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第6章 消された奥様のデスゲーム

58 吃驚 葉子 最強最悪最終者

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私って?
周りはみんなで盛り上がっている。
私は、その勢いに巻き込まれたと思っている。
トモエ天国に来てもそう思っているから、みんなと違って消極的。
シナリオに従ってシナリオをするのもいいけれど、それじゃあ、面白くない。
子供も夫もいた。いつだったか分からないけれど、突然、自分が自分ではなくなったように感じた。
でも、反射的に、昔の私的(わたしてき)対応はできるようだ。
子供も夫も、一緒に暮らしているせいか、私の異常な状態には気が付いている。いや、気が付いているのとは違うかもしれない。記憶喪失?ある時から過去が全く思い出せない。その時は、この世界が”おかしな世界”に変化したその時。変化したことに、強い衝撃を受けたのだと思うが、それが記憶喪失の原因とも言い難い気分。

ここに来れば、私の事を分かってくれる人が絶対いると、ぼんやりしながら考えて、ここまで来てみた。
トモエ天国の創始者、天 ともえ。
見ているうちに、勝てないと思ってしまった。仕方がないとも。でも、そんなことを思う私は何だろうと考えても全く分からなかった。
ミーティングが終わって、少しずつ人がいなくなっていく。私も部屋に行くことにして、その場から出た。しかし、その通路に何か親近感を覚えた。理由は不明。でも、この通路を何回も、いや何十回も、もしかするとそれ以上見たような気がしていた。
そして、部屋の前を通り過ぎ、確信するまでにいかないけれど、漠然とした記憶の糸があるような気がして、そちらの方へ歩いていく。
通路のあちこちにカードキーを入れる場所がある。通路自体に扉があるようには見えない。でも、そのカードキーのすぐ先に、見えない壁みたいなのがあるように感じる。その手前まで行ってみた。カードキーはないけれど、なんだかそのまま通過できそうな気がした。試しに腕を伸ばしてみると、少し抵抗があるけど、強く腕を伸ばすと向こう側にいけた。身体全体で当たっていくと、少しの抵抗で通過することができた。それを何回か繰り返すと、通路は左右の壁と同じ材質のような壁で終わっていた。カードキーなどもない。でも、その先に絶対行くことができる。さっきまでの漠然としたものではなくて、確信的な記憶の糸があったので、壁はないものと、向こう側に行けると思ってそのまま直進。結果、その壁を通り過ぎて、壁の向こうにあった薄暗い部屋に到達した。
中では、大型モニターのようなものに、奥さまたちのシナリオ参加中の姿が映っている。左右にフォルダが表示されていて、奥さまの名前のフォルダが何個もあった。ここはどこなのだろう。
ぼんやりと消えてしまったと思った記憶が浮かんできた。
私は、”おかしな世界”になる前の世界の”管理者”だった。夫と子供と思っていた2人も”管理者”という同僚。元々は違う世界に住んでいたとしても、数億年という短い間の仕事仲間だった。ともえが、うっかりミスでこの世界を変容させた影響で、記憶と管理能力のほとんどを失ってしまった。その力の一辺が、最後の任務のために浮き上がってきた。引継ぎ先は、ともえ、核脳(コア・ブレイン)、代理管理者である”ことちゃん”。引継ぎ元は、私を含めた3名。これが終われば、任務完了となり、それぞれの世界へ帰還する。一定期間の休暇ののち、それぞれ別々の場所へ再配属されることになるのだろう。

思い出した記憶から、シナリオ監視室を出て転送室へ移動。転送機を作動させて、”おかしな世界”に変容する前の地球の状態を保っている、”おかしな世界”から少し離れた場所に降り立った。既に、同僚2人も到着しているようだ。
ぽかぽかと温かく、吹く風も柔らかい感じがする一面草原のようなところで、引継ぎが始まった。引継ぎと言っても大したことをするわけではない。単に、挨拶だけ。
”あとはお願い”、”確かに引き継ぎました。あとは、お任せください”という感じ。あとは、雑談。核脳は、人型端末を寄越していた。ことちゃんは、出産直後らしく、本人が来れないということで、実体がはっきり分からないガス状生命体の依り代に集合意識体が乗って来た。
ともえから、謝罪の言葉が出たけれど、既に終わってしまったこと。私たちから何を言っても意味はない。

ともえからは、最後ということなので、トモエ天国で遊んではどうかと提案があった。
しかし、私の記憶と力は、加速度的に忘れてしまう。この世界にとって、私は異物。長時間いることで、記憶と力だけではなく、私自身も消えてしまう。だから、丁重にお断りをして、同僚達とこの世界を離れる。所属元へ帰り、次の任務に備えることとしたいとともえに。残念そうな顔をしていたけれど、決意は固いと分かったともえは、そこから旅立つ私たち3人を見守っていた。
私を含めた3人の身体が輝き始める。
肉の鎧を脱ぎ捨てて、魂だけの存在になったことで、従来の記憶と能力を取り戻して、”おかしな世界”から、旅立った…はずだった。

で、なぜ、ともえの作ったシナリオ内にいる?同僚2人も、すぐに気が付いた。
魂だけの存在から、明らかに違う情報を魂の周囲に巡らせていた。緊急モードで、シナリオ監視室を呼び出す。ともえが大口を開けているのが”見える”。予想だにしていなかったようだ。
あそこまで、盛り上げて(?)別れも演出したのに、面目丸つぶれ。
結果、かなりキレたのかもしれない。同僚2人も、同調したので、その世界が何であろうとも、山を削って、海を埋め立てて、自然環境の破壊に努めようと活動を開始した。

そのシナリオの世界のことを、デスゲームと言っている。

無論、そのことを知ったのは、山を吹き飛ばしてしまった後だった。
でも、止めるつもりはないし、最終目標はこの世界の平地化。ともえ、イチ押しの世界を面白い世界にしてやろうと…
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