さんに匹敵するだろう。中途半端な攻撃は通じない。俺の眼を使った攻防でもこの人には届かない。
ここまで思考したところで相手の攻撃が血の壁に激突する。
相手は俺の右、首を狙った攻撃だったけど、予想通りにミユさんの壁で止まっている。だが、長くは保たない。
(相手の予想を上回り、なおかつ意外な方法、とにかく時間を稼ぎたい……)
大樹さんも今ごろカナさんと合流し、戦っているはずである。2対1なら勝機はある。時間を稼げば援護に来てくれるかもしれない!
(……待てよ、たしかこの剣……)
「それは相手の魔力を吸い取る魔剣さ」
てことは、さっきのゲオルの雷の攻撃と……
「そうか……!!」
俺は剣を水平に持ち、眼で剣を視る!!
すると、
(やっぱりだ!剣の中に相手の魔力が渦巻いてる!……しかも何だ?この剣の、この感じは……血の壁を食べたがってる?)
俺は血の壁に北斗七星を突き込む!
すると
ズズズズズ!
と北斗七星が血の壁を吸収する。
「なっ…!?」
ミユさんの驚愕。
攻撃をしたソフィーもこれには表情を変える。
その隙を狙い、血の赤いオーラを纏った剣をソフィーに叩きつける!
「……!!」
ガキィイイイイイン!!
受けるソフィーだが、
「なに!?」
剣から伸びた血のオーラが、左右からソフィーを襲う!
「くっ…!!」
ソフィーは持ち前の超速スピードで後退する。
俺は北斗七星を掲げて投擲のポーズ
「テメー!まさか!!」
ゲオルが気づくが、投げる!野球をやっていた俺には得意の分野だ。
そして投げられた北斗七星は今度は帯電しながら速度を上げてソフィーに迫る。
そう、これは先程のゲオルの技を模倣したものだ!
帯電だけではなく、ミユさんの血のオーラも纏っているので、おそらくオリジナルよりも強く速い!!
「…ッ!!!!」
逃げないソフィー。この技が回避不可能なのを彼女は咄嗟に気づき、剣で受けきろうとする。
(無駄だ!この威力なら!)
貫ける!そう思ったのだが、
相手も怪物。
ソフィーは剣に北斗七星が当たった瞬間
まさに紙一重のタイミングで剣を引く!
自身の身体を左に剣を右に持っていく!
そして、北斗七星の威力を使い自身は独楽のようにその場で5回転!あまりの速さと威力に地面が掘れるが、エネルギーを回転で受け流したソフィーはノーダメージ!
北斗七星も威力を吸収されたのか力無く地面に落ちた。
「『守の舞い・花びら』この技を使うのは久方ぶり………!」
俺はその隙に血の短剣を手に時間軸をズラして肉薄!
ミユさんが今の攻防の間に最後の力を振り絞って作ってくれたものだ。
「おおおおお!!」
キィイイイン!!
だが、
「……まったく、貴方達は奇襲が好きですね?」
防がれた!マズイ!これ以上打つ手が……
「ですがまずは………」
フッと近距離にいたソフィーが消える!
(どこに?………!!!)
「ミユさん逃げろ!!」
咄嗟に後ろに走り出す。
座り込むミユさんの後ろに死神。
「あっ…」
「貴女からです」
剣が振り下ろされる。
「やめろーーーー!!」
ダメだ届かない!斬られる!!
俺が諦めた時だった。
「人のオモ……仲間に、何してくれとんじゃーーーー!!」
ドゴオオオオオン!!とものすごいスピードで、ソフィーの横から誰かが突撃し、ソフィーがその攻撃で吹き飛ぶ!!
ミユさんはその人を見上げ、
「葵…さん」
「ごめん、2人共。遅くなった」
葵さんが来てくれた!!
よし!助かった!これなら……
「邪魔すんじゃねぇよ!女ぁー!!」
と、瞬時に葵さんの背後を取ったゲオルが槍で攻撃する。
「待ちなさい!!ゲオル!!その女は!!」
ソフィーが制止するが攻撃は止まらない!
バチイイイイ!!
(槍が止まっ…!!)
「私、今怒ってるんだよね」
ゴッ!!
と葵の掌底がゲオルの鳩尾に炸裂!
「ゴハ……!!」
血を吐くゲオル。
しかし、葵さんは追撃を止めない。
「『Firework』(花火)」
ドドドドド!!
瞬時にゲオルの正中線を含めた、人体の急所9箇所に拳のめり込んだ痕が発生。
ガハっ!!
と吐血しながら10m以上飛ばされ
グシャアアア!!
と壁に激突する。
ゲオルの意識は飛んでいる。
いや、このオーラは……おそらく、もう助からない。
「『災厄の魔女』!!」
ソフィーが背後から連続突きを繰り出すが当たらない。
お互い距離を取り
「ソフィー、久しぶり。私のオモ……仲間がお世話になったね」
「それはこちらのセリフです!」
少し冷静さを取り戻したのか、いつもの無表情の葵さんに戻っている。
ただ会話を聞く感じ、知り合い?なのか?
……あとさっきも突っ込みたかったけど、葵さん、俺の事オモチャと言おうとしてませんかい?
「あとその名前やめてよね。もう、ずいぶん昔の話だしさ」
「私にとっては、いつまでも貴女は魔女です。この…汚らわしい悪魔め…!」
感情的になっていたソフィーだが、仲間の亡骸を見て息を吐き
「貴女は私が手を下したいのは山々ですが、今日は貴女を標的としてこの遮絶を張りました。わかっていますよね?」
すると彼女は何か巻物のような物を地面に投げ、
「ネロ。出番ですよ」
『おお、標的が現れましたか。それでは早速』
巻物からネロが4人出てくる!?
いや、これは映像だ。ただ何をする気だ?
『あらゆる厄災、穢れを燃やし奉る……』
何か魔術が発動しようとしているのがわかるが、結界全体がネロの魔術であるため、どこからくるかが、わからない!
『封印結界・四方陣紫炎(しほうじんしえん)!!』
ネロが呪文を唱えた瞬間、距離感がボヤける!葵さんだけが4人のネロに囲まれた状態?になっている。そして紫色の壁が葵さんの四方を囲む!
次の瞬間、距離が広がり、結界の広さが30m四方くらいに広がった!
「葵さん…!!」
助けに動こうとする俺を葵さんが止める!
『来ちゃダメだよ。これは封印結界。しかもこの結界は1対1を強制するやつなんだ。解除方法は1つ、相手を倒すこと。………でも誰がやるつもり?ソフィーが相手でも私は構わないけど?』
しかし、ソフィーは首を振り
「いえ、貴女の相手はすでに「結界の中にいます」よ?」
ハッと葵も今気づいたのか。自身の正面を見据える。
気づかなかった?あの葵さんが?
そこには……
「紹介します。彼はナンバーズの10『正体不明(アンノウン)』私達の世界でミニュール地方を恐怖に陥れた怪物です」
真っ黒な輪郭もわからない二足歩行の化物がいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる