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98 還俗

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「良かった。間に合った」

突然部屋に現れたのは、ともえさんでその第一声がこれだった。

「突然来て、何が間に合ったのですか?」
「え、融合異世界のことよ。全部が真っさらになる前に、魔法側だけ分離複写したの。今は、細々とゲームという形で時を刻んでいるわ。これで、しばらくは安泰ね」
「結局、融合異世界は消えてしまったのですか」
「そうね。いつかは消えると思っていたけれど、思ったより早く消滅するっていう測定結果が出たから、ちょっと慌てちゃって。でも、一部でも残ることができたから、今は満足よ」

忘れていたけれど、融合異世界の前の世界はともえさんが趣味で持っていたもの。例えれば、水槽の中にいる金魚みたいな感覚だろう。
2つの水槽のお魚を間違えて、1つにしてしまった的な。
そうなると、一部でも残すことが出来れば、全体ではないものの趣味な世界として利用できるのか?
たぶん。

「これで、前とほぼ同じなものが戻ってきたということね。まぁ、自分の物としてもどった訳では無いけれど、そこはいいわ」
「すると、あの世界に行くことはできなくなるということですか?」
「そうね。私の物として戻ってきた…と言いたいところだけど、行く末を見るために天界と地界の共同管理領域にしたのだから、私の物とは言えなくなってしまったわ。行くことは可能だけど、朝日は行くことは無理でしょうね」
「なぜ?」
「還俗が決定しているからよ」
「還俗。つまり、天使をやめるということですか」
「そうよ。あなたは、あの町に神主見習いとして戻るの。ああでも、この天界にも出入り出来るから少し違うのかもしれないけれど」
「婆ちゃんと同じ」
「…そういえば、そうよね。なぜ気がつかなかったのかしら」

ともえさんは、その事に気がつくとぶつぶつ言っていたがよく聞き取れなかった。

しかし、通り魔が無かったことになって失踪に変わり、天界でこれからずっと暮らしていくものだと思っていたら、ここにきて還俗で町へ戻れるとは思わなかった。

「あ、この姿形のまま戻るのか」

別にあの町から出なければ、事情を知っている人ばかりだから問題がないと思うが、ここ天界と地上では時間の流れが違ったはず。

「サービスで、少し若返りして戻す予定よ。ええと、いくつくらい若返りたい?」
「選べるのかよ」
「10年以内にしてよね。寿命は影響しないから」
「そうか、寿命。いくつまで生きられるのかによるな」
「寿命ないわよ」
「ない?」
「不慮の事故以外なら、100年だろうが1,000年だろうが生きられるわよ。あれ?還俗するのにおかしいわね」
「気がつかなかったのか。最大で10年なら、10年で」
「10年ね。…はい。終了」
「…変わった感じがしないのだが」
「確実に10年分の若返りを実行しました。でも年齢は変えない方がいいわよ」
「まぁいいか」
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