約束の続き

夜空のかけら

文字の大きさ
37 / 48
第10章 大事な記憶と魔法のお話

96 護符と神力

しおりを挟む
城壁内には、平民街。
 その城壁の外側には、スラム街が広がっている。

 当たり前だが、家を城壁に接触させてはいけないことになっている。それは、スラム街でも同じなのだが、平民街と違って巡回する訳にも行かず、平民街側の見回りで要件を満たすだろうと考えてしまったことで、自己満足してしまった巡視官が多かった。しかも、城壁の状態を確認するための巡視官は、城壁の大きさから目視だけでもうんざりするらしく、自らの仕事を下請けに出す始末。お金を与えて結果を持ち寄らせ、それを自らの仕事として上司へ報告、こういうものがまかり通っていた。

 平民街でも、城壁と家屋は接していてはいけないことになっていた。しかし、その城壁の石材に注目したあるお店の人が、その壁面を利用する形でかまどを作り、パンを焼き始めた。

 あるお店…パン屋では、大型のかまどを作り、毎日大量のパンを焼く必要がある。かまど も大きいければかまども石材も多くなるが、その1面を城壁で…なら、どうだろうか?もしかして、いけるかも?と思っただれかがやってしまいました。

 ただ、当初は思ったよりも効率が悪かったので、利用はされなかった。
 しかし、ここ最近、考えていた通りの効果が得られるようになってきたことから、城壁密着でパン焼きを始めた。もちろん、巡視官など来ないし、下請けが来たら、お金を渡して便宜を図ってもらうだけのことなのだが。

 かまどの側面代わりの城壁を加熱すると、城壁の反対側、スラム街に接しているその場所も高温になる。高温化は、炎の護符によって行われていて、その護符には、設定温度・時間・範囲などが書き込まれていて、必要となる神力かりょくをセットすれば、書き込まれた通りに作動する。護符は、使用回数&時間に限度があるが、それまでは神力を追加していけば何度でも使えるのが利点だ。

 これらの護符や神力は、そこそこの大きさの街なら、どこでも扱っている、いわゆる定番商品。主要都市にある神殿が製法などを独占していて、神殿が指定する商店でのみ扱えるものだ。

 定番商品だけあって、品ぞろえも様々だが、護符には大きく分けて4種類、ある。
それが、火・風・木・水である。

 売っているもので一番多いのが、火。着火などで使う護符は、その消費する神力も少ないため、わざと耐久性が低く作られていると言われている。神力自体もセットできる回数が少ないものが多い。回数が1とか2などは、ばら売りもあるため、スラム街でも重宝しているらしい。

 次に売れているのは、風。ただし、店先にあってもすぐに売れてしまう。購入しているのは、商人が多いらしい。荷馬車の中で荷物を少し浮かべるために使用するとか。

 木は、固定客にしか売れないという神殿からの通知があるという。入荷と同時に購入打診をする。順繰りに意向確認し、購入者がいない場合は神殿に戻すという。

 水は、店先で売るには高価すぎるため、神殿から売却先が指定される。個人に売るというより街などの水が大量に必要なところに売る。

 神力もその力の配分から何種類かある。瞬発・一般・遅延・持続・強化・万能の6種類。
値段もこの順番で高くなる。瞬発は着火専用。一般はセット数によっては、万能以外のどれにでも利用できる。この中で万能は、神殿が指定する顧客のみの販売。

 神殿には、大神官、神官、聖人、聖女とこれらの世話を行う者…すなわち神従者しんじゅうしゃがいる。護符や神力の製造方法を知っているのは、神官たちだけなので、護符の恩恵にあずかっている者は、神官たちの意向を無視できない。

 神従者は、神官に逆らうことはできない。
 また、神殿内だけで話すことができるようになっていて、神殿の外では声を出すことができないし、街の人も神従者に話しかけるのは、大問題だとされていた。

 人々の暮らしは、神殿が護符などの製法を独占していることで、不公平不公正な売買がない。問題が起きない販売方法で、長年受け入れられてきた。 

***

箱庭 結界結晶前

「本体…よし。」

「バックアップ…よし。」

最近、私の日課の中に組み込まれたのが、この作業。
この箱庭世界から旅に出てしまった…いやいや。旅に出させた、あの子の本体とそのバックアップ体の点検だ。
旅に出るとは言っても、今の身体をこの箱庭から外に出すと、周囲に与える影響がどれくらいになるか分からない。でも、旅に出させないと先に進めない。

 考えた末に出した答えは、本体の完全複写。本体と全く同じものの製造。コピーとかクローンとか、そんな感じ。本体とバックアップ体から抽出した情報で新しい核を作り、これを魂の中核に沿える。魂と認識されないように、系統樹に載らない様に、細工を少し。魂と思われるところに、疑似記憶を入れて、カモフラージュ。見破られることはないと思うけれど、念のため、私が箱庭と障壁を経由して、相手を見れるようにしておいた。

 本人が気が付かないように。

 そして、点検がてらに見ていたことに憤りを感じたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...