拝啓、空の彼方のあなたへ -1000の手紙-

emi

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2017年

出発

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あなたへ

先日、あなたに、この家を引っ越すと報告してから、
随分と時間が掛かってしまいましたが、
明日、この家から、出発します。

あなたは、初めて、この家を見に来た日のことを、覚えていますか?

ここには、家具を置こうか とか、
ここには、テレビを置こうか とか、
これから、始まる2人の生活に、ワクワクしながら、
部屋を見て回ったこと、
昨日のことのように、覚えています。

この家で、初めて、あなたを起こした朝は、
ちょっと緊張してしまいましたが、
あの朝、あなたは、目を覚ますなり、
笑顔で、私を見つめてくれたんでしたっけ。

初々しかった私達。

そんなふうに、この家で、私達の新婚生活が始まっていきました。

あなたと私、2人の生活から、やがて、あの子が生まれ、
私達は、パパとママになりましたね。

そうして、この家には、あの子の物が増え、
私達の笑顔も、より一層、増えていきました。

あの子が小さな頃には、あの子の好きな絵を、たくさん飾りましたね。
絵を指差しながら、
覚えたての言葉で一生懸命にお話してくれた小さなあの子は、
本当に、可愛かった。

あの子の成長に合わせて、模様替えをしたり、
どうしたら、あの子が安全に成長出来るかを考えて、
部屋のものを、少しずつ変えていきましたね。

小さな庭のあるこの家は、あの子を育てるのに、
とてもいい環境だったと思います。

毎年立てた鯉のぼり。
あの子は本当に、楽しみにしていましたね。

お手伝いする

そんなふうに言っては、
小さな手で、一生懸命、鯉のぼりを運んでくれたあの子から、
重いポールを運んだり、ポールの角度を確認したりと、
立派にお手伝いが出来るあの子へと、成長していきました。

いつの頃からか、あなたは、毎年、野菜の苗を植えてくれるようになりましたね。
トマト、なす、オクラ。
ピーマンは、苦手だから、いらないって言ったのに、
好き嫌いは、いけません なんて、ピーマンの苗も植えてくれたあなた。
思えば私は、あの頃から、少しずつ、ピーマンが好きになっていきました。

あの子と一緒に、実った野菜を収穫しながら、
植物に、触れ合う機会を持たせることができましたね。

プール遊び、花火、星の観察。

針金で作ったあなたお手製の輪で、
大きなシャボン玉作りにも挑戦しましたね。

雪が降った日には、庭に積もった雪に、
大はしゃぎしながら、3人で雪遊びをしました。

きっと、どこにでもある、ありふれた私達の毎日。

でも、その毎日は、1日として、同じ日はなくて、
毎日がキラキラと、輝いた素敵な毎日でした。

この家で、私達のいくつもの誕生日を迎え、
ケーキに立てたキャンドルに火を灯しながら、
素敵な1年になりますようにと、願いましたね。

毎年、1本ずつ、増えていくキャンドルの数だけ、
私達の幸せも、増えていきました。

あなたと、たくさん喧嘩もしたけれど、
喧嘩した数だけ、仲直りもしました。

そうして、恋人から、家族へと絆を深めていきましたね。

あなたとあの子と私。
この家は、家族3人の場所でした。

あなたをそちら側へ送り出してから、時々ね、
あの頃みたいに、ドアを開けて、
ただいまって、あなたが帰って来る気がして、
いつまでも、ドアを見つめました。

あなたがいつもの席で、笑っているような気がして、
誰もいないあなたの席を、いつまでも、見つめました。

ずっと、こんなふうに、あなたがいる気がするまま、
ここで過ごしていたくて、
なかなか踏み出せなかった一歩。

本当は、どこにも行きたくないけれど、明日、ここから出発します。

この家で、過ごした毎日。
本当に、楽しかったですね。

たくさん迷って、悩んで、泣いて、
やっと、ここまで来た私ですが、
大丈夫
そんなふうに、あなたに、背中を押されていた気がします。

何処へ行っても、私達は、3人家族。
時間は掛かりましたが、シンプルな答えを見つけました。

だから、きっと、大丈夫。


2017.01.22
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