約束の続き

夜空のかけら

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第9章 理の使命2

79 白い光

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パン屋の中に併設されたカフェでやっと一息付けたという感じで、くつろいでいたら、コップが出された。中身はないけれど。
入れ忘れたのかな?と、戻ってきたパン屋の主人。トリアさんに、
「あの~、コップを渡されたのですが、中身がない…のですけど。」
「ああ、すみません。この街の住民のつもりで、渡してしまいました。飲み物は、自分で選べるんですよ。」
「自分で選ぶんですか?飲み物によって、値段が違うと思うのですが。」
「いいえ、無料ですよ。何杯飲んでも。最も、お酒類はありませんけれど。」
「え!無料なんですか。それは、すごいサービスですね。よほど、儲かっているんですね。」
「いえいえ、儲かるとか、関係ありませんから。この商売は。」
「関係ない?」
「そうです。ああ、この街の説明をしていった方がいいですね。ですので、私からこの街自慢をさせてください。」
あいつが、それはやめてくれといううんざりした顔で
「自慢話を言いたいがために、ここへ呼んだのか。親切心とは違うなら、街の中を歩きたいから、ここを出るぞ。」
少し威圧を掛けたようだったが、トリアさん動じず。
「ここならいいですけれど、街の中で威圧を放たないで下さいね。強制排除させられますよ。」
「ふん、こっちも一応神だ。簡単に強制排除などできる訳がな…い?」
威圧が突然消えた。あいつも、自分から消した訳じゃないと、戸惑っている。
すると、トリアさんが、
「あちゃー、あれだけ演出を考えたのに、主役登場か?」
店の奥から、いかにも魔法使いという恰好をしたお姉さんが出てきた。うーん、お姉ちゃんと似てる?
「はぁ、物騒ね。厄介ごとが増える前に、厄介な能力は封じさせていただきました。トリア、私は後ろで見ているから、いつも通りで。」
「悪いな、では、こっちは置いておいて、この街のことだ。」
そういうと、トリアさんは、この街について話を始めた。
記憶力のなさから、頭の中で整理を始めると、なぜか箇条書き。

この街、実は名前がない。
名前を付けると、隠蔽率が下がってしまうため、あえて付けていない。
だから、各々勝手に街の名前を付けている。
ここに住んでいる人はもちろん、街の近くにある地下迷宮に入る人については、全員、なんらかの仕事に就く事が義務化されている。しかも6歳以上が対象。
仕事に就くためには、国家検定を受けて合格し続けている、適性判定士の資格が必要。
この資格名も、みんな色々名付けている。
後ろに座っているお姉さんも、そうなんだって。
パン屋の話になった。
なんと、パン屋は国家から販売許可を受けたところだけができる仕事だった。だから、真向いのパン屋さんもライバルではなくて、パンの種類が多少違う系列店という位置づけ。
パンの値段は、極端に低い。国から、パン屋自体の運営や賃金、補助金や支給金が結構な額をもらっている。
パン屋は、この街の中に40軒ほどあり、各地区に1つずつくらいはあるんだとか。
だから、地区代表という形で街の案内や治安組織の地区長までやっているという。
「正直なところ、なんでもかんでもパン屋の主人に任せるのはどうなんだ?というのはあります。でも、国営のパン屋みたないところが大きいので、それも仕方がないかな…と。他にも理由はありますけれどね。」
あいつが、その”他”の部分が気になったのだろう
「他の理由とは?」
「嫌だな、あえて隠そうとしたところを突かないで下さいよ。」
と、なぜか喜んでいる。
これは、突っ込んでもらえて嬉しいということかな。と、トリアさんの方を見る
「当たり。」
との発言。
なんだか、脱力感が。
「この街は、仕事をする場所がそれこそ星の数ほどあります。仕事をする人…いや人ではないものもいますが、ここで仕事をするならば、待遇は変わりません。一応、ここが王都の城下街という位置づけですが、ここ以外の街は、少なくともこの周囲にはありませんし、国境も存在しません。」
あいつは、驚いている。何を驚く必要があるんだろ。
「国境がない?周囲にも、ここ以外に街はない?それじゃあ、ここ以外に行くところがないということか?」
その言葉に、はっと思った。3人で旅をするはずが、ここで終わり?ということに。
「ええ、ここに入った以上、ここから他へ行くことはできません。街から、ある程度離れると、いつの間にかに街に向かって歩いていることになります。」
「すると、ここの住民も、ここから離れられないということか。いや、おかしいぞ。地下迷宮に入る人もこの街の人だけではないはずだ。」
「ええ、そうです。街から離れられないのは、あなた方3人です。」
「おい、どういうことだ。事によっては、ここで暴れてもいいんだぞ。」
すると、トリアさんの後ろに座っていた魔法使いの女性が立ち上がって、
「はぁ、懲りない人ですね。まぁ、暴れられても困りますので、本格的に行きますか。3人ごとでいいんですよね。」
「ああ、悪いな、俺は手伝えそうにないから、証人になってやるよ。あいつも来るだろう。派手になるだろうしな。」
「おい、さっきの話を説明しろ、ここから離れられないというの…。」
あいつの声が途切れた。
魔法使いの女性が、あいつの額に手を触れている。
物凄い赤い光が女性からあいつに流れている。少しずつ強くなると同時に、あいつが呻きだす。そのうちに悲鳴に変わった。周囲を気にする余裕もないようだ。
その時に、その隣から女性の悲鳴が、
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんにも、魔法使いの女性の手が額に触れている。
2人が纏う赤い光はもう、白く見えるほどすさまじいものになっていた。
それを止めてもらおうと、魔法使いの女性に、抱き着いたところ、その白い光が私にも纏わりついてきた。
次の瞬間、私の意識は、その白い光の中に落ちてしまった。
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